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アパラージタ

 フォラス王国の国境が封鎖されたという話しはすぐに各国に回った。

 皇都に住む者たちにとっては、隣国ではあるがレグルス皇国の方が国力も国土も大きいのであまり関心のない国の事だが、それでも1国がその国境を閉ざしたと言うのは話しのタネにはなるようで、あちらこちらで噂話が飛び交っていた。中には身内や知り合いがフォラスにいる者たちもいて、そういった人たちは不安な日々を送っていた。


「もう、ここにいますよって言ってるようなもんじゃない?」

「だよねぇ。国境閉ざしちゃったら宣伝してるだけな気がする」


 オウル邸では、ナリスとユーリがあきれたような声で会話をしていた。


「2人とも、一応、国同士の友好の危機にまで発展しているのですから、そんなのんきな感想は要りませんよ」


 そうは言うものの、それほど焦ってはいない様子で優雅に紅茶を飲んでいるのは教皇シメオンだ。

 シメオンは箱庭を通って先ほどオウル邸にやってきた。要件はもちろんフォラス王国とレイのことだ。


「シメオン様、フォラスの大神殿に連絡取れたの?」

「無理でしたね。水鏡も妨害にあっているのか一切反応しません。伝書鳥もフォラスに入れずに帰ってきましたので、人を派遣してみましたが、デネブには入れなかったそうです。ですが、地方の小さな神殿には行けたのでそちらで情報を収集したところ、少し面白い事が分かりました」

「なになに?」

「あまり詳しくはわからないそうですが、そこの神殿長がフォラスの大神殿で務めていた事があったそうで、その時に聞いた話しをしてくれました。フォラスの王というのは必ず魔力量が多い者がならなくてはいけないそうです。本来はその者の統治者としての能力度外視で王家に生まれた者の中で最も魔力量が多い者がなるのが習わしなのだそうです。統治者としての能力は周りの人間が補い、王はあくまでも魔力を注ぐ生贄のような存在なのだそうですよ」

「魔力重視なの?統治能力無しでもいいんだー」

「えぇ。ですがそれは戦争を繰り返していた古い時代の考え方だそうで、戦争が終結してからは統治能力込みの選定になっているそうです。その神官曰く、魔力量重視で王という名の生贄を選んでいたのにはちゃんと意味があったそうです。王家すら忘れてしまった意味が、ね」


 その情報を聞いたシメオンは神殿に保管してある古い時代の書物を手が空いている神官総出で読み漁った。少しでもフォラスに関する記述が出てきたら、古語を得意分野にしている神官たちと解釈について議論しながらその文章を解読していった。

 その時こそ、ユーリのスキルである読解が欲しかった時はなかったくらいだ。


「古い資料を調べた結果、フォラスの王宮の奥深くに古い時代の魔法陣が設置してあり、そこに”何か”があるそうです」

「”何か”ってそれは分かんないの?」

「なにせ魔道王国の末期の時代の記述ですし、そこにある存在が何なのかなんて誰も書いてくれていないですからねぇ。見た事ある方はすでにアルマ様の身許にいらっしゃるんじゃないでしょうかね」


 誰も見た事がなくその記述だけがかろうじて残っているだけなのだ。

 だが、フォラス王国はその記述の存在の為だけにその玉座を守ってきたのだ。


「何かが生物なのか、それとも魔法の類なのかそれすらも分かりません。ただ、魔力量で王という名の生贄を選んでいたのですから、少なくとも魔力を必要とする何か、というのは分かります。封印するための魔力なのか、起動させるための魔力なのかが微妙なところですよね」


 各地で戦争が起きていた時代にフォラス王国に設置された魔法陣である以上、とてもじゃないが平和目的のものではないだろう。現にフォラスの王妃はS級冒険者に匹敵するほどの力を得ていた。元は普通の伯爵令嬢であった王妃がS級冒険者と同等かもしくはそれ以上の力を手に入れるなど異常事態でしかない。


「どっちみちお父さんを助けに行かないといけないし、国境を抜けちゃった方が早い?」

「手っ取り早いのはそうですが、大勢だとさすがにバレるので、少人数でひっそりこっそり行かないといけませんよ」

「ひそこそは得意だから大丈夫!!」


 ナリスは断言したが、誰の賛同も得られなかった。


「……誰か何か言ってよー。もー、国境超えはボク1人でやるよー。みんなは箱庭にいてくれれば、適当なところに扉を設定するから」

「その手がありましたか。ですが、さすがに1人にはさせられませんので、セバスかカリアスかクロード、この3人の中から好きなのを選んで一緒に連れて行って下さい」


 本人たちの承諾なしにシメオンは3人をナリスに売った。


「うーんと、クロードさんにしようかな。フォラスに一番縁がなさそうだから、うっかり知り合いとかに会う心配もないし」


 セバスはフォラス暮らしが長く、ラグナ辺境伯家に仕えていた頃の知り合いにでも見つかったらすぐに王宮にバレそうだし、カリアスも基本教皇であるシメオンと共にいるので、顔バレをしている可能性は高い。クロードはここ最近はアークトゥルスの南のギルド長として皇都にいる事が多いので顔バレする可能性が一番低い。もしアークトゥルス南の所属の冒険者に出会っても、ギルド長が出張っている辺りで事情を察して見て見ぬ振りをしてくれるだろう。そのあたりは心配はない。


「クロードさん一緒に国境を抜けるよ。フォラス王国内に出たら、箱庭に繋ぐ」

「では、私たちは箱庭で待機しましょう」

 

 シメオンはフォラス王国に行く気満々のようだが、ナリスとしては神殿は大丈夫なの心配になってきた。


「教皇様が直々に行っちゃっていーの?」

「こういう非常事態の時に真っ先に前線に行く為に教皇の地位と権力はあるのですよ。それに今回はデネブの神殿の安否の確認が出来ていないのです。かの地の神官たちに何が起きているのか、教皇として見に行かなばなりません」


 イスの上でふんぞり返って権力を握るタイプではなく、最前線に赴くタイプの教皇であるシメオンを止めることはできなさそうだ。と、なると、後はユーリとアルテミシアの事になる。

 今、アルテミシアは一度皇宮に戻って、兄たちとのお話し合いに臨んでいる。


「ナリス、ぼくは今回は大人しくここで待っているよ」


 まだまだ子供でシメオンみたいに実戦でがんがん戦えるほどの実力もないユーリは、内心はものすごく悔しかったが、足手まといにはなりたくなかったので今回はついていくのを諦めた。


「うーん。ボクとしても今回はユーリには安全な場所にいて欲しいと思ってたんだけど、ちょっとフォラス王国まで付き合ってもらえない?」

「は?なんで?」


 てっきりナリスにここで待機するよう言われると思っていたユーリが間の抜けた顔で訊ねた。


「残念なことに、シメオン様が言ってじゃん、フォラスの魔法陣は魔道王国時代のものだって」

「うん」


 確かにシメオンは魔法陣の何かは魔道王国時代のものだと言っていた。だが、それがどうしてユーリが一緒に行く理由になるのかが分からない。


「ユーリの持ってるアパラージタってさぁ。一種の”鍵”なんだよねー」

「アパラージタが鍵?」

「そ。ボクの手元にきたときに鑑定させてもらったんだけど、アパラージタが宝石じゃらじゃらなのには意味があって、あの剣、魔道王国にあった魔法陣とか魔道具とかの共通万能キーになってたみたいなんだよ。だから、常に魔道王国の王が持っていた剣だったんだよー」

「は?ホントに?」

「うん、残念ながら事実です。アパラージタの宝石1個1個にそれぞれ鍵となる魔法陣みたいなのが描かれてあって、魔道王国で作られた魔法陣や魔道具はその宝石たちに刻まれた魔法陣を組み合わせて”錠”をかけたんだ。フォラス王国の王宮の奥深くにあるっていう魔法陣の鍵もアパラージタになるはずなんだよ」

「でもアパラージタってギルド長が持ってたんでしょ?それが本当なら何で今までその事を誰も言わなかったの?」

「アパラージタが隠してました。がっつり偽造ステータスで。違和感あったから本来の姿見せやがれって念じながら鑑定したらあきらめて出してきた」


 魔道王国で作られた剣であるアパラージタはその本来の役割を隠して時の中に埋もれてきた。鍵としての役割もアパラージタが選んだ主が持たなければ作用しないようになっている。本来の鍵を持っている者以外で、魔道王国時代に作られた魔道具や魔法陣を自由に動かす事が出来るのは唯1人、ユーリだけだ。


「フォラスの奥にある魔道王国時代の魔法陣が起動しているなら、ユーリに止めてもらわないといけないかもしれないんだよね。ヘタに壊すと、後から修復とか大変だし、変な影響とか出ても困るし。そうなるとユーリに一緒にフォラスまで行ってもらわないといけないんだよねぇー」

「もちろん!ぼくで役に立てるのなら!」


 ユーリの返事に迷いはなかった。いつも守ってもらっているのだ。こういう時くらいは役に立ちたい。


「もちろん、ちゃんと安全確保するつもりだけど、危ない目に合わせたらごめんね」

「謝る事なんてないよ、ナリス。ぼくの意志で一緒に行くんだ。だけど、叔母上、どうする?」

「あ」


 アルテミシアにはまだ箱庭の存在は伝えていない。だが、ユーリの安全の為にも一緒に行ってもらった方がいいだろうし、というより、本人がレイの救出に向かう気満々なので、止めようがない。

 捕らわれの王子様を迎えに行くのは、男前の女性騎士になりそうな感じになっているのであった。

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