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乙女ゲー??

今週はちょっと早めのペースで投稿出来そうです。楽しんでいただけたら幸いです。

 ようやく馬車が着いたのは皇都から少し離れた森の中にある貴族の別荘という感じの家で、誘拐犯たちは子供を1人ずつ降ろすと地下にある鉄格子の付いた牢獄のような部屋に入れた。

 新しく入れられた意識の無い子供たちを、元々中にいた子供たちが恐る恐る見ていた。


「ガキども、分かっているだろうが静かにしてろよ。こいつらが起きたらちゃんと言っておけよ」


 そう言って誘拐犯たちは部屋を出て行った。残された子供たちはどうしていいのか分からずに部屋の隅で固まっているだけだった。


(うーん。ここにいるので全部かなぁ)


 誘拐犯たちが部屋から出て行くのを見届けると、ナリスはよいしょっと言って起き上がり意識の無いイアソンたちを1人1人確認していく。


「うん。問題なさそうだね。寝てるだけか。君たち、大丈夫?いつからここにいるの?」


 奥の子供たちに話しかけると、子供たちは一様にびくっとしたが、内の1人が小さな声で応えてくれた。


「ぼくたち、たぶん、3日くらいここにいるの。あさのごはんだって、3かいもってきたから」

「ふーん、そっか。ケガとかしてない?」

「……うん。でもいつかえれるのかなぁ…」


 応えてくれた子供が声を押し殺して泣き出すと、つられたように他の子供たちも小さく泣き出した。


「きっともうすぐ帰れるよ。だから泣かないで。ここにいる子供って君たちで全員なのかな?他にいない?」


 最初に泣き出した子供をよしよししながら聞くと、たぶん他の部屋に1人いるっぽい、という答えが返ってきた。


「他の部屋に?」

「うん。きのう、こいつはべつだっていってるこえがきこえたから」

「1人は別なんだ。ちょっと見てくるから、こいつらの事、頼んでいいかな?」


 まだ寝てるイアソンたちを指さすと、泣き止んだ子供たちが頷いてくれたので、ナリスは鍵のかかった扉の前に立って鍵穴に向かって魔力を伸ばした。


「カギかかってるよ…?」

「うん、でも単純なカギだし、魔法錠とかでもないから」


 ナリスが鉄格子の隙間から手を伸ばして鍵穴付近に触れると、カシャン、という音とともに扉が開いた。


「ね?」


 子供たちに向かってにっこり笑ってみたが、子供たちは再び固まって「え?」という顔をしている。


「もうしばらくここにいてね。今、皆で逃げ出すとすぐ捕まっちゃいそうだから」

「う、うん」


 固まった子供たちに笑顔で手を振って外に出ると脱走がバレないように扉に鍵をかけてナリスは部屋からそっと廊下に出た。地下らしく薄暗い廊下の反対側に同じような扉があったので、別口のもう1人とやらはここに入れられているのだろうと思い、ナリスは同じ要領で鍵を開けると気配を消してそっと部屋の中に入っていった。


(廊下に見張りも無しなんて、いくら子供ばかりだからって油断しすぎじゃん)


 単純そうな誘拐犯たちなのだが、そうなると別口1人ってどんな子供なんだろう?そう思って鉄格子の中を見ると、同じくらいの女の子が1人膝をかかえて蹲っていた。


「えっと、囚われのお嬢さん?」


 声をかけると女の子がハッとして顔を上げた。薄暗い光の中でも分かる金の瞳がナリスの黒い瞳をはっきりと捉えた。


「おじょうさんじゃない」

「はぁ?」


 金の瞳のお嬢さん?との会話は、まず自分がお嬢さんじゃないという否定から始まった。


「お嬢さんじゃないの?でも、どう見ても女の子じゃん」

「ちがう。これはおんなのこのかっこうをしているほうがせいちょうできる、といわれたからしているんだ」

「確かに、7歳までは女の子の恰好をさせた方がいいって言うところもあるもんね。じゃあ、君、男の子?」

「そうだ。ぼくはおとこのこだ」

「名前は?」

「ユリ…ユーリだ」

「うん。ユリちゃんだね」


 ユリ、ではなくてちょっと隠した感じでユーリと名乗った男の子は、伸ばした薄い青の髪の毛を左右で結び、動きやすそうなワンピースを着た同じ年くらいのどう見てもかわいい女の子の姿をしている。


「ユリじゃない、ユーリだ」

「今の姿じゃどうがんばってもユリちゃんだね。で、ユリちゃんはどうして1人でこっちにいれられてんの?」

「そうだ、おまえこそどうやってここにはいってきたんだ?まさか、あいつらのなかまなのか?」

「違うよー。ボクも誘拐されてきた1人だよ」

「うそだ。ゆうかいされてきたやつが、おまえみたいにじゆうにあるいてなんかいない」


 1人で牢獄に入れられているユーリは他の子供とはあきらかに違う存在だった。受けている教育が違うのだろとすぐに察せられた。一応、姿は他の子供たちと似たような感じにしているが、雰囲気が違うのだ。ユーリは支配する側特有の雰囲気を持っていて、幼いせいか、まだそれをうまく隠しきれていない。ナリスが知っている中で、それを一番綺麗に隠すのは教皇シメオンだ。その気になればそこら辺の一般人と何ら変わりのない空気を身に纏ってやって来る。だが、ユーリは良いところのお子様感が抜けきれていないのだ。


(誘拐犯はこの子がどこの子か知ってて誘拐したのかな?)


 恐らく、というか絶対に貴族のご子息であるユーリの素性を知っていて誘拐したのか知らずに誘拐したのかで状況はまるっと変わる。知っていて誘拐したのなら、めんどくさい状況になるのは目に見えて分かるのだが、ナリスがここで見捨てるという選択をすれば確実に寝覚めが悪くなることは間違い無かった。

 そうでなくてもまだ子供のユーリを権力争いだか何だか知らないがそれに巻き込んだ大人たちの不甲斐なさにナリスは少し腹を立てていた。


 いつだって、犠牲になるのは子供たちだ。


 ナリスは今までの人生でそれを嫌というほど見てきた。救えなかった命も多い。別にナリスは全能神でも何でもないし、全ての人間を救えるとか思うほど傲慢な人間でもない。だが、手を伸ばせば救える命を見捨てるような事はしたく無かった。


「ユリちゃん、どうして誘拐されたの?いいとこの坊ちゃんでしょ?お付きの人とかどうしたの?」

「……わからない。きがついたらひとりになってたんだ」


 うつむいたユーリの言葉にナリスは、あ、これ絶対前者じゃん、と思い最悪権力争いに巻き込まれた場合は容赦なくシメオンに投げ出そうと決めた。シメオンなら笑顔で敵対勢力の掃討に励んでくれるだろう、たぶん。

 

「なぁ、おまえは…」

 

 ガチャガチャとした複数の足音と一緒に声が聞こえて来たのはユーリが何か言いかけた時だった。


「ユリちゃん、ボクちょっと隠れるからボクの事は黙っててね」

「わかっている」


 状況判断はきちんと出来ているようで、ユーリは即座にナリスの言葉にうなずくと、先ほどと同じように牢屋の奥でうずくまった。ナリスがちょっとした目くらましの魔法を発動してその存在を見えないものとして部屋の隅の邪魔にならない位置に移動するとちょうど扉が開き、森でナリスに声をかけた人物とその部下と思わしき人さらいたち、それから場違いな貴族風の男が入ってきた。


「この子供か?」

「はい。旦那が言ってた子供はこいつで間違いありません」


 貴族風の男がユーリの入っている牢屋に近づいて、ふんと鼻を鳴らした。


「お前たちは出て行け。この子供と少し話しがある」

「はい、わかりやした。おい、行くぞ」


 人さらいの集団がいなくなると、男は部屋の中をコツコツと歩き出した。


「ふふ、このようなところに閉じ込めてしまいまして、申し訳ありません。私の事はご存じですか?」


 男の妙に優しい声にユーリは顔を上げたが、父親と似た年代の男の顔に見覚えは無かった。


「しらない。だれだ?」

「えぇ、えぇ、そうでしょうとも。私の事などご存じないでしょう。ですが、私は貴方様の事をよーくご存じなんですよ。何せ貴方は、可哀そうな姉上の……、何だったかな、あぁ、そう、そうだ、貴方は姉上の息子になるんだった。そう、そう、間違いない。姉上が生んだ姉上の息子だ」


 どこか狂気をはらんだその物言いにユーリは大きく目を見開いて貴族風の男を見つめた。


「ぼくのははうえにおまえのようなおとうとはいない」

「はっはっは、これからなるのですよ、姉上の息子に。だって、姉上が貴方の父君に嫁いでいれば、間違いなく貴方は姉上から生まれていたんですから。間違いは正さなければ。ね?」


 狂気をはらみつつも、ユーリを見る男の目が慈愛に満ちているのがさらに不気味さを掻き立てる。


「ご安心ください。貴方の父君にはすぐに知らせますからね。姉上、貴方の母君がもうすぐ到着しますから、そしたら父君にお知らせしますね。貴方は実のお母様と仲良く待っていますよ、と。きっとすぐに来て下さるでしょう。そうしたら家族団らんの楽しい食事会でもしましょうね。その後は姉上と父君との結婚式のやり直しです。あの時は間違った女が父君の隣に立っていたんですから、当然、やり直しです。今回は正しい妻である姉上との結婚式ですよ。純白のドレスを着た姉上はさぞ美しい事でしょう。あぁ、貴方は今は女の子の恰好ですから、姉上とお揃いのドレスを用意いたしますね。姉上によく似た可愛いらしい姿になるのでしょうねぇ」


 うっとりと紡がれる男の言葉にユーリの顔色が青ざめていく。


「…………なにをいっているんだ。ぼくのははうえはおまえのあねうえとやらじゃない」


 ユーリがそう言った瞬間、男はガンッと鉄格子を殴ってユーリを睨みつけた。


「おまえは姉上の息子だ!!!そうじゃないお前など認めない!!!」


 何度も何度も拳を鉄格子にぶつけ後に、男はふうっと息を吐いた。


「失礼。甥っ子の前でみっともない真似をしました。もうしばらくしたら姉上が来ますからね。良い子で待っていて下さいね」


 男が踵を返して部屋から出て行こうとした時、今度はユーリが鉄格子に手をかけた。


「まて、ぼくのほかにもこどもがたくさんいただろう。そいつらをどうするつもりだ」


 男は立ち止まってユーリの方に顔だけ向けると、優しそうに微笑んだ。


「子供たち、ああ、姉上のおもちゃですか。どうしましょうねぇ。貴方がいれば姉上はあいつらに興味が無くなるでしょうから、それからどうするかは考えますよ」


 ふふっと笑い、今度こそ男は部屋から出て行った。

 男の気配が完全になくなってからナリスが部屋の隅から姿を現すと、ユーリはほっとした表情をした。


「君の叔父さん、なかなか、強烈だねぇ」

「……おい、いまのきいて、どうしてそういうかんそうなんだ」


 ナリスのセリフに青ざめていたユーリの顔色が少しだけ元に戻る。


「えーっと、なんか、君のお父さんにさっきのおっさんのお姉さんがすんごい執着してる感じ?」

「みたいだな」

「お父さんはおモテに?」

「…すごく」

「わーお、ますますボクたち関係ないぢゃん。おっさん同士で好き勝手にやってろってのぉ」


 ナリスの物言いにユーリは我慢出来なかったのか、あはは、と笑い始めた。


「んじゃ、サクッと逃げて後の事は元凶のおっさんに放り投げよう」

「ぼくたちだけでにげるのか?ほかのこたちは?」

「うん。どうがんばってもおっさんたちが執着してるのはユリちゃんだからね。ユリちゃんと一緒に逃げる方が危ないよ。他の子たちには守護の結界を張って危険がないようにしておくから大丈夫だよ。ユリちゃんが逃げ出す事で注意をこっちにひきつけられるから、むしろ鉄格子の中の方が安全かも」


 さっきの男の言葉から考えれば、ユーリ(正確にはユーリの父君)に執着してるのは男の姉上で、その姉上に執着してるのが弟の彼なのだろう。

 権力争い……とは少し違う、むしろ、こじらせ三角関係?シメオンに投げ出しても、笑顔で躱して元凶にちゃんと押し付けそうだ。


(……はっ!もしや、これが乙女ゲーの世界観!……なのか?)


 でも、いくら何でもナナメ上すぎる乙女ゲーだ。もうちょっとソフトな感じの乙女ゲーを希望したい。

 しかも、主役世代は父母世代でナリスは全く関係ないし、巻き込み型乙女ゲーなんだろうか。

 

 乙女ゲーだとしたら、今のところ、おっさん(人さらい+ちょっと狂気はらんだ系)と子供(全員男の子+女装男子)しかいないのはどういう事だろう、とユーリの閉じ込められている鉄格子の鍵を開けながら、ナリスは少しだけ悲しみに浸っていた。

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