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それぞれの選択肢

誘拐編の書きたかったシーンの1つです。

 ユリちゃんことユーリの入っていた牢獄の鍵を開けて2人で部屋を抜け出し、まずは他の子供たちのところへ行く。


「助けを呼んでくるから、しばらくここで静かに待っていてね」

「うん……ぼくたちかえれるよね」

「もちろんだよ。ほら、見てて」


 ナリスは手に光の玉を作り出すと、それを牢の中に放り込んだ。優しい光が辺りに満ちると子供たちの傷が癒されて1人ずつ薄い光に包まれる。


「これなに?」

「みんなを守る光だよ。もうすぐ光は消えちゃうけど、効果は残ってるからあんなおっさんたちの攻撃くらい弾くからね。大人たちにはナイショだよ」


 人差し指を口に当てて、しーポーズをしたナリスに子供たちはうん、と頷いた。


「うー、はれ?ナリス?」

「あ、起きた?イアソン、気分は?」

「気分?つかなんだここ?」


 身体を起こして頭をふるふる振るとイアソンは頭に手を置いて、うーとうなった。


「イアソン、人さらいに捕まっちゃたんだよ。おバカさんだね」

「あん?人さらい?あーーー、マジかぁ。ギルド長に怒られるな」

「修行し直し決定だね」


 大変良い笑顔で笑いかけたナリスと対照的にイアソンはげんなりした顔になっていった。


「捕まったのおれらだけか?ハリーたちは?」

「他の子たちは逃がしたよ。ハリーは警備兵に連絡に行かせた」

「おー、そうか。んで、おれら、どうすりゃいいんだ、ナリス?」


 普通の子供ならこんな状態で目を覚ましたらパニックになって泣き出すか喚きだすところだが、イアソンたちアークトゥルス南ギルド所属の子供たちは幼い頃からナリスに「いつも冷静にねー」と言われてナリスにくっついて遊んでいたのでこの程度ではパニックにはならないように鍛えられていた。

 特にイアソンは身体能力が高くギルド長であるクロードに直々に修行を付けてもらっているのだが、あっさり人さらいに捕まってしまった以上、確実にクロードによる修行時間増加が避けられない状況となっている。


「イアソン、ちゃんと薬草の事お勉強しなよ。眠り草なんて、初歩中の初歩だよー?」

「う、薬草かぁ」

「ちゃんとお勉強しないと、脳筋おバカさんになっちゃうよ?」

「わかった。帰ったらちゃんと勉強する。状態異常系の取得を先に目指すかー」


 ちょっとしょんぼりしたイアソンは周りで寝ている他の子供たちを順番に起こしていった。

 程なくして全員が目覚めて状況を把握したのだが、南ギルド所属の子供たちは誰1人パニックを起こす事はなかった。


「君たち全員、薬草のお勉強ね」


 ナリスの宣言に子供たちは「やくそうかぁ、おぼえられるかなぁ」「でも、ナリスがいるっていってんだからひつようなんだよね」「ちゃんとおぼえないと、のうきんさんていわれてわらわれそう」などと好き勝手に言っていたのだが、内の1人が立ち上がって宣言した。


「ナリス、おれ、やくそうのべんきょうする!!んで、おれがしらないやくそうなんてないっていえるようにするからな!!」

「おー、がんばれ」


 後に本当に『彼の知らない薬草は無い』とまで言われるほどの薬草学の権威となるのだが『薬草とは環境によって左右されその効果は実体験に勝る知識なし』というちょっと脳筋が入ったままの信条を持っていたので、珍しい薬草が生えている場所の情報や、どこそこに見知らぬ草が生えている、という噂を聞きつけてはナリスやイアソンを巻き込んで現地に赴きその効果や生育環境を調べまくるフィールドワーク型の博士となっていくのであった。




「イアソン、武器は?」


 子供たちはギルドから念のため、小さな子供用のショートソードを支給されていたのだが、どうやら捕まった時に回収されているようだった。


「ないな」

「デスヨネ。さすがにそこまで油断はしてないか。んじゃ、はい、コレ」


 空中からナリスが取り出したのは、ナリスに支給されていたショートソードだ。


「いいのか?ナリスの武器は?」

「ボクはこっちがあるから大丈夫だよ」


 ナリスが同じように取り出したのは、神刀”夜”だった。


「”夜”じゃん。久しぶりに見たな」

「たまには使ってあげないとすねちゃって」


 本来の姿の”夜”は子供のナリスには大きすぎるので封印していたのだが、あまりの使ってもらえなさに、ある日”夜”は子供用の大きさに自らを変化させるという荒業を繰り出して強引に出現した。さすがのナリスもちょっとビックリしたのだが、それ以来、定期的に”夜”を使用しているので、刀からは満足気な気配を感じている。


「いーなー、インベントリ、おれも欲しかったな」


 先天的にスキルとして無限収納ーインベントリーを持っていなければ、後天的に得ようと思ったらよほど魔力量が多くなければ無理なので、たいていの冒険者はちょっとお高くて容量が少ないが魔道具の空間拡張型の収納袋などを持っている。収納袋はたまにダンジョン等で出るか、職人が作るしかのだが、作れる職人が限られているので順番待ちになっていることが多い。


「帰ったら予約だけでもしといたら?」

「うん。そうする」


 会話だけ聞いたらほのぼのとしているが、実際は鉄格子の中と外での会話だ。


「おい、けんはまだあるのか?」


 それまで黙って会話を聞いていたユーリがナリスに聞いてきた。


「誰?その子」

「んー、ユリちゃんだよ」

「ユリちゃんいうな。ユーリだ」


 ユーリは反射的に答えたが、ナリスを見る目は真剣そのものだった。


「ユリちゃん、剣、欲しいの?」

「いる。ぼくもたしょうはけんはつかえる」


 んんー、とナリスは考え込むようなそぶりを見せた。


「おい?」

「……ユリちゃん、本当にいるの?」

「あたりまえだ。けんをもっているあいてにすでではたたかえない」


 その通りだ。武器無しでも戦える武道の達人ならともかく、剣や殺傷能力の高い武器を持っている相手に素手で挑むのは愚かでしかない。


「……なぁ、ユリちゃん、おれも何か違うと思う」

「おまえまでユリちゃんっていうな。ついでにぼくはおとこだ。けんをもってなにがわるい」

「え?男なんだ。その恰好で」

「すきでしてるわけじゃない」


 イアソンは訳ありかなー、と思い姿についてはそれ以上深くつっこみはしなかった。


「えーっと、なんて言うか、男とか女とかそういうんじゃなくて、ユーリが剣を持つのは、えっと、なんっつったらいーかなー」


 イアソンは言葉を一生懸命探しているが、まだ10歳児なのだ、表現できる言葉がうまく出てこない様子だった。


「……イアソンってホントに人を見る目がちゃんとあるし男前だよねぇ」

「お?そうか?」


 満更でもなさそうなイアソンだが、ナリスにはイアソンが言いたい言葉がわかっていた。

 それは、ユーリの生まれ持った本質も関係あるのだろうが、ユーリはイアソンやナリスとは違うのだ。その本質というか気配を持った者たちをナリスは見た事がある。今生ならシメオンがそうだし、過去の異世界でも何人かは見てきた。それは”統べる者”。だとしたら、ユーリはーーーー。


「ユリちゃん。ユリちゃんは今、決断して。剣を持つかどうかを」

「……なにをいっているんだ?」

「ユリちゃんは、きっと剣なんて持たなくても大丈夫だよ。何かを、誰かを傷つける行為なんてボクたちのような他の人間に任せておけばいいんだよ?手を血で染める必要なんてないんだよ?でもどーーしてもユリちゃんが今、剣を持ちたいなら貸してあげる。後でもいいんだったら、うちのギルド長あたりが宝石とかいっぱいついた剣を持ってたから、それをあげる。どうする?」


 ナリスの言葉にユーリはじっと自分の手を見て考えた。

 今のユーリにはナリスの言葉の真意が分からない。分からないが、この答えはとても大切な答えなのだというのは分かる。


 剣を持つか、持たないか。


 その答えはある意味、これからの自分を決める答えなのだと思う。

 

「………けんをかしてくれ」


 真っ直ぐにナリスの黒い瞳を見て、ユーリは言葉を紡いだ。


「だけど、あとからそのギルドちょうがもっているっていうけんもくれ」


 それがユーリの答えだ。どちらもユーリは欲しかった。


「あはは、贅沢だねぇ、ユリちゃん。いいよー、帰ったらギルド長からぶんどってくるよ」

「いいのかよ、ナリス。ギルド長は手ごわいぞー」

「ユリちゃんが欲しいっていうなら仕方なくない?だいじょーぶ、剣取られてギルド長が落ち込んだら、お父さんを生贄に差し出しとくよ」


 クロードから剣を奪う事は確定で、そのフォローとしてレイを生贄に差し出す事も決定した。


「じゃ、ユリちゃんにはこれあげる。返さなくていいよー、使う当てもなかった剣だから。それに多分、これユリちゃんの剣だと思うし」


 ナリスがインベントリから取り出したのは、実用的な剣だった。とあるダンジョンに行った時に拾った剣だが、森羅万象の瞳によると銘は『主を待つ剣』とあった。意味が分からなかったし、ナリスの剣ではないからとりあえずインベントリにしまっておいた物だ。時が来れば、主が勝手にナリスの前に現れるだろうと思いその時に渡そうと思っていたのだが、まさか、こんなに早く現れるとは思ってもみなかった。

 ユーリが剣を受け取ると、剣は一度ぱっと光を放ち今のユーリが持てるサイズの剣になった。


「おー、”夜”とおんなじ機能じゃん」


 一緒にいたので、”夜”に感化されたのかねぇ、と思いながら剣を鑑定してみると、銘が『導きの剣 アストラル』に変わっていた。


「その剣、名前はアストラルだって。ユリちゃんの剣だから大事に使ってあげてね」

「ありがとう、えっとナリス、でいいんだよな」

「あれ?名乗ってなかったっけ?そうだよ、ナリスっていうんだ。よろしくねー」




 やがて年月が経った時、ユーリはあの時の事を思い出して盛大にナリスを怒った。


「お前、よく考えたら6歳の子供に何て選択をさせてるんだ」

「えー、いーじゃん。あの時がユリちゃんの運命の別れ道?ってやつだったんだよ」

「ユリちゃん言うな。イアソン、お前も笑ってないで同罪だ。ナリスを止めなかったんだからな」

「無罪を主張します。だいたい、あの時も今もナリスは止められない。それに、『ユリちゃん』はちゃんと自分で答えられたじゃん」

「間違ってたらどうする」

「間違いなんてないよー?どれも正解で不正解なんだから。ただ、ユリちゃんがあの時こういう選択したから今、一緒にいるだけで」

「……どの選択肢を選んでも助けてくれる気はあったんだな」

「あったよ。でも、道が違いすぎたから、遠くで見守る感じになってたかな。一番上でどっしり構えているのも有りだし、細かい事は部下に任せて最前線で戦うのも有りだったんだけど、ユリちゃんは両方やるって言っちゃったもんねぇ。おかげで、ボクたちも付き合わされちゃったよ」

「お前が選択肢を出して選ばせたんだ。最後まで付き合え」

「はいはいー。アレ?ボクのひっそりこっそり計画はどこ行ったの?」

「お前にその選択肢は無い」


 前世からさんざん言われていた言葉をどうやら異世界に来た今生でも言われ続けるようであった。

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