Ep.10 許可
「許可は、取れたよ。」
――カチン。歯が音を刻む。口角が立ち上がってゆく。ちらりと覗く白い歯は、不気味なほどに輝いている。実り豊かな麦畑のように、ぴんと張った金の長髪が、からりからりとざわめき出した。
「アリガトー!」
いつの間にか掴まれていた掌が、ぶわんぶわんと振り回される。蒼い瞳はこちらをずっと見つめたまま、決して離そうとしない。シトラスの香気は、溌溂な動作に煽られて、刺々しいほど増幅されていた。
「ケンスケ、アリガトー!案内、頼ミマース!」
ようやく離れた彼女の掌。それは肩をポンと二回叩き、それから目の前にふっと現れた。
「……ヤッパリ、恥ズカシーイ!」
俺の手がぴくりと跳ねたあたりで、彼女は二の腕を引き戻した。その足取りは、いつもよりもずっと早い。
顔を彩る、猫のような微笑み。その深奥を読む暇が、俺に降ってくることはなかった。
「ここだよ。」
「綺麗デス……コレカラ、ヨロシク!」
改めて、目線をぴたりと合わせるキャサリン。いつの間にか、先よりも淑やかな表情をしていた。
「ただいまー!来たよー、留学生の子!」
床が慌ただしく揺れる。なんてことのない光景を前に、胴体を囲むように、そわそわと汗が滲んでいた。
「あら、いらっしゃい!初めまして、入って、入って!」
「ヨロシク、オネガイ、シマース!」
彼女は活き活きとした声で、勢いよく母についてゆく。足音と鼓動は、ゆっくりと同期しながら、ますます強く鳴り始めた。
「……荷物置いてくるよ。」
「待ッテルヨー。」
心の求めるままに、疲れたふりをしながら、ゆっくりと階段を踏みしめる。立てられた聞き耳と、閉じられた瞼。
鼓膜は振動ばかりか、燃え盛るガスの重さまで捉えようとしていた。
「ヨロシクオネガイシマス、改メテ。」
「いいのよ、大変よね……火事だなんて。遠慮しないで、どんどん頼ってくれていいからね。」
「アリガトウゴザイマス、後デ、旦那サン、挨拶サセテクダサーイ!」
「いいのよいいのよ、帰ってきたら伝えるわ。」
弾むような会話。元より知り合いだったのか、とすら錯覚してしまう。
「ああそうだ、部屋。使ってない部屋があるから、そこにその……そうトランクよ、それも置いたら?……なんか、神秘的だわ。」
「ソンナ、楽ダカラ持ッテル、ソレダケデス。」
扉が開き、再びフローリングが鳴り始める。
俺は急いで、階段を駆け上がった。そして扉を開けると、つけっぱなしのモニターが、手前の埃を光らせていた。
申し訳ないのですが、少々作品全体の『再起動』を考えております。
率直にいって、今後の展開の変更並びに、公開頻度などの見直しがなければならない、と把握しています。
つきましては、申し訳ございませんが当面更新を休止いたします。




