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第63話 五日、②
(行程)難波津へ
(原文)
かくいひつつ来るほどに、
「船疾く漕げ、日のよきに」
と催せば、楫取、船子どもにいはく
「御船より仰せたぶなり。朝北の出で来ぬ先に綱手はや引け」
といふ。この言葉の歌のやうなるは、楫取の自づからの言葉なり。
楫取は、うつたへに、われ、歌のやうなる事いふとにもあらず。
聞く人の「怪しく、歌めきてもいひつるかな」とて書き出せればげに三十文字あまりなりけり。
※朝北の
「朝北風」。朝、北から吹く強い風。
※うつたへに
いちずに、むやみに
(舞夢訳)
そのようなことを言いながら旅を進めるうちに、(主人⦅紀貫之⦆がしびれを切らして)「船をもっとはやく漕いで欲しい、天気もいいのだから」と催促すると、楫取は(ようやく)水夫たちに指示を出しました。
「(おい!おまえたち!)この御船(のご主人様)からのお達しであるぞ、朝北風が吹く前に、綱手を、もっとはやく引け」
(ところで)楫取の口から、自然に出た言葉ではあったのですが、まさか我々のように「歌を詠もうとしていた」とは、思えません。
(ただ)聞き取った人が、「奇妙なことに、歌を詠んでいたような」と思って、紙に書いてみたら、確かに三十一文字でありました。




