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24/24

24、めでたしめでたし、なのです

 安全な場所に避難させていたから、シャニアは無事なようだ。まだ意識は戻っていないけれど、魔力にあてられておかしくなっている様子もない。

 そのことにほっとしつつも、この不穏な気配に私は慌てた。


「あの、首謀者とおっしゃいましたが、シャニアは『あたしがみんなを守らなきゃ』と言っていました。だから、何か彼女なりの思いがあったんだと思います。こんなことには、なってしまいましたけど」

「過去にも何人か、封印の像に対して企みを持つ生徒が現れるんだ。そこに悪意のみがあったとは言わないが、やはり事が事なだけに何の処分もしないわけにはいかないんだ」

「それは、そうですけど……」


 校長の話を聞いて、オルクスくんも「マジラカ」本編の中でその“何人か”に含まれていたのだろうなと思った。つまりはシナリオの都合上、誰かが“闇落ち”しなければならなかったということだ。それが今回たまたまシャニアだったというだけのこと。

 私はずっと、そんなシナリオ(運命)に振り回されて不幸を一身に背負わされていたオルクスくんを救いたかった。だから、彼を救ってシャニアを見捨てるということはどうしてもできない。

 自分の推しが救われたから他の人のことはどうでもいいだなんて、そんなことは思えない。


「校長、シャニアの処分よりも果たすべきことがあるんじゃないですか!」


 私が何と言って校長の気持ちを変えさせようかと考えていると、突然そんな声が上がった。そして、勢いよくこちらに誰か走ってくる。


「君は、リリー・ノーマンくんだね」

「そんなことどうでもいいんで! 校長! これまで秘密にしてきた学院の成り立ちを正式に周知することのほうが先でしょう! いつまでテネブラン家に汚れ役を押し付けておくんですか?」


 走ってきたのはリリーで、いきなり校長にビシッと指を突きつけていた。その目は怒りというか、使命に燃えている。


「テネブラン氏は、かつてこの土地で荒れ狂っていた魔力の源流を自らを犠牲にして鎮めたんですよね? それによりレイラインが安定し、その土地柄を利用してディメートがここに魔法学院を設立した。そのことでディメートは魔法学院の開祖にしてこの土地に平和をもたらした英雄とされていますが、彼の友人だったテネブランは? 明言はされずとも、彼はディメートに対しての悪役に位置づけられている。英雄ディメートと魔に落ちた魔法使いテネブラン……この構図が間違っていることは、学院の校長ならばわかっているはずですよね?」

「それは、確かにそうだ。だが、『魔法は万能でも完全に安全なものでもない』ということを後世に語り継いでいくには、英雄とその友人という構図は非常にわかりやすく寓話として優れていてだな……」

「それが差別を生み出す原因となっていることも、当然ご存知のはずですが!」


 リリーは一切の容赦もなく、校長を追い詰めようとしていた。言い訳も言い逃れも許さない、絶対に仕留めるぞという意思を感じて、日頃のリリーからは想像できない姿に私もオルクスくんも驚いていた。


「ノーマン、うちのことはいいんだ。みんな、校長のいうように理解している」

「あんたの理解なんてどうでもいい! 自分は責任の所在の話をしてんだ! シャニアの処分を考えるっていうけどな、学院が最初から『この像は荒ぶる魔力の源流が外に流れ出すのを留めているものです。大事なものだから壊してはいけません』って大々的に周知しておけばよかったんだ! それを怠り、あまつさえ差別の原因となっていることをわかりつつ見て見ぬふり。オルクスをはじめとしたテネブラン一族は、ずっと魔に落ちた魔法使いの血筋として辛酸を舐めてきた。生徒の暴走を招いたこと、ある一族を長らく苦しめていたこと、それらの責任を果たすってんなら、シャニアのことをいかようにも裁けばいいさ!」


 リリーの小さな体の中のどこにこんなエネルギーがあるのかというほど、ものすごい力強い叱責だった。

 校長は別に大昔から校長だったわけではなく、ゆえに責任をと言われても正直困るだろう。確固たる目論見があってテネブラン氏を悪者にしていたのでも、封印の像の秘密を伏せていたわけでもなく、ただ先代も先々代の校長もそうしてきたからという、あくまで消極的な理由のはずだ。

 だからリリーの訴えを聞き入れないわけはないだろうが、さらに彼女は追い込もうとしている。


「校長がもしこの件をきっちり公表する気がないのでしたら、これを劇にして上演します! 歌ありダンスありの壮大かつド派手なエンターテインメントととして世に放ちます!」

「わ、わかった! 今回のプロセルくんたちの活躍とともに、全生徒たちの前で公表する! ディメート氏同様、テネブラン氏も英雄だったと、正しく伝えよう」


 リリーの剣幕に気圧され、校長は必死に頷いていた。しっかり言質を取られてしまったし、リリーの本気度もわかっただろう。「必ず、必ず公表するから……」と言いながら逃げるように去っていった。


「リリー、かっこよかったよ」


 校長が去ったあと、リリーは安否を確認するためにシャニアのそばに来た。やりきったことをねぎらったものの、まだリリーの表情は硬い。


「自分は、やるべきことをやったまでだ。脚本家としての責任というか。……シャニアがおかしくなったのは、間違いなくシナリオが原因だ。もともとトンチキとはいえ、ここまでの凶行に及んだのは“誰かが闇落ちする必要があったから”だと思ってる」

「それは、『マジラカ』本編におけるオルクスくんの役割を、この新章ではシャニアが担わされたってこと……?」

「そういうことだ。自分がキャラクター(彼ら)と同じ世界に転生したからわかるけど、シナリオのために犠牲になっていいキャラなんていないんだ。みんな、この世界で生きてるんだから」

「……そうだね」


 私たちは小声で、しみじみと語り合った。

 前世でガッツリ「マジラカ」をやり込んだ私と、シナリオライターとして関わっていたリリーだからできる話だ。そんな私たちだからこそ、果たせるし果たすべき責任がある。


「僕たちだけで運ぶのは危険だと思って、先生たちを呼んできた!」


 いつの間にか私たちのそばを離れていたオルクスくんが、先生を数名連れて戻ってきた。先生たちはすぐに魔法でシャニアを浮遊させ、医務室に運んでいく。私たちはそれを見守って、ようやく息をつくことができた。


「お前、いつからいたんだ」


 もっと早くに来て助けてくれたらよかったと言いたいのか、オルクスくんがリリーをジトッとした目で見た。その視線を受け、リリーはニンマリとする。


「二人が頑張ってるところも、その後も見てたよ。でもさ、邪魔しちゃ悪いと思って、影でニヤニヤ見てた。『人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死んじまえ』って言葉が故郷にあるからさー」

「何だその言葉。それにお前は王都出身だろ」

「ま、そうなんだけどさー。とにかく、よかったね二人とも。お互いの気持ちが通じ合って、事件も解決して、めでたしめでたしじゃん」


 リリーは私とオルクスくんが並んでいるのを見て、満足そうな顔をした。その顔は冷やかすというより、親が子供の成長を見守るような、そんな表情だ。


「よかったな、コレット」


 リリーのそのひと言には、いろんな思いが込められているのがわかる。

 オルクスくんが孤独でなくて、闇落ちしていなくて、彼を理解してくれる人たちがいる。

 主人公たちに倒されるためにではなく、オルクスくんが幸せになるためのシナリオを歩めている。

 それは、オルクスくん推しの私が、彼に恋する私が、何よりも望んでいた未来だ。

 死んだ甲斐があるなんていうのは変な言い方だけれど、転生してよかったと心から思えている。


「……本当に、よかった」


 私はオルクスくんのそばまで行ってその手を握った。オルクスくんは何も言わず握り返してくれて、私の髪をそっと撫でてくれた。


***


「……そしてこの地に平和は訪れ、それは現在まで続いているのである。英雄ディメートとテネブランに感謝の意を表するために、今一度拍手を!」


 壇上で校長がそう言うと、講堂中に拍手が響き渡った。

 校長はリリーとの約束通り、テネブラン氏についての真実を公表した。彼が私利私欲のために膨大な魔力に手を出したのではなく、魔力によって人が住むことができなかったこの土地を変えようと命を賭けたという事実を。

 それだけではみんな、長年信じ続けてきた説を捨てるには至らなかったのだろうが、今回の騒ぎを収めたのがオルクスくんと私だったということで考えを変えたようだ。

 封印の像――この土地を守ると決意した姿勢のままのテネブラン氏の姿を模した像があった場所には今、私が生やした大樹が存在している。たった一晩であんな大樹を生やしたこと、騒動を収束したことから、忌み嫌われていたテネブラン一族のオルクスくんとポンコツ裏口入学疑惑の私は、一気に英雄となったのだ。

 騒動を収められたのは、オルクスくんがテネブラン氏の子孫だったからと理解した人々は、一気に彼に対する見方を変えたのだ。

 私のほうはといえば、女神の血筋だなんだと騒がれるようになったというより、「魔法が上手に使えないのは強すぎる女神の血由来の力のせいか」という妙な納得をされた。騒がれたりもてはやされたりするよりいいけれど、何となく面白くない気分だ。

 でも、どんな形であれご先祖の汚名が(すす)がれ

、オルクスくんがみんなに受け入れられたのは嬉しい。だから、私はおまけでいいのだ。


「さあ、コレット。準備ができたわよ!」

 

 講堂での校長の話を聞いたあと、私は中庭で自分が生やした大樹を見上げていると、ディーネさんが呼びに来てくれた。そこらへんで時間を潰していてと言われて特にすることもなくて、私は結構長いこと木を見ていたから、ようやく呼ばれてほっとする。

 今日は親しい人たちを中心に、私とオルクスくんの慰労会を開いてくれるらしい。それで準備に時間がかかるということだったのだけれど、主役であるはずのオルクスくんがすでに会場入りしているのが()せない。


「みんな張り切ってるから、きっとびっくりするわよ。はい、これつけてね」


 歩きながら、ディーネさんにたすきをつけさせられた。たすきには「本日の主役」と書かれていて、こんなの絶対リリーの仕業としか思えなかった。


「わあ……すごい飾りつけ!」


 ディーネさんにつれられてたどり着いたのは、校舎裏の演習場だった。日頃主に飛行魔法や大規模な魔法の練習に使われる場所でそれなりの広さがある場所なのだが、そこにたくさんの花が飾りつけてあり、シャボン玉も浮いている。


「張り切って飾り付けさせてもらった」


 制服の上着を脱いで腕まくりをしたソリが、誇らしげな顔で声をかけてきた。日頃から学院内の花の世話を率先してやってくれている彼だから、ここまで大規模な花の手配ができたのだろう。


「ありがとうございます。すごくきれいです」

「オルクスも頑張ってくれているからな」


 そう言ってソリが示す先には、「世界一の幸せ者」と書かれたたすきをつけたオルクスくんがいた。間違いなくリリーの仕業だ。前世の日本ならド○キなんかで買えそうなこのふざけたたすきだけれど、おそらくそういう店はないからわざわざ作ったのだろう。変なところに手が込んでいて呆れてしまう。

 オルクスくんは、せっせと魔法の杖を振ってシャボン玉を生み出している。よく見れば、シャボン玉の中にもキラキラした花びらが入っている。

 じっと見ていると、オルクスくんと目が合った。私に気づいた彼は嬉しそうに手を振って、こちらにやってくる。ただそれだけのことが、ものすごく嬉しかった。


「もうすぐ肉が焼けるって。みんな張り切ってくれている」

「すごい数だね」


 オルクスくんに言われて演習場を見回すと、あちこちに石を積み上げたコンロが組まれており、そこで肉が焼かれている。この世界のバーベキューは本格的でちょっとワイルドだ。


「火力足りてないところは声かけろ。俺が行く。お、コレット! これ焼けたから食えよ」


 火力担当らしいイグニスが、私に気づいて串を片手に走ってきた。


「あ、ありがとうございます」

「どんどん食えよ。いっぱい焼いてやるからな」

「はい」

「火加減はどのくらいが好きなんだ? 半生か? よく焼くか?」


 串を受け取ると、世話を焼きたいのかイグニスがぐいぐい来た。それを見て、ディーネさんがくすくす笑った。


「先輩、だめですよー。コレットはオルクスくんの恋人なんですから」

「お、そうだったな。わりぃわりぃ」

「ささ。馬に蹴られる前に退散しますよー」

「なんだ、それ」

「人の恋を邪魔したら、蹴られてしまうんですって。それじゃあ二人とも、楽しんでね」


 気を使ってくれて、ディーネさんがソリとイグニスを伴って去っていった。リリーはどうやら、「人の恋路を邪魔する者は〜」という言い回しを流行らせているらしい。困ったものだ。


「オルクスくん、こういうの、食べたことある?」

「いや、初めてだ」


 肉の刺さった串を手に戸惑っている様子のオルクスくんに気づいた。よく考えれば、名門家の出身のオルクスくんがこういった食事に慣れているわけがない。私は裕福とはいえただの商家出身だし、前世でバーベキューには慣れているから平気だ。だから、ここは私がしっかり教えてあげないといけない。


「あのね、オルクスくん。串を横に持って、それで肉にかじりつくの。そのあと、串から抜くように肉を横にスライドさせて……」


 口で説明するよりやって見せたほうがいいと思って、私は肉にかじりついて見せた。するとオルクスくんは、何だか微笑ましいものを見るような目で見てくる。


「コレットは、美味しそうに食べるな」

「み、見てなくていいから、オルクスくんも食べて」


 促すのにニコニコするばかりで、オルクスくんはちっとも食べようとしない。仕方がないから、私はオルクスくんの手を持って串を口元に持っていく。


「美味しいから、食べて」

「……コレット手ずから食べさせてくれるなら、食べないとな」


 にんまり笑って、オルクスくんは差し出した肉にカプッとかぶりついた。その嬉しそうな顔を見ると、ずるいなとかもしかしてはめられたのかなとかいう気持ちはすぐになくなってしまう。


「二人とも、仲がいいねぇ。いやぁ、妬けちゃうよ」


 くっついて肉を食べていると、ベントがふらりとやってきた。そのにやけた顔を見れば、私たちを冷やかしに来たのだろう。


「オルクスくん、女の子の扱いに困ったら俺のところに相談においで。女の子の喜ばせ方、いつでも教えてあげるから」


 一応弁えはあるのか、ベントは私にではなくオルクスくんに絡んでいく。オルクスくんは嫌な顔をするかと思いきや、意外にも興味深そうにベントを見ている。


「ありがとうございます。ですが、僕は女の子を喜ばせたいわけではなく、コレットを喜ばせたいので」


 オルクスくんは真剣な顔をして、ベントに言い返していた。ベントは一瞬驚いた顔をして、それから大笑いした。


「お、言うねぇ。それじゃあ、俺は行くよ。馬に蹴られたくないからねぇ」


 気が済んだらしく、ベントは「あっはっは」と笑いながら去っていった。どうやら本当に冷やかしたかっただけみたいだ。

 それからいろんな人たちと代わる代わる話しながら肉を食べて、飲み物を飲んで、お腹も満たされてほどよく疲れた頃、リリーたちが走ってきた。


「食べた? 存分に食べた? 自分たちが裏でいろいろ準備してたときに食べたか?」


 何だか疲れてランナーズハイみたいな様子になったリリーが、やけに絡んでくる。この子は肉が好きだから、裏方に回って食べられなかったことを恨みに思っているみたいだ。

 

「た、食べたよ。おいしかったよ?」

「そうか。それなら、今からゲームを楽しんでもらう。探検部で、さっきまでかかって準備したんだ」


 リリーが言うと、シャニアとネプトと一緒にぴゅーとプルートが飛んできた。プルートの首には「あんたが隊長」と書かれた小さなサイズのたすきがかかっている。


「学院の敷地内に数字を書いたボールを隠したから、その数字を集めてビンゴするの。それで先にビンゴできたチームから順に景品をプレゼントするの」


 リリーに変わって、シャニアが嬉しそうに説明してくれる。それを聞いてプルートが得意げに「きゅっきゅ」と鳴く。


「学院内は広いから、もしヒントがほしかったらプルートに聞いたらいい」

「え? プルートに聞く?」


 ドヤ顔でネプトに言われたけれど、この可愛い生き物から何か有益な情報を入手できる気はしない。


「プルート、楽しそうでいいな。探検部に入ると言われたときはどうなるかと思ったけれど、楽しめてるならよかった」


 飛んできたプルートに愛おしそうに触れてオルクスくんが言うのを、ネプトがじっと見ていた。


「やはり使い魔と主人となると、意思の疎通がばっちりなんだな。その子の言っていることを理解するコツなんかはあるのか?」

「コツ、か。子供のときから一緒だったからな。とにかくよく見てやることと、根気強く向き合うことだな。だが、耳や尻尾の動きには多少規則性みたいなものはあるんだ」

「たとえば、どんな?」


 オルクスくんとネプトは、プルートを挟んで距離を縮めてあれこれ話し込んでいる。

 さすがは乙女ゲームの攻略キャラクター。ものすごく顔がいい。二人が至近距離で並ぶのは、かなりの破壊力だ。


「これ、ゲームだったら絶対スチルになってるね」

「無駄にエフェクトかかってるやつだろ? あるある」

「いいねぇ。眼福だねぇ。変な扉が開きそう」

「閉めろ、今すぐ閉めろ」


 私とリリーが顔を寄せ合ってコソコソ話していると、少し寂しそうにシャニアが見ていた。

 今回の騒動でお咎めはなかったけれど、本人としてはいろいろ思うところがあったようだ。これまでのトンチキさはなりを潜め、人との付き合い方をどうしたらいいかわからなくなってしまったようだ。

 それを励ますためにリリーが探検部なるものを発足して、好奇心旺盛なネプトなんかも巻き込んで楽しく過ごそうとしているみたいだ。

 

「シャニア、そんなところに突っ立ってないでこっち来なよ。コレットを勧誘してるんだからさ!」


 リリーが、シャニアに手招きした。呼ばれたことで、シャニアは嬉しそうな顔をする。


「コレットも、探検部に興味持ってくれたの? この学院に隠された数々の暗号なんて、ロマンよね!」

「そ、そうだね。それはぜひとも解き明かさなきゃね」


 リリーにちょっと前に教えてもらったのだけれど、私が辿らなかったたくさんのルートの中で発生するはずだったイベントに関する数々の謎解きが、まだこの学院の中に残されているのだという。さすが「マジラカ」はもとは謎解き脱出ゲームをメインで作っていた乙女ゲームなだけある。無駄に謎解き要素にも凝っているのだ。

 その謎を放置しておけないという気持ちもあるし、リリーが言った「シナリオの犠牲になっていいキャラなんていない」という言葉に共感している。だから、私も探検部で彼女たちと一緒に謎解きをしてみるのもいいかなと思ったのだ。


「よし! コレットも入るっていうことで、気合い入れて活動していこう」


 リリーが私とシャニアの肩を組んで、ニカッと笑った。

 その姿を見て、オルクスくんとネプトが何かコソコソ話しているのが聞こえてくる。


「仲がいいのは、いいな。コレットに友達が増えるのは嬉しい。最初は、自分以外とは仲良くしてほしくないと思っていたのに」

「それになんだろう。女子がああしてくっついているのは、素敵な光景だな。何か扉が開きそうだ」

「閉めろ閉めろ! その扉は開くな!」


 真剣な顔をしたネプトの口から漏れたとんでもない言葉を聞いて、リリーがすかさずツッコミを入れた。

 それを見て、私とシャニアはおかしくて笑いあった。

 好きな人がいて、友人がいて、みんなが元気で無事で、私は今すごく幸せだ。

 この幸せを、私はずっと噛みしめていこうと思う。


 私たちは“めでたしめでたし”のそのあとも、幸せに生きていくのだ。




《HappyTrueEnd》

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