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マンドラゴラ医療班とは、その名のとおりマンドラゴラを中心に結成された看護支援集団である。
件の病以前に菊乃井領ではマンドラゴラがコミュニティーを形成し、かつ人間のすることに興味を持ったため、色々と訓練とまでは行かなくても仕事を教えていた。
そしてマンドラゴラは人間の病に罹らない。
こういった事情から、要看護者からの感染を防ぐべく、件の病の看護にマンドラゴラが投入されたのが始まりである。
「……って感じで、合ってる?」
「合ってます、合ってます」
翌日、エイルさん達が到着した。
住居に関しては今まで旅暮らしで、いきなり街中にというのもちょっと……ということで、一族の人の大半は町外れの、菊乃井のお祭りで簡易宿泊施設にした仮設住宅に住んでもらうことに。
馬車は今まで通り使って良いし、仮設住宅周りには魔物が入れないような結界もある。それに詰め所に衛兵もいれば蜘蛛ちゃん達もいるから、防犯とか安全は問題なし。
けど、エイルさんは町に慣れるためと、一族の人が町に住みたくなったときすぐ住めるよう手伝いのためにってことで、町中の家に住むことにしたそうな。
パトリック先生の診療所にも役所にも近い立地で、ご近所にはナジェズダさんや菫子さん達や画家の旭さんが住んでいる。
菫子さんと一緒に住んでいる識さんとノエくんとは顔見知りだし、何かあれば相談に乗ってくれると言っていた。
移住してきたばかりで文化とかが違うし、そういうことで戸惑ったら皆相談に乗ってくれる。勿論役所に来ても良いし、私の屋敷に来てくれても大丈夫。
その代わりっていうとなんだけど、最低月一回行われる定例会議に集落を代表する人を一人は送り出してほしい。
事前に伝えていた話をすると、エイルさんからは「あたいかエムブラのどっちかが、必ず行くよ」と返答があった。
長老のリヴさんが自分は老い先短いから、こういうのは若手の仕事だって、二人を選んだんだって。
そういう諸々の申し送り後に、ニルスさんから聞いた「国境なき医師団」の話になった。
それで完全に「国境なき医師団」とは同じにならないけれど、菊乃井と次男坊さんのところで合同でマンドラゴラ医療班を編成することを伝えて、今ここ。
「いやぁ、マンドラゴラってなんでも出来るんだねぇ」
「教えれば、ですけれど。でも本格的な看護を教えたわけではないので、エイルさん達看護師の系譜の方々にマンドラゴラ達も鍛えてもらいたいんです」
「人間だけじゃなく、かい?」
「ええ。人間だけでは太刀打ちできない病が、もう存在しているので。これからもそういうのが出てこないとは限らないでしょう?」
何が嫌って。
件の病は人工物なわけだよ。
これが象牙の斜塔である意味正しく……大量殺人兵器として運用されてしまった以上、これよりも被害規模の大きなものを生み出そうとする輩がでないとは限らない。
恐らく色々な国の上層部が集まってる話し合いが進まないのも、これのせいじゃないかと思う。
この病が兵器として作られたことを公表すれば、同じような研究をする者が出てくるかも、という恐れだ。
でも、これはもう「次がある」と思って対処を考えた方が良い。
ファーストペンギンになるには勇気がいるけれど、最初の一人が出たらハードルは下がる。
今回はその最初が出た上に、これだけの成果が見えた。次に踏み出す者が現れるのはもう目に見えている。
「怖いこと言うね……」
「事実です。魔術は最初、魔物という自然災害を退けるために使われ、人が増えると今度は同族を殺すために研鑽された。技術が良い方にだけ進歩するとは限らない。だからこそ、幾重にも対策と防御策を立てておく。政を為すものが未来を読みたいと思うのも、結局はそういうことですから」
「分かったよ。件の病の二番煎じはともかく、病ってのは何が原因で流行るか、流行ってみないと分かんないもんだ。その時のための備えの大切さは、あたいらの一族も良く知ってる。マンドラゴラ達に看護を教えるのも、その一環ってことだね。任せておくれな」
にかっとエイルさんが笑う。
頼もしい人達が来てくれたものだ。
で、だ。
マンドラゴラ達に看護を教えてほしいのとは別に、もう一つ。
彼女達の悲願である「国境なき医師団」のことだ。
国の垣根を越えて中立というのはちょっと難しいけれど、マンドラゴラ医療班を持つ菊乃井と新たに編成される竹林院家のマンドラゴラ医療班。
この医療班は何処かの国が帝国に要請を出し、帝国がそれを受諾すれば、災害や疫病に対する支援の一つとして派遣される可能性がある。
なので、こっちに人員を割ける段取りをつけてもらえれば。
そう言えばエイルさんが「いいのかい!?」と声を挙げた。
「え? ああ、はい。無事に戻ってきてくれるんだったら、別に。行きっぱなしは今の菊乃井の状況では難しいですけど、それも医者や看護師、薬師他医療従事者が増えればなんとか……?」
あと、グループ編成とかも必要だよね。
菊乃井に残る人達、実際に派遣される人達、交代要員。他にも現地での活動に必要な物資を調達したり、必要な支援を事務的に把握したりする人達。
このあたりは、菊乃井の役所の優秀なお役人さんに頑張ってもらうことになるだろうけれど。
やっぱりどう考えても、マンドラゴラ医療班専任スタッフとかチームがいるな。
人材が! ほしい!
現状、すぐに菊乃井のマンドラゴラ医療班を動かす事態はこないだろう。けれどそれこそ災害なんかいつ来るかも分からない。備えは何も起こっていないからこそするものだ。
目がどよんと淀む。それを察したエイルさんが「大丈夫かい?」と声をかけてくれた。
「やらなきゃいけないことが沢山なのに、ままならないことばかりだなって」
「あー……」
まあ、そのへんのは関係者各位と相談しながら進めるより他ないだろう。
ということで、話題を変えてみる。
マンドラゴラ医療班のシンボルマークについて、だ。
エイルさん達に希望があるか尋ねると、彼女は少し考えて「医者とか看護師とか薬剤師ってすぐ分かる物が良いんじゃない?」と。
そりゃそうだ。
「あたいらは一族全員が何らかの医学に関わる物を学ぶから、当然字は読める。でも世の中、字が読めない人の方が多いだろ? そういう人達には絵みたいな、一目で解るもんがいいと思うね」
「なるほど、たしかに」
となると、イラストが一番分かりやすい。つまりマークだ。
前世でもピクトグラムという物があった。
あれは言語の違いで文字では伝わらない情報も、イラストという視覚情報で伝達できるように作られた物だ。
「マンドラゴラってアレだろ? 大根みたいなやつ」
「ええ。蕪型とか人参型もいますね。変わったところではゴボウ型もいるみたい」
「そうなのかい? いや、まあ、とにかくそういうのだろ? 大根が白衣着て聴診器持ってたり、人参が包帯持ってたり、蕪が薬を作る用のすり鉢持ってるとかで良いんじゃない?」
「おお」
それはありかも。
腕章や制服にそういうマークを縫い付けてやれば、分かりやすくなるかも。構成員自体も野菜だしな。
それなら旭さんに相談してみようか。
イラストなら画家さんに聞いた方がいいだろう。
頭の中で算段を付けていると、ふっとエイルさんが思い出したように口を開いた。
「話は変わるんだけど。パトリック先生が、早速明日から一緒に往診に回らないかって言ってくれててね」
「はい」
「明日は学校の健康診断に行くそうなんだ。何人かでついて行っていいかい?」
「勿論。パトリック先生には菊乃井の住民さん達に、エイルさん達一族の皆さんを紹介してくれるよう頼んでいますから」
「うん、ありがとう。あたいらも早く馴染めるように頑張るよ」
グッと握り拳を固めるエイルさんに右手を差し出す。
出した手は決意を込めるように、固く握り返された。
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活動報告、本日はお休みです。




