充填完了、菜園から始まる第一歩
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次回の更新は、5/1です。
そんなこんなで夕方、楽しいキャンプは終了。
町では武器屋のマーサさんの赤さんをあやす仕事を請け負ったり、腰が痛いお絹お婆さんの買い物の依頼を受けたり。
二人とも実は依頼を受けるのは二回目なので、スムーズに依頼は終わったんだ。
マーサさんは赤さんを産んだばっかりのお母さんだから、ロッテンマイヤーさんの赤さんの予行練習って感じでちょっと楽しかった。
レグルスくんも赤さんに髪の毛を引っ張られてたけど、優しく「おいしくないよ」って言い含めてたし、そんなレグルスくんがこの世で一番可愛いし。
今日だけで見習いポイントが結構溜まった。
この見習いポイントっていうのは、菊乃井の冒険者ギルド単独のサービスなんだけど、帝都の記念祭終了後から始まったんだ。
見習い冒険者が依頼をこなす度に、ポイントカードにスタンプを押してもらえる。
そのポイントカードのスタンプ欄は五十個あるんだけど、それが全部押されたら、何か一つ記念品がもらえるんだ。
菊乃井歌劇団グッズもあれば、Effet・Papillonの小物もある。
私が受けたマーサさんの赤さんをあやす仕事は、菊乃井の役所の保健所的部署から、親と子の健康・精神衛生のためのお仕事としてギルドに発注されている。その関係上、ちょっとポイント多めなんだよね。
お絹お婆さんの買い物の手伝いも、福祉課的部署のお仕事として発注されてるからポイント多め。
代りにそういう仕事の報酬はかなり低い。
私達兄弟はお小遣いに困ってないので引き受けたけど、ポイントカード制度が出来るまではあまり人気のないお仕事だったわけだ。
これはねぇ、仕方なくはあるんだ。
育児も老人介護も、家族の仕事っていうイメージが強くてさ。
身寄りや頼れる人がいれば事足りることなので、依頼自体が少ないんだよ。でも誰にも頼れない人にとってはセイフティネットがわりになるから。
それを領主が請け負うっていうのが、想定の範囲外なだけでな。
私は楽しかったから、また同じような依頼があれば引き受けるけど、保育園とかヘルパーサービスとか、考える必要の多いことよ。
ともあれ、そういう自由な一日を過ごしてレグルスくんとも楽しく遊べた。私、充填完了!
「菊乃井侯爵家当主鳳蝶! 完全復活!」
「おー! 菊乃井レグルス、おなじくかんぜんふっかーつ!」
ウェーイ!
レグルスくんとハイタッチすれば、菜園で迎えてくれた奏くんと紡くんとニルスさんがぱちぱちと拍手してくれる。
いやー、今年の夏も大分濃かった。
片付けなきゃいけないことの幾つかは片付いたし、破壊神の危機は去ったもんね。代わりに厄介な骨の危険がこんにちは! だけど。
奏くんと紡くんはいつも通り菜園の世話に来てくれて、ニルスさんは皇子殿下方から彼らが帰る前に「何事も経験。野菜をもぎれない令息より、もぎれる令息の方がいいだろう」と言いくるめ……じゃない、助言されて菜園の手伝いに来てくれたそうな。
農業はユレンシェーナの主な産業でもある。
自領民の生業や収穫の過程を知らないよりは、知っている方が領主としても役には立つだろう。
なので遠慮なしに手伝ってもらうことにして、見回せばニルスさんの爺やさんがいないことに気が付いた。
「あれ? アルバートさんは?」
「爺やはお借りしている部屋の清掃をしています。そのくらいはさせてほしいので」
「ああ、はい。希望が通るようには連絡していますから、それは大丈夫ですけど。一緒に行動しなくていいんですか?」
あの人、ニルスさん行くところ何処でも一緒に行きたそうだったけど。
ちょっと首を傾げると、ニルスさんが苦笑いを浮かべた。
「大分話し合いました。僕もそろそろ独り立ちすべきだと思うし、菊乃井のお屋敷内と街中は安全だから、と」
「なるほど」
本人達が円満に納得してのことなら、私が何を言うこともない。
では改めて菜園の仕事を開始だ。
今年はトウモロコシが美味しかったけど、そろそろ終わらせて秋冬野菜の準備をしなくちゃ。
そう言えば先生達が庭の隅でシイタケ栽培やってるんだよね。
直射日光の当たらない物置場所にしてたところなんだけど、暑すぎず寒すぎずの管理用の棚を作ってさ。
そういう光景だけを見てたら、菊乃井は牧歌的で平和なんだ。
いや、菊乃井は間違いなく平和だ。外から難題や災難が降って湧いて来るだけで。
明日はエイルさん達が引っ越してくる。
仰々しくセレモニーとかはしないけれど、「頼りになる皆さんが菊乃井に越してきてくれるから、仲良くしましょう。もし生活習慣や文化の違いで困ったことがあればお役所にきてね?」といった具合の映像を、菊乃井の各所に設置したスクリーンで既に放映して、周知は徹底的にやったから、後は融和を目指していけばいいだろう。
旧火神教団・現武神山派の人達も、雪樹の一族の人達も、越して来たときは戸惑うこともあったけど、今は溶け込んで生活出来ているんだもん。大丈夫。
それに魔女の一族……この呼び方も改めた方がいいな……の皆さんを連れて帰ることで、一番喜んでくれたのが私達兄弟の主治医にして、菊乃井の医療問題を頑張ってくれているパトリック先生だ。
「パトリック先生は相談できる人がほしかったのか」
「そう。やっぱり経験不足は否めないし、大根先生は薬学の見地からのアドバイスは出来るけど、手術の手技とか病気の特定とかそういうのは難しいんだって。医者の免状を取ったのも何百年も前だから」
「人間とエルフの違いとかもありそうだしな」
「実際あるみたいだよ。エルフって結石が稀に魔石化するらしいし」
「は? なんじゃそりゃ?」
奏くんが物凄く奇妙な顔をする。
結石って言う病気自体は、人間とかエルフとか種族の別なくわりとメジャーな病気なんだ。しかし、エルフは身体に内包する魔力が人間とは桁違いに高いので、結石が極まれに魔石化するらしい。
結石だから当然痛い。
その上に魔力が結石に蓄積されるので、体内の魔力の流れがおかしくなり、魔術の発動を阻害するようになるそうな。
人間の魔術師も、あまりに魔力が高過ぎたらそうなる可能性があるとかないとか。
「世の中には色んな病があるんですね」
ニルスさんがキュウリが入った笊を手に、会話に加わる。
爺やさんは腰痛持ちではあるけれど、特に病気はないそうだ。とはいえ歳のせいか疲れやすい感じはあるんだって。
「でも私が皆さんと行動を共にする間休養が取れたので、すっかり腰の調子も良くなったそうです。今までは痛そうに腰を叩いているのを日に何度か見かけたんですが、このところ全然見なくて」
「へぇ、良かったな!」
「そうだね、良かったねー……」
そっと目を逸らす。その腰が良くなったのは、菊乃井のご飯が美味しいからなんだよ。
奏くんも気付いたようで、笑顔のまますっと私に視線を寄越す。
まあ、いいじゃないか。
ニルスさんには菊乃井で色々学んで、それでもって本国に帰ってから活躍してもらわなきゃいけないんだ。
今の彼には味方が少なすぎる。爺やさんにはまだまだ現役でいてもらわないと。主にニルスさんの精神衛生というか、甘える拠り所として。
奏くんの視線をにこやかにスルーすると、ニルスさんがポンと手を打つ。
「そう言えば、僕、お聞きしたいことがあって」
「はい? なんでしょう?」
「宴の席でリヴさんからお聞きしたんですけど、異世界には国を跨いで活躍する医療機関が存在するそうなんです。閣下のお祖母様の情報に、そういった物があるのかと……」
思い出すように告げられた言葉に、奏くんも「そう言えば」と呟く。
そこにトウモロコシを持ったレグルスくんと、トマトを抱えた紡くんもやって来た。
「おれも、さわぎのあとできいたよ。たしか……なんだっけ、つむ?」
「えぇっと、こっきょうなきいしだん? だったとおもいます」
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