休息の間も時代は動く
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次回の更新は、4/27です。
菜園での野良仕事を終えたら、後はまた自由時間。
お庭キャンプの終了はその日の夕方で、お昼ご飯はまたキャンプ飯だ。
持たせてもらったバゲットに、リュウモドキのベーコンをぶ厚く切って焼いたヤツ、それからレタスと玉ねぎに、庭で育ててるニワトリの卵の目玉焼きを乗せたオープンサンドですよ~。
他にも料理人見習いのカイくんとアンナさんが作ってくれたピクルスもあれば、料理長が作ってくれたスモークサーモンなんかもある。
そう、スモークサーモンだ。
これの材料の鮭なんだけど、菊乃井のダンジョンで獲れたんだよね。
菊乃井のダンジョンには内陸部にあるから、海と繋がってはいない。これ、ダンジョンの最下層のボス部屋で獲れたんだけど、水のない地面でビチビチ跳ねてたんだよね。
魚が陸に打ち上げられたら、こっちが何もしなくても死んじゃう。長く苦しめることもないだろうって、その場で〆て凍らせてマジックバッグに入れて持って帰って来たんだ。
最初に魚が出たときは驚いたけど、もう何度か同じ経験をしてるから「そんなものなのかな?」って思い始めてる。
大根先生にも見解をお聞きしたんだけど「ダンジョンも全容が解明されているわけではないので」とのこと。
ぶっちゃけ、何にも分かんないからこれから研究しようねってことだ。
まあ、美味しいものなら歓迎するよ。
それに海の中じゃかなり強い魚でも、陸に上がれば一溜りもないみたいで楽に倒せるしね。
スモークサーモンを一切れ食べて、レグルスくんがにっこり笑う。
「おいしいね。またダンジョンにとりにいかなきゃだね!」
「そうだねぇ。また鮭が出るといいよね。この間はマグロだったし」
「マグロのカルパッチョ? レクスのレシピノートにあったやつ、アレもおいしかった!」
「うんうん。料理長が作ってくれたオイル煮も美味しかったよね」
今まで魚は次男坊さんが送ってくれるか、バーバリアンや晴さんが送ってくれるかだったけど、ダンジョンでも獲れるようになってから、食卓に乗る回数が増えた。
次男坊さんやバーバリアンや晴さんの送ってくれるお魚も美味しいけど、頂き物を市場には流せない。
だけどダンジョンで獲れるなら、それは冒険者ギルドを通じて菊乃井の商店街に卸すことが出来る。
今はまだうちと奏くんちで消費する分くらいしか獲れないし、毎回獲れるわけでもないから無理だけど、恒常的にダンジョンで魚が出るなら、菊乃井民も安価で海の魚を食べられる可能性が出てくるわけだ。
これからのダンジョン研究に期待ってとこだね。
美味しいお昼ご飯を楽しんだ後は、町へとお出かけ。
菊乃井歌劇団のショーに空席があったら、そっちへ。無かったら冒険者ギルドで見習いのお仕事を。
そういう大雑把な予定にして行ったんだけど、案の定というか何というか、歌劇団の空席はなかった。
エリックさんが席を手配してくれようとしたんだけど、それは断った。特別扱いは良くないからね。
そういうわけで冒険者ギルドに行ったんだけど、希望の配達人パーティーと偶然遭遇して。
「最近はどうです?」
「うーん、特に難しい依頼は無いんですけどちょっと気になることがあって」
依頼が貼ってあるボードの前で立っていた三人は、とある依頼書を見て首を捻る。それからその依頼書を私とレグルスくんに見せて来た。
「ルマーニュからの依頼ですね……?」
「はい。ちょっと内容が変というか。村の防衛任務なんですけど、依頼主がルマーニュ王都の冒険者ギルドっていうのが、ちょっと……かなり引っかかるんですよね」
シェリーさんの顔に困惑が浮かんでいる。
村の防衛依頼というのは、盗賊とかモンスターに襲われる可能性がある地域から出される依頼だ。
その依頼主は通常なら、村を所有する領主だ。
だって、村も村人も領主の財産ぞ?
本来は自分とこの騎士団なり何なりで対応するんだよ。もしくはもっと上……お国とか寄り親に頼むとかさ。
それより冒険者に依頼した方が安くつくとか、私兵を動かすには村の規模が小さいとかだと、稀に冒険者ギルドに依頼を出す。
領主がちょっと頼りないところだと、その村の名主や庄屋さんということもあるけれど、それはもっと稀な話だ。
財産を守らない領主なんか、基本はいない。
にも拘らず、シェリーさん達が持っている依頼書の依頼主はルマーニュ王都の冒険者ギルド、とは。
一気に目が滑るし淀む。
ルマーニュ王国の、良くない方向に転がるスピードが加速している気がする。
そっと目を逸らすと、シェリーさんがひくっと口元を引き攣らせた。
「あー……そういう反応の案件なんですね、これ」
「いやー、断定は出来ないけど……。敵はモンスターじゃない気がするなぁ。盗賊や山賊の皮を被ったナニか、とか」
「やっぱりぃ」
シェリーさんが嫌そうに顔を歪めたのを見て、ビリーさんやグレイさんも眉間を押さえる。
依頼主が冒険者ギルドということは、彼等はルマーニュで本当の仕事をしているわけだ。即ち権力を監視し、その濫用を阻止するっていう。
王都の冒険者ギルドが依頼主ということは、敵はその地の役人か、下手すりゃ領主だ。
そこにシェリーさんが気付き、シェリーさんの表情を見たビリーさんやグレイさんもヤバい案件という気配が読み取れたんだろう。
暫く考えて、シェリーさんがビリーさんやグレイさんの顔を見た。二人とももう額を押さえてはいない。
顔を見合わせて三人が頷いた。
「この依頼、受けます」
「あー……えー……私の立場からは何とも言えないんですが、逃げ道は用意しておきましょうね?」
「はい。っていうか、ネームバリューが通じる今だからこそ、こういう依頼を受けた方がいいと思うんです。ご領主様こそ、大丈夫ですか?」
尋ねられて、少し考える。
不意に見上げて来たレグルスくんと目が合った。レグルスくんは唇を真一文字に引き結んで、きゅっと拳を握っている。
この子は正義感の強い子だ。色々思うことがあるんだろう。
「軽々に首を突っ込める立場にはないですけど、別に大丈夫ですよ。元々ルマーニュ王国には好かれていないですし。それよりも、私と縁があるせいで、あっちから目の敵にされる可能性を考えた方がいいかも知れません」
腕組みしつつ言えば、シェリーさんもビリーさんもグレイさんも笑う。
「それくらいは大丈夫です。前のパーティーにいたとき、そういう目で見られたことは何度もありましたし」
「今回はおいら達だけじゃなく、他の冒険者パーティーもいますし。何とかなるんじゃないかなぁ」
「うん。少なくともルマーニュ王都のギルマスは冒険者の味方だって、ここのギルマスのおっちゃんが言ってたしな」
決意は固いようだ。
今の彼等に「菊乃井侯爵の息がかかっている」というのが、どういうメリットがあって、どういうデメリットがあるか、予測が付かない。
ルマーニュの市民は少し協力的になるかもしれないけれど、体制側が正反対の対応になるかも。
ギルド発注の村落防衛任務に参加するならどの道体制側とはぶつかるだろうから、デメリットは考えるだけ無意味か。
「みんな、がんばってね。おうえんしてるから!」
「ご武運を」
レグルスくんが力強くいうのに、私も穏やかに付け加える。
やれるだけのことはしておこう。
ルマーニュに出発する前に一度屋敷に来てもらうよう、シェリーさん達に告げる。
彼らが希望の配達任務を滞りなく済ませて帰って来れるように、準備をしておかなくては。
時代がゆっくり、けれど確実に動いている。
窓から差し込む光の強さに、私は目を遠くに向けた。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




