シルクって繊細に見えて強いっていうし
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次回の更新は、4/24です。
菊乃井で虫系モンスターって言えば勿論蜘蛛族になるわけだけど、タラちゃんが来て他の蜘蛛族に移住を促してコミュニティーを作るまでは、禍雀蜂が一番有名だった。
蜜が美味しいんだよ。
その蜜の甘さとは裏腹に、モンスターとしてはとても恐ろしい。
毒針を持ってるし、その毒だってややこしい上に、一回刺されて運よく生き残っても、二回目には確実に死に至る。
集団で襲われたら確実に死ぬ。
針を刺しても蜜蜂とは違って死なないし、何なら即生えてくるし。
滅多にダンジョンから出てこないけど、出て来たときは集団だから、超が付くほど危険。
そんな危険な生物がダンジョンから出てくる理由は何か?
餌がダンジョン内で獲れなかった時だ。
以前は菊乃井の住人を襲うこともあったけど、今は皆無。
タラちゃん達がいるからね。
蜘蛛族って禍雀蜂だけじゃなく、大概の虫系モンスターの天敵なんだよ。
で。
「偶々ダンジョンから出て来た禍雀蜂に追われて逃げたら、その禍雀蜂ごとタラちゃんの張った罠の巣に引っ掛かった、って?」
「うん。蜂の方は俺が救助と説得してダンジョンに帰した。あとで蜂蜜納入してくれるってさ」
「へぇ?」
「嘘吐いたらライラとアメナ連れて乗り込むから、って言っといたから」
「それ、救助じゃなくカツアゲでは?」
「人聞きが悪いなぁ。救助費用立替分の請求だって」
物は言いようだな。
ラシードさんがにやっと口の端を上げる。何という悪徳救助屋だろうか。
ござる丸が頭に巨大蚕を乗せて私とレグルスくんのところにきたのは、ラシードさんに連絡を頼まれたからだそうな。
タラちゃんが罠を張ってたのはおやつの確保もあるんだけど、治安維持のため。飛行型モンスターへの警戒だったわけだよ。
モンスターは人間の使い魔でもない限り基本悪意がないから、先生方が張って下さっている悪意を持つ誰かを遠ざける結界をすり抜けてしまう。
それをカバーしてくれるのが、蜘蛛族の上位種の蜘蛛の巣と糸なのだ。
朝っぱらから自分が張った巣の上で暴れる二匹を見つけたという。
それで厩舎で掃除中のラシードさんを呼んで協議の結果、巨大蚕……見た目が蚕なだけで、モンスターだから全く別物なんだけど……をどうするか、私に判断を委ねることになったそうな。
タラちゃん達のおやつか、リリースか、糸を作れる生き物なので雇用かってことね。
その協議の過程で、禍雀蜂は蜂蜜をカツアゲをされることにという。
ここで拒否ったら、タラちゃん達のおやつになる運命だからな。そりゃ拒否れまいて。
「うーん。雇用は構わないけど、蚕っていうか、蛾って蜘蛛が天敵じゃなかったっけ? それで共生が出来るもんなの?」
タラちゃん達蜘蛛族は賢いし統率が取れているから、蚕であっても同僚を襲うことはないだろう。
翻って蚕の方はどうなのか?
いくら大丈夫って理性で解ってても、本能的な恐怖を抑えるのは難しかろう。
そんなことを言うと、傍で聞いていたレグルスくんが凄く怪訝そうな顔をした。
「あにうえ、それはだいじょうぶだとおもうよ。アレ、みて?」
「え?」
レグルスくんが指差した方を見ると、ござる丸が途方に暮れている。何でそんなに萎れてるのか解んないけど、ござる丸の仕上がってる腕の中で蚕がひっくり返って寝ていて。
見事なへそ天蚕に、タラちゃんも困惑している雰囲気がヒシヒシだ。
「なに、あれ?」
「えー……蚕に魔力吸われたっぽいぞ?」
「ござる丸のはっぱがしおしお……」
萎れてしわしわだけじゃなく、ご自慢の葉っぱもくたりと萎びていている。
何があったか尋ねると、私達が話してる間はおやつにされることはないと踏んだ蚕が、開き直ってござる丸の魔力を蜜を吸うのと同じ要領で吸ったらしい。
結構な量を吸って満足した蚕は「後は野となれ山となれ~」の精神で寝てしまったとか。
「図太いな……?」
「なんか、すごいね……」
ラシードさんとレグルスくんの言葉に全面同意だ。
けどなぁ、計算づくの行動ではないだろうけど、これでこっちは蚕を雇うしかなくなったんだよ。だってござる丸の魔力は即ち私が注いだ魔力でもあるから、野放しには出来ない。
この蚕は人を襲う種じゃないらしいけど、私の魔力で強化された状態で放免して、どこぞの領の農作物を荒らされても困る。
タラちゃん達のおやつにしたって、私の魔力がどういう作用を引き起こすか分かったもんじゃないしな。
致し方なしにすぴょすぴょしてる蚕の腹をちょんと突けば、起きたのかすぐに寝返りを打ってこっちを見る。
「よくみると、かいこもかわいいね?」
「そうだねー……ってわけで、契約しましょうか? 私の魔力を提供する、代わりにそっちは糸を出す。よろしいか?」
蚕は鳴かない。けど足をひょいっと上げて「はい!」って感じ。
ラシードさんが「それでいいってさ」と頷いたので、契約締結。この図太い蚕は、今日から菊乃井ファミリーの一員だ。
巨大蚕……名前をレグルスくんが付けたいっていうので任せたんだけど、レーナだって。
旧い言葉で蛾をファレーナって呼ぶとこから取ったそうな。
レーナのご飯は魔力と花の蜜で、魔力は私やらレグルスくんからもらって、蜜は庭の花から分けてもらうそうな。
これはレグルスくんのひよこちゃんポーチに住んでいる、花の精霊ピヨちゃんによろしく言っておいた。
菊乃井に住んでる精霊王にも話を通してくれるって。
レーナにも菊乃井の生態系に配慮して、蜜を吸いつくさないことを約束させた。物分かりのいい子だ。
レーナは名付けが終わると、タラちゃんとござる丸に連れられて挨拶回りに。
菊乃井動物ヒエラルキーやマンドラゴラ村との関係が色々ある。その辺はモンスターのまとめ役をしてくれるタラちゃんに任せた方が良いだろう。
人間側にもレーナが加わった情報を回さなきゃいけないんだけど、これはラシードさんが引き受けてくれた。
やっぱり私にはレーナの声が聞こえないんだけど、聞こえるラシードさんにどんなか聞くと、直接頭の中に話しかけてくる感じなんだって。
それなら解る。だって私の頭に直接語り掛けてます……をしてくるヤツが、腰にくっ付いてるから。
そんな訳で朝っぱらのひと騒ぎは終了。
まだキャンプ中なので、午前中の畑仕事が終わったら町に行く予定だ。
えっちらおっちら菜園に行くと、奏くんと紡くんがもう水やりをしている。
「おー、おはよう! キャンプ、どうよ?」
「おはよー。すっごく楽しかった」
手を上げて迎えてくれる奏くんに笑顔で返す。一方レグルスくんと紡くんも、挨拶して話し出した。
「きのう、マンドラゴラのぼでーのムキムキみてきたんだ」
「えー、いいなー! つむもみたかった!」
「つぎのコンテストのときは、ござる丸にかなもつむもいっしょにいっていいか、きいておくね」
「はい! おねがいします!」
紡くんがぺこっとお辞儀する。
レグルスくんも楽しそうに頷いていて、可愛い光景に凄く和む。
奏くんがこてっと首を傾げた。
「マンドラゴラのコンテストってアレか? なんかポーズ取って筋肉見せてくるヤツ?」
「え? 奏くん、知ってるの?」
「詳しくは知らない。じいちゃんが時々庭で筋肉見せ勝負を挑まれるらしいから」
「なん、だと……?」
奏くんの思わぬ言葉に口元がひくつく。
思わず脳裏にコンテストでござる丸が取っていたポーズが浮かんだ。
それだけでなく、身体を横に向け上半身を捻って正面を向き、左腕で右腕の手首を掴んで上腕筋を見せてくる源三さんとござる丸も浮かんできて。
だから大根の筋肉って以下略。
「因みに、じいちゃんに筋肉で勝てるマンドラゴラはいない」
しみじみとした奏くんの言葉に、私は「そうなんだー……」と返すほかなくて。
そう言えばござる丸が取っていたポーズ。アレはサイドチェストという名前だったはず。
思い出した瞬間、私の膝が地面に崩れた。
なんてものを思い出させやがる……!
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




