地形が変わる親子の再会
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次回の更新は、3/9です。
穏やかなエイルさんの言葉に、ニルスさんが同じくらい穏やかな表情をする。
「皆さんの道行に幸いがあるよう、お祈り申し上げます」
「ありがとう、坊ちゃん」
柔らかな雰囲気のなか、山登りは続く。
五合目以降、六合目くらいはなんとか道らしき物があったんだけど、そこから先は登る人も限られているのか獣道だ。
まあね。
レグルスくんや奏くん、紡くんは何だかんだ山登り得意なんだよ。時々ラーラさんに連れられて山に遊びに行ってるから。
エイルさんは去年もワジュドさんのマーキング付きで登山していたから、すいすい登っている。
先生方なんか超余裕。
残るは私とニルスさんですが、仲良くタラちゃんに騎乗中。
私だってちゃんとエルフィンブートキャンプ参加してるんだよ? クリアもしてるんだよ?
なのに圧倒的に山登りに才能がない。ニルスさんも似たようなもん。
ニルスさんは私と違って本当に御曹司だったみたいで、山に登る想定の訓練なんかしてないから仕方ない。
私の運動の才能のなさよ。なんならござる丸のがぴょいぴょい歩いてる。どないなっとんねん、マジで。
レグルスくん達なんて、途中ござる丸と大根先生と一緒にキノコやら自然薯掘ってるしね。もっとアレなのはロマノフ先生とラーラさんで、怯えて出て来た角生えた熊とか何か分からん巨大ナナフシとか岩くらい大きいカエルとか捕まえてた。魔境なのか、ルッジェーロ山。
私もタラちゃんや菊乃井で待っている蜘蛛ちゃん達のために、羽根の生えた三葉虫みたいなのを何匹か捕まえたけど。
そんな私達をおっかなビックリで眺めながら、エイルさんも「あ、この薬草ばあちゃんが探してたヤツ!」とかって、凄い勢いで採ってたしね。
それでも九合目まで来るとちょっと様子が変わって。
足場がほぼ大きな岩になった。
所々に積み上がった岩は、頂上付近から落ちて来たものだろうか。草も岩と岩の間からちょろっと覗くだけだし、眼下には霧のようなものが拡がっている。
でもこの霧は本当の、自然現象の霧ではないようだ。だって目が痛む。チカチカしてんだよなー……。
同じく眩しそうにするヴィクトルさんに尋ねると。
「ああ、うん。これ魔素濃度が滅茶苦茶高いところに、幻覚魔術になる寸前の魔力を薄っすら流すとこうなるんだ。あーたんはその魔力に反応してるっぽいね」
「凄くチカチカするのは魔術発動の光を見てるから、ですか?」
「恐らくは。あーたんの魔眼の方向性が、魔素や魔力、魔術の流れを視るとかそういう方面に特化してくる前兆かも知れないね」
そういう魔眼持ちは特に珍しくはないそうだ。なので魔眼殺しの眼鏡を作ることも、苦労は無さそう。
「そっち方面の魔眼なら、鬱陶しくなければ態々眼鏡を作らなくて済むかもしれないよ」
「制御が容易くなるとはいえ、やはり魔眼殺しの眼鏡は安価とは言えないからなぁ」
ヴィクトルさんの説明の補足をしてくれる大根先生の言葉に頷く。
なお、魔眼殺しの研究者も大根先生の弟子にはいたそうな。でももうお亡くなりになっていて、研究自体は防具の類型として浩然さんの家系に受け継がれているとのこと。
つまり私は貴重な被検体なんだってさ。まあ、危なくない限り好きに使ってくれ。
休憩を挟みつつ歩くこと暫く、ロマノフ先生の尖ったお耳がぴくっと跳ねた。勿論ロマノフ先生だけじゃなくヴィクトルさんやラーラさん、大根先生も。
それから大根先生が微妙に苦笑いを浮かべた。
「なんというか、アリョーシュカとヴィーチェニカや姉上の会話のようだ」
「え?」
エルフ先生達以外、皆きょとんだ。
ロマノフ先生が肩をすくめて大根先生の方を見る。
「私は叔父上とラーラや母のやり取りを思い出しましたが?」
「まあ、似てはいるかな?」
なんのこっちゃ?
そういう顔を皆でしていると、ヴィクトルさんとラーラさんがジト目になった。
「ラナー嬢がお母様と口喧嘩してるんだけど、内容がね」
「ボクらや伯母様が、叔父様やアリョーシャに口酸っぱく整理整頓してって言ってるのと似てるんだよ」
「ああ……」
ロマノフ先生のマジックバッグ、腐海化してるらしいもんね。
因みに私は定期的にマジックバッグの整理をしているので、今のところ腐海化はない。そしてその時はレグルスくんや奏くん、紡くんも一緒にやってるので心配ご無用。ピヨちゃんも何が入ってるか把握してくれてるし。
中身はだいたいお財布とハンカチに懐紙、包帯、簡易のソーイングセットとか。お出かけの時はプシュケを入れていることも。
今度からロマノフ先生のマジックバッグの整理には、私も参加させてもらおう。何か凄いものが出てくる気がしてならない。
それはそれとして。
地面が僅かに揺れる感触がある。
さしものタラちゃんも、私とニルスさんの二人乗りはちょっと動きにくくて揺れているのかと思ったんだけど、どうも違うようだ。ござる丸も「ござぁ~?」と鳴くんだけど、その「ござぁ~?」には「歩きにくい」というニュアンスがあってだな。
レグルスくんが奏くんや紡くんに「ゆれてる?」と尋ねた。
「ゆれてるとおもう」
「うん、揺れてる。ノエ兄ちゃんも感じるだろ?」
二人ともコクっと頷くと、奏くんが後ろにいたノエくんを振り返る。
「ああ。縦揺れ?」
「そう言えば、少し歩きにくいような?」
「え? 地震ってこと?」
「山が揺れるって相当なんじゃ……?」
ノエくんの言葉に識さんが首を捻り、皇子殿下方が顔を見合わせる。なるほど、気のせいじゃないらしい。
私達のやり取りに、エイルさんが「あ!」と声をあげた。
「親子喧嘩の余波じゃないかい!? ワジュドおばちゃんがよく言ってたんだ。娘と喧嘩すると地形が変わるって!」
おうふ、こりゃヤバい。
段々と感じる揺れが大きくなっている気がする。
持って来たプシュケを空に浮かせると、気配探知の魔術を展開した。
「急ぎましょう! 親子喧嘩がこれ以上ヒートアップしたらヤバいので!」
「そうですね。山頂の洞窟が塒だと仰ってたので、きっとそこでしょう」
「大きな魔力が視えるから、誘導するよ」
ロマノフ先生にヴィクトルさんが頷く。
道を急ぐ間に、ラナーさんに着いていかせたプシュケの視界と私の視界を同期させた。
大きな洞窟なのか、高い天井が見える。超至近距離に、かなり大きな気配と魔力を二つ感知。
辺りを確かめるようにプシュケを飛ばせば、ラナーさんが見えた。
『せやからうち言うとったやん! 危ないモンはその辺に置かんと、逝んでまう前に処分しとかなあかんでって!』
『お母ちゃんかて言うとったやないの! 処分し忘れることもあるさかい、十年に一回くらいはアンタ見に来なあかんでって!』
『何言うとんの!? 普段からちゃんとほかすなり直すなりしとったら、そんなん気にせんでええんやで!? 親の不始末、子の難儀言うやろ!?』
『アンタ! 独り立ちしてからフラフラして、顔もそないに見せにこんで! お母ちゃん、アンタのことそない薄情な子ぉに育てた覚えないで!?』
キシャー!? と聞いたこともないような勢いで声を荒らげるラナーさんに、彼女と同じくらいの大きさのドラゴンが吼える。
そのドラゴン、鱗は恐らく青系なんだろうけど薄っすら透けているような。
お母ちゃんとラナーさんが呼ぶなら、このドラゴンさんはワジュドさんで確定だろう。
なんか凄い勢いで口喧嘩を繰り広げてるんだけど、ラナーさんがドスドス足踏みをするたびに地面が隆起している気がしてならない。
これはマズい。
そう思って、暴れるドラゴンの間にプシュケを滑り込ませたんだけど、二人とも興奮しすぎてお互い以外目に入っていない。
「ラナーさーん! 聞いてー!?」
声をかけてもダメっぽい。
仕方ないので、タラちゃんの横を歩いていたエイルさんに声をかける。
「あの、このプシュケに向かって一緒に呼びかけてもらって良いです?」
「ああ、うん。おばちゃん、相変わらずだね……」
苦笑いのエイルさんが翠のプシュケを受け取る。
そして。
「ワジュドおばちゃーん! あたいだよ! エイルだよ! おばちゃん、無事なのかい!?」
こっちもドラゴン二人に負けず劣らずの声だ。
耳がきーんとしつつも待つこと暫し。
『こまめちゃん!? こまめちゃんかいな!?』
喜びに満ちた声が、プシュケからはっきり聞こえて来た。
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