起こりそうだったホラー事件が既に解決してるミステリー
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予想もしなかった言葉に、一気に私達サイドの雰囲気が凍る。
空飛びクジラといい、ラナーさんのお母様といい。
今年の夏はそれ系ハプニングが目白押しですか、そうですか。
内心で若干白目を剥いても、悟らせないくらいの根性はある。
ので、喉から間抜けな声は出たものの平静を装って。
「亡くなっているけれど生きている、とは? もしかしてアンデッド化しているとかそういう?」
尋ねてみたものの、なんかしっくり来ない。
第一ラナーさんが「力の強いドラゴンは、死後アンデッド化しにくい」と言っていた。だからお母様もその心配は……。
待て。
例外があった。
彼女のお母様、さっきエムブラさんが「ワジュドおばちゃん」と呼んでいたから、ワジュドさんか。
ラナーさんは、ワジュドさんがイワクツキのお宝を持っていたと言ってたじゃないか。
でもその割には【千里眼】が何も言わない。
これはワジュドさんがアンデッド化してないってことなのか、よしんばアンデッド化していても勝てる相手なのか。
判断が出来ずにいると、エイルさん達がそれぞれ困ったような表情になった。
「なんて言ったらいいんだろうね? ワジュドおばちゃんは、自分は幽霊みたいなもんだって言ってたけど」
「幽霊に悪意と魔力が宿っているとレイスとかリッチになるんだっけ? おばちゃんは魔力はあるけど悪意はないから、何なんだろうって」
「まあどっちにしても、ワジュドさんが望んでそうなったんじゃないって言ってたね。だからワジュドさんにもどうなるんだか読めないって」
「ははぁ……」
いや、解らん。
話を総合すると、ワジュドさんは亡くなっている。
でも幽霊というか、エイルさん達と話が出来る状況にあって、だから彼女達はワジュドさんは亡くなっているんだけど生きていると表現した。そういうことだろう。
意思の疎通が出来るんなら、別段登山しても怖がることはないんでは?
同じように考えたのかレグルスくんがきょとんとしつつ口にする。
が、和気藹々と盛り上がっていたエイルさん達が、青菜に塩をかけたように萎れた。
なんぞ?
「いやぁ……それがね」
エイルさんのいうことには、たしかにワジュドさんとは今年の春先までは意思の疎通が出来ていたそうな。
ワジュドさんは強いドラゴンだからか、エイルさん達の一族にマーキングを施して、旅の安全を守ってくれてたらしい。それから定期的に魔術でお喋りもしてたとか。
しかしこの夏の始め、丁度ニルスさんがこっちの大陸に疎開してきたころに事情が変わった。
施されたマーキングは変わらずに維持されていたけれど、ワジュドさんからの魔術連絡が来なくなったという。
「正確には打ち切られたって言うのかね? ある日、ワジュドのおばちゃんから連絡があって、普段ならよく聞こえる声が途切れ途切れで。上手く聞けなかったんだけど、なんとか聞き取れたのが『イワクツキ』とか『デミリッチ』とか。それで『山頂に来たらあかん』って」
「えぇ……」
もう最悪じゃん。
ラナーさんが予測していたように、イワクツキが悪さをしている。
だけどこの期に及んで【千里眼】は沈黙。お昼寝中かよ、働けや。
エイルさんの話は続く。
ワジュドさんの妙な通信に、一族の皆さんはどうするかを話あったそうだ。
「ワジュドおばちゃんが『来るな』って言うからには何かあったんだと思うんだ。でももしかしたら、おばちゃん死んでも強いし、自分で解決できたかもって思って。おばちゃん、毎年あたしらが必要とする薬草の出来具合を、時期になったら教えてくれるんだ。だからその連絡が来る時期までマルフィーザの外で待ってようってことになったんだ」
「じゃあ、エイルさん達がついこの間までマルフィーザの外にいたのは……」
「ワジュドおばちゃんからの連絡がなくて。でもあたいら、おばちゃんの様子が知りたかったんだ。それで……」
一族総意で戻ってきてマルフィーザの町で私達に会い、ワジュドさんに会うためにルッジェーロ山に登ったら厄介な病気の男を拾ったという。
マジでこれ、マルフィーザの町でニルスさんを拾い、エイルさんと知り合ってなきゃ、世界が詰んでたかも知れない。
しかしイワクツキと来たか。
そのイワクってやつはどの辺だろう。そして「デミリッチ」と言うのに、ふっと引っかかりを覚えた。
あれ?
ちょっと首を捻ると、奏くんがツンツンと背中を突いて来た。
「若様さぁ、あのときの解呪と浄化。どの範囲まで行ったと思う?」
「アレねぇ。あの山の天辺から裾野まで完璧にフォロー出来てる、はず」
「はず?」
「いや、確実に。蟻の巣穴の隅々まで行ってる」
「だよなー」
憶測で物を言うのは良くないけど、奏くんの反応からして多分あっているだろう。
なるほど、【千里眼】は何も言わないはずだ。というか、もっと前に警告があった。
あのときの背筋が寒くなるようなアレは、件の病に罹った男とエイルさんが接触することだけじゃなかったわけだ。
ぽりっと頬を掻く。
「とりあえず、ルッジェーロ山に行ってみましょうか」
「い、いいのかい?」
「下手したらディザスタークラスのドラゴンのリッチだか何だかとかち合っちまうんだよ?」
「お願いしたいのは本当だけど、無理なら……」
エイルさんもリヴさんもエムブラさんも、遠慮がちだけど何処か嬉しそうだ。それだけワジュドさんを慕っているんだろう。
ただ、役者が足りないんだよなー。
「いや、大丈夫です。多分もう心配はないはず。でもその前にちょっと連絡したい人がいるんで、その人と連絡取れてからでいいですか?」
「あ、ああ。勿論。お前様方の良いようにしておくれ」
リヴさんの言葉に頷くと、くるっと振り返る。
そして先生方にまず菊乃井と梅渓に行ってもらうことにした。
「分かった。けーたんとこには僕が行くよ」
「じゃあ、菊乃井はボクだね」
「それなら私は念のために帝都に行きましょう」
「よろしくお願いします」
ぺこっと頭を下げると、お三方が手を振って転移魔術を発動させる。
今からだと帝国は夜かな?
そんなことを思っているとレグルスくんが「ああ」と頷いた。
「ラナーさん?」
「うん、そう。お母様のこと、気にしてらしたからね」
私の言葉に奏くんや紡くんも頷く。
エイルさん達も娘さんに連絡するのは大事なことだと了承してくれた。
それからおずおずとエムブラさん、そういえば彼女も見事なパッチワークの、こっちはズボンを履いている。刺繍も凄く可愛い。
彼女がおずおずと口を開いた。
「あの、大丈夫ってさっき……」
「ああ。えぇっと、ひけらかすわけじゃないんですが、私【千里眼】の中級持ちなんです」
「それは……!」
三人の目が見開かれる。
なんかー【千里眼】てー、保持者結構少ないマイナースキルなんだってー。その割に有名なのは結構逸話があるからでー。
「その【千里眼】が危険を訴えてこないんですよね」
「それにほら。エイル姉ちゃんに山で再会したとき、大規模解呪と浄化をやったじゃん? あれで多分何とかなってると思うぜ」
「え!? あれで!?」
こくっと四人で頷く。
ビックリしたのはエイルさん達だけじゃなく、ニルスさんもだったみたい。
「あれ、そんな威力があったんですか!?」
「ええ。でもあのお山はそもそも人がそんなにいなかったからか、負の思念が増幅されてなかったんですよね。それでかなり風通しがよかったのも」
翻って言えば、ルマーニュ王国みたいに人が多くて負の思念も多いと、あれだけの浄化や解呪をやっても間に合う気がしない。
説明すれば、ニルスさんが「ですよねー」と遠い目になる。
ルマーニュに関しては、本当にどう手を付けたらいいんだろうね……。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




