出世払いの定義と返済猶予期間とは
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次回の更新は、2/16です。
星だけが煌めく夜空に、空気を満杯にした布袋を想い切り叩いたような音とドラゴンの悲鳴が響く。
ドラゴンの悲鳴はともかく、布袋を殴ったときのような響きは、場にそぐうものではなくて。
首を捻っているうちに、剣を破壊神の胸に振り下ろしたノエくんの様子がおかしくなった。
「痛ったー!?」
「の、ノエくーん!?」
彼の手からアレティが滑り落ちる。それから屈みこむと、慌てて識さんもノエくんの傍で屈みこんだ。
何が起こったか理解するより早く、破壊神が吼えた。
『キサックッシッ!? コゾ、ズルル、小僧! キサマ、ヤルナラゲッフッゴッフッ!? マジメニズズ、ヤランカッ!』
「っ煩いな!? オレだって真面目に力いっぱい振り下ろしたよ! 振り下ろしたけど、なんか弾かれちゃったんだから仕方ないだろ!?」
「ノエ君!? 手は大丈夫!? 捻ってない!?」
「大丈夫だけど、ジンジンする……」
『小僧! イチャゲッホッウェェッ!? イチャツクナラ、ズルズル、ヨソデヤッテクレ……。コッチハイキグルシインダゾ!』
「知ったことじゃないわ! 風邪に負けてる癖に、おだまり!」
うーん、カオス。
要するにノエくんの純粋な腕力が足りなくて、破壊神の心臓が切れなかったということだろう。
では次に試すのであれば開頭手術で脳みそを。
「いや、ちょっと、流石にそれは僕らもキツいから」
「というか、既にニルスが気絶寸前だ……」
独り言のつもりだったんだけど、口から出ちゃってたみたい。
げっそりとした皇子殿下方とは対照的に、奏くんが弓を構える。
「次、頭に麻酔矢ぶち込んだらいいのか? つか頭蓋骨って開けられるのか?」
奏くんの質問に答えたのは紡くんだった。
「えぇっと、あたまのかわときんにくをきって、べろんってめくって、ずがいこつがみえたらさんかしょにあなをあけて、そのあなをつなぐようにきっていくとほねがはずれて……?」
「おお、つむ君。よく覚えていたな。前期神聖文字時代初期に見られる、祭事の生贄の頭蓋骨に施された外科手術の痕跡がそんな感じだ」
「えー? じゃあ、おれがほねきればいい?」
大根先生の解説に奏くんと一緒に頷くと、レグルスくんが腕まくりする。プシュケでやるにも限界があるからね。
だけどその前にと、ロマノフ先生が破壊神を指差した。
「横向きにした方が良いんでは? その方が面積が広い」
「あー、なるほど? 頭だけ横に向けさせた方がいいね」
ラーラさんの意見に大根先生も賛成のようで「その方が術野が広くとれる」と頷く。それじゃあ、プシュケを使って顔を動かそうか。
そう考えたんだけど、ヴィクトルさんが首を横に振った。
「うーん、多分脳みその方もダメなんじゃないかな? ノエたんの腕力が足りないというよりも、千年以上積み重ねられた魔力による防御力の向上が問題なわけだし。物は壊したんだから、最短一か月、最長でも一年あれば魔力は抜けるよ。このままにしておいて、一月に一回刺しに来るとかすれば?」
そう言いつつ、ヴィクトルさんが破壊神の胸の上から飛んで帰って来たノエくんと識さんに声をかける。
二人は顔を見合わせると、ちょっと申し訳なさそうな顔になった。
「ごめんなさい。オレが未熟なせいで、こんなに手伝ってもらったのに……」
「私からもごめんなさい」
二人して深く頭を下げるから、頭を上げるように言ってからぐっとサムズアップする。
「なに言ってるんですか。成果はありましたよ? あと最短で一か月、最長一年で破壊神は確実に始末じゃなかった、討伐出来るってところまで来たじゃないですか」
「そうそう。それにあそこまで弱らせたら、回復するのにだって体力も魔力も必要だ。時間かかるだろうし、抜けてく魔力も多くなって一年もいらねぇかもよ?」
「てつだいがいるなら、またいっしょにくるからだいじょうぶだよ!」
「うん。しきさんはつむのあねでし! ノエにいちゃんもともだち! できることは、おてつだいします!」
奏くんもレグルスくんも紡くんも、私に続いてサムズアップだ。
皇子殿下方もサムズアップすると、にっと笑う。
「破壊神討伐に協力できるくらいには強い皇子のほうが、民達も安心するだろう?」
「そうですね。手伝いがいる時は安心して声をかけてほしいな」
「皆、ありがとう! オレ、修行してまた来月刺しに来るよ!」
「ありがとうございます! その時は声をかけさせてもらいますね!」
全員からのサムズアップに、ノエくんも識さんも目を潤ませた。
イイハナシダナー。
和んでいると、遠くの方から咳交じりの罵声が聞こえてくる。
『コノ! キサマゲッフッゴハッ! コンナマネヲズズシテ、ズル、ヒドイトゴホッゴホッオモワッハックシッ! ノカッ!』
「どの口がいうんです? さっきノエくんが言ったでしょ? 貴方が要らんことした結果こうなってるんです。可哀想だから開けた胸は閉じてやろうかと思ったけど……このまま放置で帰ってやろうか?」
『エ!? ゴフッ!? マ、マッテクレ!? スマン!? 悪カッタ! ゴショウダカラ、セメテ胸ヲ閉ジテクレ!? ゲッフォッ!』
「なんなんですか、我がままだなぁ!」
『拍動スル自分ノ心臓ナゾ、ゲホッゴホックシュンッ! 誰ガズ、ズズ、見タゲッフッ見タイ、モノ、カッ!』
「そうですか。じゃあ、あえてこのままで」
『ヒトデナシカ、キサマ!?』
こっちとらそんなふうに期待されたら、そういう振舞いをしたくなっちゃうお年頃だ。
件の病の拡散を止めるように解呪と場の浄化だけはしておいて、タラちゃんとござる丸には開胸器代わりの糸と杭を補強してもらう。
その間に破壊神が貯めたお宝の場所をヴィクトルさんに探ってもらって。
エルフの耳に聞こえる風の反響音とか、色々視える目の結果、山腹に何やら貯め込んでいる気配があったそうだ。
「それではお宝を略奪して撤収しましょうね」
「はーい!」
「おー!」
皆で勝鬨を上げて来た道を帰るべく、破壊神に背を向ける。
『オ、オイ!? ホンキカ!? ズル、ホンキデ帰ル気カ!?』
何か大きいのが吼えていたが、誰一人振り返ることはなかった。
そういえばニルスさんが静かだな?
タラちゃんに乗って火口から普通の山道に至る道に出て、ふと気づく。振り返ればニルスさんは相変わらずラーラさんにお姫様抱っこされていた。
その腕の中で一生懸命ノートを取っている。
じっと見ていると、視線を感じたのかニルスさんが顔を上げた。目が合う。
「あ、なにかありましたか?」
「いいえ。ただ血腥かったの、大丈夫かなと」
「ああ、驚きましたけど……。まあ、僕も蛮族の末裔なので」
ニルスさんが弱弱しく笑う。
ノエくんが言ったように、彼の一族の者でなければ殺せないなどという策を弄したために、破壊神はかえって苦しむことになった。まさに策士策に溺れるだし、人を呪わば穴二つ。
翻ってルマーニュ王国もそうなのではないか。
ニルスさんは記録を取っていて、そういうふうに感じたと言う。むっちゃシリアス。
でも、とニルスさんは首を振った。それから表情を晴れやかな物に変える。
「今は世界が救われる目途が立ったことを喜んだ方が良いですね。宝物も手に入りますし」
「そうですね」
「ユレンシェーナ家の財政難をどうにかするほどとは言いませんが、せめて閣下に買っていただいた服の費用をお支払いできる程度にあれば」
「それは貴方に働いて返してもらうので、考えなくていいですよ」
「え……?」
にっと口の端を上げれば、隣にいるレグルスくんが「はい!」と手を上げた。
「しゅっせばらいはしゅっせがきまるか、しゅっせしないことがきまるまでは、へんさいゆうよがあるんだよ。がんばってね、ニルスさん!」
「わぁ、レグルスくんたら! そんな難しいこと知ってるんだ!? 天才かな!?」
「うん! みんぽうできまってるんだって、ルイさんがおしえてくれたよ!」
輝く笑顔で大事なことを教えてくれるひよこちゃんとは対照的に、ニルスさんの顔が引き攣った。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




