SS7『変なもの』
ある日。
雅ヶ丘付近のファミリーレストランにて。
「なあなあ! センパイ」
「どうしました、今野林太郎くん」
「センパイって、バイトとかしたことある?」
「……あー。ありませんね」
「えっ。一度も?」
「ええ」
「そーなんだ。ちなみに俺っち、ここでバイトしてたこと、あるんだぜ」
「ここって、――いま私たちが休憩してる、このファミレスですか?」
「ああ」
「へえ。ちょっと意外だな。林太郎くんが、まともな仕事を……」
「っつっても、すぐ首になったけど」
「えっ、なんで?」
「ちょっと小腹が空いたから、野ネズミをここのキッチンで捌いて喰ったんだ」
「ネズミって……ええ……」
「っつっても、モチロン生じゃないぜ? ちゃーんと火を通したさ」
「いやいやいや。そーいう問題じゃないでしょ」
「えーっ。山ン中じゃあ、ヘーキで喰ってたけどなあ? 調理器具の消毒もちゃんとしたし。何が問題かわからん」
「……ねえ、林太郎くん」
「ん?」
「もし今後、あなたが料理の腕を振るう時がきたら必ず、素材に何を使ったか教えて下さいね」
「いいけど……あ、ひょっとしてセンパイも喰いたい? ネズミ。たぶん探せばまだ、この辺にいると思うけど……」
「ノー。永遠にノー」
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後日。
雅ヶ丘高校、とある教室にて。
「なあなあ、センパイ」
「どうしました、林太郎くん」
「この前の探索中さ、ちょっと話、したじゃん。俺っちの料理の腕がどーとかって」
「探索中? ……ああ、ファミレスで」
「そうそう。そんでさ、ちょっと思いついてさ。作ってみたんだよ。料理を」
「はあ」
「ってことで、……じゃーん! 近所の公園に生えてた野草だけで作った天ぷら!」
「あっ、ごめんなさい私、ちょっといまお腹の調子が悪くて」
「まあまあ! そう言わないでくれよ! これ、集めるのに、コースケや明日香にも手伝ってもらったんだから」
「さよならっ」
「待てよ、待てって、……うわあ、すごい力!」
「離して……離して! 私はまだ、綺麗な身体でいたいの……」
「ちょ、ちょ、ちょちょ、誤解されるようなこと、言わないでくれ! 理津子に聞かれたら殺されちまう!」
「でもぉ……」
「安心してくれ! ちゃんとよく水洗いしたし、変なものは一切入ってない。ヨモギとか、ユキノシタ、三つ葉とか、そんなんだよ!」
「それなら、……テレビで食べてるの、聞いたことあるかも」
「あと、こっちの水筒には、タンポポの珈琲が入ってる。有名なドラマでも飲んでたやつ。これがうまいんだ。みんなにも好評でさ」
「ううむ」
「ほら、ほら! 天ぷらの味付けは、ちょっと塩を振るだけで大丈夫だぜ」
「そこまで言うなら……(もしゃ、もしゃ)」
「どうだ?」
「うーん。……まあ、食べれないことも、ないですね」
「だろ?」
「でも、ヨモギはちょっと香りに癖があるというか。ユキノシタはなんかモチモチしてて気持ち悪いし。三つ葉はこれ、歯ごたえがありすぎて……噛みきれない」
「センパイ、都会ッ子だなぁ」
「おっしゃるとおりの都会育ちでございます」
「でもこれで、都内の野草でも食えるものがあるって、わかったろ?」
「……はあ」
「こういう知識って、意外なところで役に立つからさ。……特にセンパイたちにとって、食えるものとそうでないものの情報は、ギリギリのとこで命を救うんじゃないかって……」
「なるほど。”魔力切れ”のことですか」
「ああ。新入りのあの娘に聞いたんだ。食い物が足りなくなった”プレイヤー”は、例のあの、不思議な力をなくしちまうって」
「……心配してくれたんですね」
「そんなとこ」
「ありがとう。林太郎くん」
「へへへっ」
「それじゃ、タンポポの珈琲もいただきましょう」
「これはうまいぜえ。みんなも喜んでくれたからな」
「へえ(ごくり)。……おや、これなんか、甘いツブツブが……」
「ああそれ? 隠し味だぜ」
「えっ?」
「ついでに採れた蜂の子を甘露煮にしたんだ」
「はち……のこ……?」
「ああ。たしか、瓶詰めにしたものがポケットに……これこれ」
「……………ッ」
「どした?」
「――虫じゃねえか!」
「へ? 何かまずかったか?」
「変なものは入ってないって、そう言ったのに!」
「蜂の子のどこが”変なもの”なんだ? 山間部ではわりと有名なタンパク源だぞ」
「……ううっ。うううう! もういい! 知りません、林太郎くんのことなんか!」
「あれ? 俺っち、なんかやらかしたか? ちょっと待ってくれよ! おーい、センパーイ……」




