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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
●書き下ろしSS
429/433

SS8『ひまつぶし』

 とある日の、有楽町駅周辺にあるブティック。

 ショーウインドウ前、店のマネキンに紛れて、一体の白銀の鎧が佇んでいる。

 他に人影は見えないが、店内では、男女のぼそぼそとした話し声が聞こえていた。




「つ、つ……筒井康隆、で、”か”だ」

『だれそれ』

「SF小説家だよ。『パプリカ』とか『時をかける少女』とかの」

『ふーん。じゃあ、”か”ね。……カスパー・ハウザーかな』

「誰だよそいつ」

『ドイツの孤児。色んな謎を残したまま、何者かによって暗殺されたんだってさ』

「へえ。じゃあ俺は、”あ”か。……赤塚不二夫かな」

『あかつか……またマニアなネタ?』

「これはさすがに常識レベルだろ。『バカボン』とか『おそ松くん』とか描いた人」

『そうかなー? ……そんじゃ、あたしは、オスカー・ワイルドにしよっかな』

「なあ、光音」

『なあに? 犬咬くん』

「そろそろ止めにしないか……、この、”有名人しりとり”。知識の範囲が違いすぎて、お互いに名前を教え合ってばかりだ」

『だからいいんじゃない。見識が広がるわ』

「そうか?」

『それに、――そもそもあたしたち今、身動きできないっしょ?』

「まあな。動くと”ゾンビ”に気付かれるからな」

『じゃあやっぱり、他にできること、なんにもないじゃん』

「まあ、確かに」

『でも、……そーね。わかった。しりとりに飽きたなら、別の暇つぶし、考えよっか』

「どんなのがある?」

『うーんと、そーねえ。じゃ、次に店の前を通りがかった”ゾンビ”に点数をつけるゲームってのは、どない?』

「なんだそりゃ」

『いや、男子がよくやってるじゃん。女の子に点数つけるやつ』

「やらねえよ。そんな趣味の悪い真似」

『そう? あたしの同級生はやってたけどなあ』

「仮に、それをやったとして、基準がわからん。可愛いかどうかってことか? 相手は腐った死体だぞ」

『そうねえ。……じゃ、友だちになれそうかどうかで』

「”ゾンビ”とトモダチ……、ううむ……」




 その時、暗い目をした”ゾンビ”が一匹、店の前を通り過ぎていった。

 年の瀬は二十歳過ぎだろうか。容姿はわりと整っている。

 会社帰りのサラリーマン風の男で、シャツはびりびりに引き裂かれ、肩が露出しており、そこにはくっきりと噛み傷が残っていた。

 ”ゾンビ”になる前に自殺しようとしたのだろうか。手首にはおびただしい切り傷が見られる。




『あたしはダメね。33点』

「厳しいな。俺は78点だ」

『えーっ、なんで?』

「自殺してまで被害を減らそうとしたんだろ。きっと正義漢の強い人だったに違いない」

『それで結局、”ゾンビ”になってたら意味ないじゃん』

「その心意気が大事なんだよ」

『……ふーん』




 また、もう一匹。今度は女の”ゾンビ”だ。

 歳はわかりづらいが、恐らく二十代。

 血に濡れた浅葱色の雨合羽を羽織っていて、なんとか生き残ろうと努力した痕跡を読み取ることができる。どういう経緯でそうなったかは謎だが、その額にはコーヒーのスチール缶が突き刺さっていた。




『うーん。74点』

「……88点」

『あら、ああいう子が好み?』

「いや、別に。俺はわりと、穴があればなんでもウェルカムなタイプだから」

『うわ最低。それ、あんまり他の女の子の前で言わない方がいいよ』

「そうか?」




 次に通りかかったのは、髪を金色に染めた”ゾンビ”で、ぱっと見たところ、男か女か判別しづらい。顔全体が黒く焼け焦げているためだ。

 崩壊した顔面をよく見てみると、蒸発した眼球があった場所から、今もなお、暗い色の血液が噴き出している。

 服は全身、黒づくめ。どうやらかなり長期にわたって着込んだものらしく、首元がかなり白くなっていた。




『6点』

「10点」

『やっぱり、喪服みたいな格好はちょっとね……せめて清潔感があればマシなんだろうけど』

「”ゾンビ”に清潔感を求めるなよ」




 次。

 老人。男性で、見ていて気の毒になるほどに灰色の肌。

 頬に大きな穴があるところ以外には目立った外傷はないが、最近ではむしろ、生前の姿が残っている方がよっぽどグロテスクに思える。

 何より不気味なのは、どういう筋肉の作用か、その唇が道化師のように笑って見えるところだ。




『……う。ごめん。0点』

「同じく。悪い人には見えないんだがな」

『笑ってる”ゾンビ”ってもう……それだけでキツいわ』

「”ゾンビ”ってのは、なるべく無表情でいてほしいもんだな。殺すとき、辛い気持ちになる」




 そしてまた一つ、ゆらりと人影が。

 灰色の雨合羽を被っていて、その顔はよく見えない。

 雨合羽は、おびただしい血と臓物で彩られていて、強烈な腐臭を放っていた。

 何より特徴的なのは、その足取りである。

 その個体だけは、明らかに何らかの意志を持ってこちらに近づいていて……、




『あっ。あれって……』

「ようやくか」

『助かる。指示通り来てくれたのね、興一くん』

「ああ。ちゃんと予備の雨合羽も持ってる。これでなんとか、”ゾンビ”どもの鼻を誤魔化せるはずだぞ」

『ねえねえ。ところで犬咬くん』

「なんだ」

『彼の点数は?』

「そんなの決まってるだろ。――100点満点だよ」

『そーね。やっぱり友だちにするなら、生きている人に限るってこと!』

「だな」

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