その363 もやもやな日々
宴が終わって、久々のシャワーを浴びた後、懐かしの自室……というか休憩場所へと帰還。
そーいや綴里さんと明日香さんは何してるんだろうと思って訪ねると、――モグラが巣から這い出てくるような表情で、二人が現れます。
どちらも特別、変わったところはないようで。
「ごめんセンパイ。……集中してると……時間が経つの早くて……。なんかありましたぁ?」
みんなが”怪獣”と戦っているのにもまったく気付かなかったという、なかなかハイレベルな天然ボケっぷり。
ってわけで私が死ぬような想いをしていた数日間は、――彼らにとっては普通の日常だったようでした。
私、ちょっぴり肩の力が抜ける想いになります。
「いや、別にいいんですけどねー」
平和を守るってこういうことです。たぶん。
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その後の幾日かは、かなりのんびりと過ごしました。
というのも、よりにもよってコラボの予定が入っていた二人(”語り姫”さんと”歌姫”さん)が死んでしまったからです。
”王国”全体の自粛ムードも相まって、全員の蘇生が終わるまでは、日間ランキングも真面目な討論系の動画ばかりが上がる傾向にあって、――お気楽な動画ばかり作ってきた我々は、ほとんど何もできなくなってしまいました。
私としても、そこから動くわけにもいかず、――綴里さんの動画のお手伝いをする程度の仕事をこなす日々が続きます。
私たちの目標は、あれからずっと変わっていません。
・仲間の蘇生。
・《魂修復機》の奪取。
どちらも、一筋縄にはいかない難問で。
そんな、もやもやを抱えた日々に、――思いがけず道が拓けたのは、とあるお茶会でのことでした。
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「麗華と会いたいの? いーよ」
そうあっさり認めてもらって、ちょっとお茶を噴き出しそうになります。
私と食卓を囲んでいるのは、ニャッキー、舞以さんという異色のメンツ。
このお茶会が開かれたのは、舞以さんなりの気遣いでした。
彩葉ちゃんとの関係を修復したいという私の望みを、彼女なりに手伝ってくれているのでしょう。
……しかし彩葉ちゃん、未だにニャッキーのマスクを外さないところを観ると、まだ何か、腹に一物あるようですが……。
「『いーよ』って、そんな気軽に会えるものなんですか?」
「うん。話すだけなら」
すると舞以さんも、「うん。話すだけなら、そうだね」と続きます。
「でも彼女、いつも警護の人にがちがちに固められてるって話では」
「だいじょぶ。こう見えてあーし、わりとフルカビってやつだから」
「……古株?」
「そうとも言う」
私は少し眉間を抑えて、考え込みました。
ウマい話はいったん疑ってみるという、いつもの習い性のためです。
「でもそれなら、百花さんはなんで……?」
彼女、麗華さんとの会合は一筋縄にはいかない、みたいに話してた気がしますけど。
「はあ? モモカ? なんでニャッキーとモモカが関係あるんだ?」
その口調には、少し棘があります。
あ、そっか。彼女、一度百花さんに殺された身の上だから……。
ニャッキーマスクを被ってるのも、元々は百花さんと顔を合わせないためだったのかも。
すごいな、百花さん。この調子で世界中の”プレイヤー”から嫌われるおつもりでしょうか。
「……まあ、いいでしょう。わかりました。麗華さんとはいつ、会えそうですか?」
「今すぐにでも」
「すばらしい」
では、お茶を飲んだらすぐに出向きましょう。
「ちなみに、荷物検査とかは……」
「ないけど?」
「えっ」
ガバガバやん。
百花さんの話とずいぶん違いますねえ。
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……と、いうのが私の見込み違いだと判明するのは、それからすぐのこと。
まず通されたのが、”王国”中央にそびえ立つ”アビエニア城”ではなく、巨大な電波塔が乗っかった、無味乾燥なコンクリート建築だった時点で気付くべきだったかも。
アトラクションと広葉樹の裏に巧妙に隠された従業員用エリア周辺には、”もの申す系女子の会”所属の少女たちが『グランデリニアの土地問題について』『一部の大人をアビエニアへ』などと書かれたプラカードを掲げて立っています。
どこか、人生に疲れ切ったような表情の彼女たちは、我々を見るやいなや、
「”アビエニア”に、オトナ難民の受け入れを!」「民主制を取り戻せ!」「私たち、麗華の独裁に反対してまーす!」
と、声を張り上げました。
公平に言って、彼女たちの主張はそれぞれ、かなり真っ当な気がしましたが、――残念ながら私は今、それについて考えているどころではなく。
「ねえ、ニャッキー&舞以さん」
「むー?」「なあに?」
「ひょっとして、麗華さんと話せるって、――」
「もちろん、ビデオカメラごしだよ」
……ううっ。がく……。
せっかく”マジック・ポケット(重量制限有)”を取って、その中にいろいろ詰め込んできたのにー。
直接会えなきゃ、”マクガフィン”も使えないっぽいですし。
とはいえ、今後我々が行うべき、――麗華さんに対する反逆の、何かしらヒントにはなるかも知れず。
私は深く嘆息して、その建物に足を踏み入れるのでした。




