その362 キューピット
さて。
その後のあれこれに関しては、――まあ、ざっくりと、要点のみで。
即興で組まれた食事会はその後、ナナミさんの参入により、ちょっとした宴に進化しました。
あるいはナナミさん、《パレード》を使ってみんなの気持ちをアゲアゲにしたのかもしれません。
とにかく私たち、不思議な多幸感に酔いしれながら午後のひとときを過ごすことができたのです。
この冒険を通して、私とナナミさん、舞以さん、蘭ちゃんは――立場の差こそあれ、友情が芽生えたと言っても過言ではありますまい。
私たち、それぞれのために命を賭けて戦いました。
それってきっと、すごく貴重な関係だと思えるんです。
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宴もたけなわ、といった頃合いでしょうか。
ふらりと苦楽道笹枝さんが現れた時は私、ちょっと驚かされました。
彼女が”非現実の王国”にいて、なぜか恋河内百花さんと同行しているという情報は聞いていましたが――
「や。おひさしぶり……ってほどでもないか」
彼女と話すとどうしても、おっぱいがグロい感じで改造されていたこととか、”王”との戦いの後、さっさととんずらこいたことが頭に浮かんでしまいますが、――
「さいきん、どーも一日一日が濃くて。気分的にはかなり久しぶりの感じですねー」
「あらそう。活躍してるのね」
「それほどでも」
今、記憶の大半が回復した状態で一つ、頭に浮かんでいる疑問があります。
たしか彼女の目的って、――數多光音さんを蘇生することだったはず。
んで。笹枝さんと光音さんは、古くからのお友達だったわけで。
そんな彼女がなぜ、恋河内百花さんと一緒にいるのでしょうか。
私、宴のテンションに乗っかる形で、ちょっとだけカマをかけてみたり。
「ところで笹枝さんっていま、百花さんをスパイしてますよね?」
すると実にわかりやすく、彼女は「ぎくり」という顔をしました。
この手の駆け引きが苦手な私としては、あっさり化けの皮を剥がすことに成功します。
「やっぱりですかー」
ひょっとすると、――彼女から聞いた情報の関係で、犬咬くんに嫌われちゃったのかも。
私、教室内での派閥争い的なものを思い出し、ちょっぴりげんなり。
最終目的が一緒なんだから、みんな仲良くすればいいのに、そうもいかないのは世の常です。
「ちなみに私、別に手錠をかけて百花さんに突き出したりするつもりはありませんよ」
「あらそう。助かる」
言うと苦楽道さん、あっさり平静を取り戻して、
「でもどっちにしろ私、さっさとここから逃げるつもりだったの。でも、最後にあなたに挨拶するのが礼儀かと思って」
「はあ」
「向こうじゃ、光音がいろいろとお世話になったみたいで、――どうもありがとう。また一つ、借りができたわ」
そういう言い方をするってことは、――
「ひょっとして笹枝さん、今も犬咬くんと連絡を……?」
「まあね。――だから、事情はおおよそ把握してる」
そーだったんだ。
「でも良いんですか? あなた、死亡した光音さんを蘇生するのが目的なんじゃあ」
「ああ、――それはもともと無理だったの。だって私たち、とっくに二十歳超えてるし」
ああ、そうだった。
蘇生できるのって、十代までなんでしたっけ。
その後、苦楽道さんが語ってくれた”王”との戦いの後の足取りはというと。
まず彼女は、光音さんと連絡を取りながら、わりと早めに”非現実の王国”へと向かっていたらしく。
彼女の目的は、三つ。
一つ。”死霊術師”を探すこと。
二つ。”死者蘇生”のウワサを確かめ、可能であれば光音さんを蘇生すること。
三つ。危険人物・恋河内百花さんについての情報を収集すること。
「”死者蘇生”が役に立たないことはすぐにわかった。――別に麗華も隠しちゃいなかったしね」
ふむ。
それで、――彼女はすぐ、百花さんに取り入るように方針転換した、と。
「そーいうこと。……でも彼女、日に日にイカレ度合が増してる気がするんだけど、大丈夫? 敵ながら心配になってくるよ」
「それは、――まあそのうち、おしりぺんぺんしたりして、たしなめておきます」
「是非、よろしく」
苦楽道さん、相変わらず苦労人っぽい笑みを見せます。
「それと、”死霊術師”の件ですが」
「ああ、それね……」
「目星はついているんですか?」
「いいえ。まったく」
「……本当に?」
「もちろん。奴を始末できるなら、猫の手だって借りるよ」
まあ、――”死霊術師”っていま、この世にいる全ての”プレイヤー”の敵と言っても過言じゃないですからねえ。
彼女くらい俯瞰でものを考えられる人なら、嘘はつきますまい。
「ちなみに、”鏡の国”の出入りは、――」
「”怪獣”騒ぎで完璧じゃあないけど、――でも私が把握してる限り、あなたたち以外に出入りはなかった。たぶんあの”鏡の国”は、他にも出入り口があるんだろね」
「そう……ですか」
そりゃあ残念。
「とにかく、私はまた姿を消すつもりだから」
「”勇者”さんの元へ戻るんですか?」
「さあ。それはどうかな……」
またまた、そんなこと言ってえ。他に行くとこないくせに。
とりあえず、彼女との対話でわかったことは一つ。
”勇者”チームは、どうやらこっちとは相容れない方針っぽい、と。
「……んもー。私たちきっと、目的はそんなに変わらないのにー」
「まあ、少なくともあなたが悪人じゃないってことはわかってるからさ。それぞれのやり方で、世界が良くなる方法を探そう」
えー。
「そんな顔しないでよ。競合他社がいた方が、業界は巧く回るものよ」
なんか大人の女の人に、うまいこと誤魔化されてる感じ。
私知ってます。スマホの機種変って、こういう手口で意味のわからない契約させられるんですよ。
とはいえ、私の話術でそれ以上彼女から情報を引き出すことは難しそう。
やむなくここで話題を切り上げて。
「そういえば、――仲道縁さん、こんなこと言ってましたよ」
「?」
「えーっと……『どんだけ汚れてもいい。最後はあなたと結婚したい』とか」
たしかそんなん。
「えっ。……彼が? そんなことを?」
「はあ」
すると苦楽道さん、てきめんに顔を紅潮させて、
「……あの人も馬鹿ね。私みたいなのを待ってたって、……良いコトなんて何もないのに」
「ラブですよ。ラブ」
あれもラブ。これもラブ。
すると彼女、ちょっとだけ苦笑して、私の眉間を人差し指でちょんと小突きます。
そして、
「……伝言、ありがと」
と言ったきり顔を背けて、さっさと行ってしまいました。
私はその背中を見送って、深くため息を吐きます。
キューピットの役目、確かに果たしたぜ、……縁さん。




