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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ3「失われし記憶を求めて」
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その223 血濡れの男

 藍月美言ちゃんを追いかけて地上に出ると、今や懐かしい『らき☆すた』のダンスがエンドレスリピートされている巨大スクリーンが目に入りました。


「っぱ京アニの作画はんぱねぇわ……」


 ちょっとだけそれに見とれていると、男性が数人、悲鳴を上げながら路地から飛び出してきます。

 少し迷って、――私はスーパーマンだ。誰が何を言おうとスーパーマンなんだ……、と、頭の中で唱えてから彼らの前に立ち塞がり、


「はい、ちょっとすとっぷ」

「ひいっ……ひい!」

「女の子、見かけませんでした? ざんばら髪で、三白眼の」

「たすけ、たすけてくれえ! 死にたくないっ」


 男性は恐怖の虜のよう。

 私は、彼の手首からどくどくと血が流れ出しているのを見て、


「ほら、手を出しなさい」

「はっ……はあ?」

「治してあげます。私、”プレイヤー”なので」


 その言葉にあっさりとおじさんは納得し、腕を差し出してきました。

 ええと、呪文は……。


「――《傷消し》」


 わりとシンプルに行きましょう。

 私の手のひらから放たれた緑色の輝きが、ちょっと臭うおじさんの手首の傷を見る見る癒やしていきます。

 男の人たち、なんだか目を丸くして、


「ありがてえ……ありがてえ」

「すげえ……魔法だ……」

「――女神さま……」


 と、ぼそぼそ囁き合います。

 私、ちょっとだけいい気になって、彼に問いました。


「それで? この切り傷、ナイフによるものと推察しますが。……ひょっとしてあなたたち、小さな女の子にやられたのでは?」

「あ……ああ。中学生くらいのひょろガキに」

「彼女を襲おうとして?」

「そ、それは……」

「そうでも無い限り、小さな女の子が自発的にあなたたちを傷つける理由はないはずですよね?」

「うう……」


 もう、そのうなり声一つで、何が起こったかなんとなく察します。

 とはいえ、真実を追求することは後回しにしておきましょう。

 彼らが逃げ出しているということは、きっとまだ彼女は無事なはず。


「あなたたちのことは”王”に報告します。追って沙汰を待つように」


 メッチャ年下の女子に説教される彼らの気持ちとはいかばかりでしょうか。

 とはいえ、悪党に年齢は関係ありませんし。

 こういう時思いますね。正義というのは、力と共にある、と。


 おっさんたちは顔色を真っ青にして、印籠を前にした悪代官のように膝をつきました。


「へ、へへー!」


 ……。

 いや、そこまで大袈裟なやつ求めてはいなかったんですけど。


 その時でした。

 路地裏の、さらに奥の方。暗闇で何も見えない空間から、どう、と音が聞こえたのは。


「――ん? 何が……」


 一応、おじさんたちに事情を尋ねますが、彼らにとってもイレギュラーの事態っぽい。


「確認しますけど、――ざんばら髪の娘は、あなたがたのアジトに向かったのですね?」

「あ、ああ。……”格闘家”の池谷さんって人が寝泊まりしてるとこだよ」

「”格闘家”……」


 プレイヤー、ですか。

 喧嘩にならないといいなあ。

 まあ、もしそうなったとして、夜久さんたちが駆けつけるまで時間稼ぎすればいいか。


 強力な味方がいてくれるというのはなかなか、心強いものです。


 ぎゅっと祖父の形見の刀を握りしめ、彼らの指し示す場所に向かいます。

 私の感覚では「絶対に入り込むな」と思わずにはいられない場所。とつぜん幽霊が出てきて襲いかかってきそうな……そんな場所。

 とはいえ何か、争いごとが起こっているのであれば、放っておくわけにはいきません。


 暗がりの中に飛び込むと、自分も闇の一部となった気持ちになりました。


 道中、あちこちに散乱したゴミに蹴躓きそうになりながら、鼻が曲がりそうな臭いを放つ空間へ飛び込んでいくと、……。


 ふいに、ぱっと明かりが点きます。

 

 どうやらここ、ちゃんと電気が通じてたみたい。


 まず目に入ったのは、血を吸いたての吸血鬼みたいに口元を真っ赤に染めた男性と、――彼から身を隠しながら、こちらの様子をうかがっている藍月美言ちゃんの姿。

 男がまともじゃないことは明らかでした。

 だってこの人、額に一本、胸とお腹と右足に一本ずつ、ナイフが刺さったまま平然としてるんですもの。


 私は思わず、こう呟きます。


「あ、……えっと。どもっす。おつかれさんです」


 そして、気まずい間。

 いかにもまともではなさそうなお兄さんまで目を丸くしちゃって。

 

「ええとその。私、ちょっと出てくるタイミング間違えちゃったかもしれないんで、いったん出直してきてもよろしいですか?」


 すると、その蒼白い顔の男の人は、両腕を広げて、こう言いました。


『やあやあ! 久しぶりじゃないか、”戦士”さん!』

「……は?」

『覚えてないのかい。――それは哀しいな。雨ざらしで働かされる洗濯機のように!』

「あまざら……ええと?」


 嫌な予感がして数歩、後ずさります。

 たった二言、その不安定な抑揚の台詞を聞いただけでわかりました。

 この人たぶん、話通じなそう。

 話を合わせるんだよ、という凛音さんの助言が頭によぎりますが、こう訊ねずにはいられません。


「そのー。……どなた?」


 彼は高らかに、世界中に聞かせるような声で、こう応えます。


『ぼくだよ! 琴城両馬だっ!』


 来る。

 攻撃が。


 直感的にそう悟ったのは、その次の瞬間でした。



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