02-Ⅱ
この作品にシリアスはいつ訪れるのだろうか。
「今日は短剣を作ってみようか。見本はこれだ」
師匠がいつも護身用に持ち歩いている短剣が私の前に置かれる。ミスリルの刀身にアダマンタイトでコーティングした刃を持つものだ。鋼に比べると脆いミスリルを守るために強度の高いアダマンタイトで刃を保護することで高い魔力親和性と耐久性を持つ一品だ。
「手にとって観察しても構わんぞ。私が見分けられない物、なんて言うつもりはないが、それなりに厳しく判定するからな」
本物と見分けがつかない偽物って、運命の贋作者でもあるまいし、私には不可能だ。
短剣を手に取り、隅々まで脳内に焼き付けるように、それこそ穴が空くぐらい見つめる。
錬金術による整形はイメージがモノを言う。高位の錬金術師は、総じてイメージ力が高い傾向がある、と師匠が言っていた。ごく少数、イメージを数値化して行う者もいるそうだが、私は前者だ。
刀身の滑らかさ。刃の鋭さ。鍔の細かな装飾。持つ者のことを考えられた柄。それら全てを強く頭に刻む。
短剣を置き、インゴットを手に取る。そして思い浮かべる。先程手にした短剣を。
その骨子を、歪みなく形成し。
手の中でスライムのように形を変えていくインゴットを抑え込むように、イメージを叩き込む。
「······駄目か。まぁ、初めてで出来るとは思ってなかったさ。私でも、同じような課題を課せられた時は一月近くかかったから、ゆっくりやっていけばいいさ」
頭を撫でてくる師匠の手が気持ちよくて、目を細める。
「それじゃ、今日はここまでだ。昼食を作ってくれ」
もうそんな時間か。思ったよりも集中していたらしい。
[師匠もたまには料理してみたらどうですか?]
「数回なら経験はある。ただ、私が作るものは総じて名伏しがたきモノになってしまうから、私の師に禁止されてしまったんだ」
[······名伏しがたきモノ?]
「あぁ、一般的にカオスと呼ばれる魔物だ。あれは私の料理から生まれたモノなんだ」
微妙にドヤ顔なのがムカつく。自慢出来る話じゃないですよ、師匠。
なら、私が師匠の奴隷になる前はどんな食生活だったのだろう。
[なら、私が来る前は何を食べてたんですか?]
「調理の必要がない生野菜か果実、あとエイソンが持ってきてくれたものとか」
エイソンさんとは、森の中にある師匠の家に色々な物品を運んできてくれる商人だ。男性なので拒否反応が起きてしまうが、いい人なのは違いない。
「いや、採取してきたキノコを食べて死にかけたこともあったからな。ホント、エイソンには感謝してる」
[そうですね。毎度毎度師匠の無茶振りに振り回されてますからね]
「うぐっ······どうしたんだミリア、今日はやけに毒々しいぞ。私が何かしたか?」
[そうですね。変わらない日常というものが嬉しいんです。照れ隠しです]
これは紛れもない本音だ。前世では立派な社畜をしていたし、こっちでは師匠に拾われるまでの記憶は忘れ去りたいほど忌々しいものだ。だからだろうか。何気ない日常というものの素晴らしさに安堵し、甘受するようになったのは。
今でも監禁されていた時の記憶を夢として見ることがある。初めはそれが怖くて、夢が現実になってしまいそうで。眠れない夜は幾度となくやって来て。その度に師匠は私を抱き締めてくれた。今では一人で眠れる程度には回復している。
私が師匠に抱いている感情は、依存に近いのかもしれない。
右も左も分からない私は、師匠に助けられなければ一生あのままか、の垂れ死ぬかのどちらかだっただろう。私からしてみれば、師匠はまさしく、捕らわれのお姫さまを颯爽と助け出した英雄なのだから。
それはさておき。
[師匠は、私の英雄ですから]
この時ほんの僅かだが、微笑んでいるのを私は自覚した。
「······そうか。恥ずかしいこと言ってくれるな、全く!」
頭を乱暴に撫でられる。
(あっ、ちょっ、髪が乱れますって! ひぁ!? お尻とか撫でないで下さ、スカート捲っちゃ駄目です!)
必死に抵抗するものの、師匠を引き剥がすことが出来ない。仕方がない、こうなったら······!
「アバババババババババ!?」
魔法で電流を全身から放電する。もちろん電圧は最大だ。
煤汚れてヤ○チャしてる師匠を無視して、私は服装や髪を整える。この程度じゃ大したダメージにもならないし。
白目を剥いてる師匠を放置して、私は昼食の仕度を始めることにした。今日はパスタとかでいいかな。
師匠が復活した頃には昼食は完成していた。
[てか師匠、まだ完成してないのでつまみ食いは止めてください]
「ファッ!?」
魔法で空間をねじ曲げて師匠の耳を引っ張る。
「耳は駄目だって前にも言っただろう!?」
涙目で訴えてくる師匠にきゅんと来t、げふんげふん。まぁ、エルフの耳は性感帯だからね。クォーターの私ですら長時間愛撫されれば絶頂してしまうほどだ、原種の師匠はもっと感じるのだろう。
だが私は謝らない。
[はい、完成したのでもう食べてもいいですよ。······って、どうかしましたか?]
「別にぃ······」
不貞腐れてパスタを口に詰め込んだ師匠は、リスみたいに頬を膨らませながら咀嚼する。
でも師匠、そんなに詰め込んだら喉に詰まりますよ?
「ふぐっ!?」
ほら、言わんこっちゃない。
とりあえず水を渡す。
「んぐっ、んぐっ、ぷはぁ······あ"~、死ぬかと思った」
[今のは自業自得ですよ?]
「分かってるさ。さすがにミリアのせいにするほど、私の器は小さくないよ」
[子供みたいに腕白なのに]
「ぐふっ!? わ、私まだ213歳だし······エルフの中じゃまだまだ子供だしぃ······」
[エルフの成人は200歳だと聞きましたけど]
「ぐはぁっ!? ひ、酷いぞミリア。私も一応気にしてるんだからな······」
ならもっとしっかりとしてほしいものだ。勉強を教わっている時はキリッとしてるのに。たまにポカやらかすけど。
とか言いつつも、二人とも箸は休めてなかったので程無くして完食した。
「ごちそうさま。······確かエイソンが来るのは明日だったハズだから、私は研究室に籠る。危ないから近づかないように」
頷く。前に薬品の爆発に巻き込まれて服が台無しになって二日ほど昏睡していたし。
部屋自体は結界で守っていたため無傷だったが。
[ではまた夕食時に]
「楽しみにしているよ」
お辞儀をして師匠と別れる。
私は皿洗いや掃除などの家事をしなければならない。よし、頑張ろう。




