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02-Ⅰ

 私の朝は日の出と共に始まる。というより、窓から射し込む朝日が肌を焼くので、目が覚める。この体になってから色々と敏感になったせいもある。前世なら間違いなく爆睡していたに違いない。


 ベッドを整え、いつも着ているエプロンドレスへと着替える。若葉色のそれに袖を通すと、洗濯物の入った篭を持って井戸に向かう。魔道具に魔力を通し、井戸の水を桶へと汲み上げる。顔を洗ったら、洗濯を開始する。水の魔法が使えたら楽なんだろうな、なんて思いながら服を洗っていく。

 洗濯が終わると、それをロープに掛ける。今日もいい天気だ。昼頃には乾いているだろう。


 次は朝食の支度だ。幸い、食材は前世と大差ないのでよかった。ここで前世での一人暮らし歴三年の家事スキルが映える。いや、この世界には家事っていうスキルが実際にあるわけだけども。

 完成したら、師匠を呼びに行く。ドアを三回ノックする。返事がないのでそのまま入る。

 案の定と言うか、またかと言うべきか、師匠は机に突っ伏して寝ていた。また研究途中に寝落ちしたのだろう。

 書きかけの魔方陣に歪な線が加えられていたり、もう中身が全て蒸発した試験管がまだ火にかけられえいたり、一歩間違えれば大事故に繋がりかねない有り様だ。


 師匠を起こすために肩を揺すってみるが、起きる気配は全くない。こういう時、起こす方法は大体決まっている。

 起きるまで根気よく続ける。耳を弄る。強制的に覚醒させる。

 一つ目は却下。最低でも一時間近くかかるため早々に諦めた。

 二つ目も却下。発情した師匠に性的に襲われたことがあるから。

 ということで三つ目を選ばざるを得ないわけだ。


 左右の人差し指を少し離して突き合わせ、魔力を雷に変換。それを一気に放電する。

 パァン! と破裂音が響き、耳栓してからの方がよかったかと若干後悔した。


「ふぎゃ!?」

 師匠が奇声をあげて椅子から転がり落ちた。

「いつつ······ったく、もう少し優しく起こしてくれてもいいんじゃないのか?」

 恨めしそうな目で師匠が言ってくる。私はチョークのようなもの、正確には空中に文字を書く魔道具を取り出し、すらすらと文字を綴る。どこでも魔方陣が描けるという道具なのだが、私としては持ち運びが楽でどこでも筆談出来るので重宝している。

[では優しくしている内に起きてください]

「それが出来たらこんなことは言わないよ。可愛い顔してるのに、時たまやることがえげつないよな、ミリアは」


 ミリアというのは私の愛称だ。ミリアーナ・ステアー。それが今の私の名前だ。

[そんなことより、朝食の時間です。早く仕度をしてください。でないと抜きますよ?]

「わぁ! 待て待て、それは私に餓死しろということか!?」

[したくないなら早くして下さい]

 気が付いたらすっかり餌付けが完了していた。別に店に出せるようなレベルじゃないのに。


 タンスから新しい服を取り出して師匠に渡し、私は部屋から出て待つ。三分程して部屋から出てきた師匠と共にリビングへと向かう。

 食卓に配膳をする。メニューはパンと簡単なスープだ。


「うむ、今日も旨い」

 別に、いつもと同じなのに。

「そう言うな。そうだな······強いて言うなら、私への愛が旨いんだ」

 愛、か。恩人であり、師匠であり、親のような人だ。家事能力はほぼゼロに等しいが、確かに大切な人だ。

 てかさ、どうして考えてることが分かったのだろう。

「ミリアと暮らし始めて一月近くなるからな、半ば勘に近いが、目を見れば分かるんだ。それに、精霊達もそれとなく教えてくれる」


 そう言って、師匠はパンを口に放り込む。

 残念ながら私にはクォーターだからか、エルフに本来あるべき精霊視の魔眼がないため精霊は見えない。精霊言語もまだ覚えてないので会話も出来ない。それでも、エルフの血が流れているからか、精霊達との関係は今のところ良好である。


 食事が終わると、師匠は言った。

「今日は錬金術だったな。片付けが終わったら、2の部屋に来るんだぞ」

 頷く。師匠を見送ってから、食器洗いなどを済ませる。


 2の部屋とは、師匠の三つある研究室の内の一つだ。錬金術の資料や機材なんかが置かれている。

 ノックして、返事を聞いてから中に入る。


 向かい合って座り、授業が始まる。

「今日の授業の前に、錬金術の復習だ。では、錬金術とは何か?」

 私はチョークで書いて答える。

[錬金術は、金属の形状変化や物質融合、または物質分解などが出来るものです]

「正解だ。では、次に錬金術の原理は?」

[物質が持つエネルギーを操り、変化や融合、分解を行います。これは則ち、原子や分子の位置、原子結合、結合の分解などを自在に操ることであり──]

「あー、すまん。私には何を言っているのか分からないんだが······」


 ハッ、しまった。つい知識からの推測まで話してしまった。

「まぁ、錬金術に関しては予想以上に早く習得していっているからな。私に教えることがなくなるのもそう遠くはないだろう。さて、今日は金属変化をやろうか。えーっと、確かこの辺りに資料があったハズ······」

 師匠が資料を納めた本棚へと向かい、本を引っ張り出しながら目当てのものを探していく。が、その途中で複数の本を落としてぶちまけてしまった。


「くっ、手が滑ったか」

 師匠が本を拾って本棚に戻していく中、私も手伝うために本を拾う。その時、一枚の紙が本の間から出てきた。

 何かと思って拾ってみると、それは設計図だった。


 剣と魔法の世界では異質。遠距離攻撃手段はボウガンやバリスタ止まりのこの世界で初めて目にするもの。前世ではかつての武器をことごとく凌駕し、取って代わった存在。火薬を炸裂させ、鉛弾を撃ち出すもの。

 それは紛れもなく銃だった。

 これを設計した、リアーシュなる人物は間違いなく天才か、私と同じ憑依者、もしくは転生者だろう。


 ただ、見ていて分かる。これは火薬を使わない。魔法の使用が前提となっている。原理的には、コイルガンやレールガンに該当するだろう。それぞれ切り換えられる仕様のようだ。けど、これはよほど高度な錬金術師でないと作成できないだろう。しかし、二つの機構を別々の物として、コイルガンタイプとレールガンタイプの二丁を作るのなら、私でもあるいは──。


「それがどうかしたのか? ミリア。······あぁ、これか。知り合いから貰ったものなんだが、私では作れなかったし、知り合いの錬金術師に見せて作らせてみたが、何も起きなかったというよく分からない物の設計図だ」

 いや、私なら分かる。それをチョークで書いて伝える。

「ミリア、これが何か分かるのか?」

[はい。簡単に言うと、魔法で発生した電力を使って金属製の弾を撃ち出す武器です]

「金属製の? 弾に魔法を込めるのではなくてか?」

[はい。物理学的な話になるのであまり詳しくは説明できませんが]

「そうか······」


 あくまで専攻は化学だったし、試行錯誤が必要だろう。それでも、私はこれを作りたくてたまらなかった。理由は······単純に銃の対するロマンと、ついでに護身用だ。


[師匠、私、これを作りたいです]

「あぁ、好きにすればいい。ただし、授業や家事のない時間だけだぞ。私も完成形には興味があるからな」

 もし表情筋が動いたなら、私は満面の笑みを浮かべていたであろう。


「よし、それじゃ、今日の授業を続けるぞ」

 気を取り直して、師匠は授業を再開する。私もそれに聞き入った。初めて魔法を使った時と同じくらい興奮しながら。

今回で世界観が分かる人がいるかもしれませんね。

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