恋愛相談
ノックもされずに私の部屋のドアが勢いよく開く。
「なぁなぁ二葉。ちょっと相談乗ってくんね。
お前にしか言えないからさ。」
一葉は私のベッドに何の抵抗もなく慣れた様子で腰掛ける。
私たちは双子だ。
一卵性の、兄と妹。
同じお母さんのお腹の中で卵のときからずっと一緒に育ってきたこの世で一番近い存在。
私は一葉が好きだ。
家族的にという生ぬるいものじゃない。
一人の男として誰にも言えないくらい狂うほど愛している。
だけど、一葉のその下心のない笑顔を見るたびに私の心は締め付けられる。
一葉は多分私が自分に恋愛感情を抱いているなんて夢にも思っていない。
気づきすらしない。
気づこうとすらしない。
「同じクラスのあの、ほら…つむぎのことなんだけどさ」
「俺、あいつのことが好きなんだ。でも、あいつモテるだろ? 女性から見て俺ってどう見えてんのかなって、ずっと気になってて。
お前なら俺のこと一番よく分かってくれてるからさ。……どう思う?」
一葉は真っ直ぐに、純粋な信頼の瞳を私に向けている。
「お前にしか言えない。」
「お前なら俺を一番分かってくれている。」
一葉が紡ぐその優しい言葉のすべてが、私の胸をズタズタに切り裂いていく。
私はお兄ちゃんのことが好き。
そう叫んでこの胸に飛び込めたらどれだけ救われるだろう。
「……いいんじゃない? つむぎちゃん可愛いもんね。
お兄ちゃん、頑張りなよ」
だけど私は、やさしい双子の妹の仮面を被って、口を歪めて笑ってみせる。
そうしていないと、目の前の一葉に縋り付いて泣き叫んでしまいそうだった。
もし、私がただの友達だったら。
「そんな話、大好きな人の口から聞きたくない!」
って泣いて怒って、絶交して、明日から学校で赤の他人になれたはず。
もし、ただの友達だったら。
一人の女の子として、玉砕覚悟で告白して、綺麗に振られて終わることだってできたはず。
しかし私たちは家族だ。
どれだけ心が死にそうになっても、明日も明後日も同じ家に帰り、同じ食卓を囲み、明日もお兄ちゃんの一番近くでお兄ちゃんの恋愛相談に乗らなきゃいけないのかも。
逃げる場所なんてこの世界のどこにもない。
「マジで? 二葉がそう言ってくれるなら自信出るわ。ありがとな!」
一葉は嬉しそうに笑って私の頭を少しだけ乱暴に撫でた。
その手の温もりが、あまりにも愛しかったのにとてつもなく憎かった。
スッキリした顔で部屋を出ていく一葉の背中を見送りながら私は静かにベッドに倒れ込む。
スマホのロック画面には、一葉と二人で笑っている写真が設定されている。
でも、どれだけ距離がゼロでも、私は一生一葉の特別な一人には選んでもらえない。
いっそ、最初から二つの命に分かれなければよかった。
あの温かい水に包まれた暗い部屋の中で一葉と溶け合って消えてしまえばよかったのに。




