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アネモネ  作者: 宮っぴー
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3/9

風鈴

毎年、夏祭りは彼女と回っていた。

幼稚園の頃からの幼馴染。

名前を呼ぶのも、隣を歩くのも当たり前で。

気づけば、好きになっていた。


今年こそ告白しよう。


そう決めていた。

浴衣姿を見たら緊張してしまうかもしれない。

上手く言葉が出ないかもしれない。

それでも伝えようと思っていた。

夏祭りの一週間前。

彼女から呼び出された。

いつもの公園。

夕暮れのブランコ。

風が吹くたびに、近くの軒先に吊るされた風鈴が小さく鳴る。


「急にどうした?」


そう聞くと、彼女は少しだけ照れたように笑った。


「あのね。」


その笑顔を見た瞬間。

なぜだか嫌な予感がした。


「彼氏、できたんだ。」


一瞬、意味が分からなかった。

彼女は続ける。


「隣町の高校の人。」

「優しくてさ。」

「この前告白されて。」


楽しそうに話す声が遠い。

頭の中に入ってこない。

ただ一つだけ理解できた。

遅かったのだ。


「そっか。」


やっとのことで、それだけ言った。


「驚かないんだね。」

「…まあ。」


嘘だ。

驚いていた。

泣きそうなくらい。

そんな顔は見せられなかった。

見せたくなかった。


風が吹く。

彼女は空を見上げる。


「あとね、私来月引っ越すんだ。」


追い討ちをかけるようにそのことを話す彼女。

今度こそ言葉を失った。

転校。

少し遠くの学校らしい。

もう簡単には会えない。

毎年一緒に回っていた夏祭りも。

放課後に寄ったコンビニも。

くだらない話をした帰り道も。

全部、今年で終わる。


「だから最後の夏祭りだね。」


彼女は笑った。

その笑顔が少し寂しそうに見えた。


祭り当日。

彼女は水色の浴衣を着ていた。

綺麗だと思った。

言葉にはしなかったけど。

二人で屋台を回る。


焼きそば。

りんご飴。

金魚すくい。


去年と同じ。

一昨年と同じ。

変わらないはずだった。

なのに何もかも違う気がした。


帰り道。

神社の石段を下りる。

言おうと思った。

好きだと。

ずっと前から好きだったと。

言おうとしてやめた。

今さら伝えても困らせるだけだ。

彼女にはもう恋人がいる。


もう遅い。


「どうしたの?」


立ち止まる彼女に聞かれる。


「いや。」


首を振る。

そして笑った。


「向こうでも元気で。」


彼女は少し驚いた顔をした後、柔らかく笑った。


「うん。」


少し生温い風が吹く。

ちりん、と風鈴が鳴った。

それが合図のようで悲しかった。

彼は最後まで、その言葉を口にしなかった。

風鈴の音だけが残る。

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