祝典再起動室の受領印は、外套と賃金が帰る前に礼服を動かせません
祝典再起動室の扉は、王太子礼服の台車より先に開いていた。
白い扉の前には、四つのものが並べられている。リネの北門外套掛け。マルタの半日賃金皿。王妃読了席から外された小さな書見灯。そして、ミリアの拒否欄札。
係官は、それらを見ないふりで受領印を掲げた。
『祝典再起動室 受領済み。停滞手順は再起動対象とする』
「再起動対象なら、礼服台車を動かせます。外套や賃金は、後で各部署が処理します」
「後で、という言葉で先に失われるものを並べます」
エリナは扉の敷居に青い仮止め糸を渡した。糸の手前へ、四つの生活物を一つずつ戻す。
「リネさんの外套は、北門を通って本人の肩に戻るまで未帰着です。マルタさんの賃金皿は、本人の手で受け取るまで未払いです。王妃陛下の書見灯は、読了席に灯るまで未読です。ミリア様の拒否欄は、本人が読めるまで空白です」
王妃付き記録係が、小さな帳面を開いた。
「再起動は、読了ではありません」
彼女は受領印の横へそう追記した。きれいな字だったが、線は強かった。
リネは外套掛けを抱え直した。
「私の外套を礼服の下地にしたら、北門の夜道を誰が帰ったことにするんですか」
マルタは賃金皿に銀貨を入れなかった。空皿のまま、再起動室の扉前に置く。
「空皿は、未払いの証拠です。祝典の飾り皿にはしません」
ミリアは拒否欄札を胸の前に持った。前のようにエリナの背へ隠れない。自分の声で、短く言った。
「私は、読めないまま再起動されません」
係官は眉を寄せた。
「候補者が再起動命令に異議を述べるなど――」
「候補者ではなく、本人の生活影響です」
エリナは受領印の紙を破らず、扉の横板へ貼った。その下に、四つの条件を書き足す。
外套帰着。賃金本人受領。読了席点灯。拒否欄本人読了。
「この四つが戻らない限り、受領印は礼服を一歩も動かせません。再起動室が受け取ったのは、命令ではなく、未到着の生活明細です」
台車の押し手が止まった。礼服の裾は敷居を越えない。代わりに、書見灯が王妃読了席へ戻され、トマが灯芯へ火を入れた。小さな灯りがつくと、ミリアの拒否欄の文字が、初めて彼女自身の目の高さで読めた。
「読めます」
その一言で、扉前の空気が少しだけ軽くなった。
しかし、トマが受領印の裏を透かした瞬間、息を呑んだ。
古い受領印は、エリナの退職処理済み針箱番号だけに押されていない。同じ朱色が、別の欄にも残っている。
『白手袋未着用 候補者二号 再起動済み』
エリナは青い糸を結び直した。
「次は、まだ手を通していない白手袋を、誰の肩へ再起動したのかを読みます」
扉は閉まらなかった。閉めてはいけないものが、また一つ増えた。




