16.変わりゆく関係(7)
「モニークが心配していたよ。自分の体が弱いせいで、お前はちっとも甘えられない子になってしまったと」
「お母様が?」
「それに、王子妃になるのだと頑張っている姿を見ていたら、応援したらいいのか、止めたらいいのか分からなくなった」
そんなにも心配させていただなんて。
「あの、なぜ止めたかったのですか?」
「……気を悪くするなよ」
「はい」
「お前は努力の方向性を間違っているのではないかと心配になったからだ」
「!!」
ショック……これはショックですっ!
「方向性…とは……」
「二人の将来のビジョンが出来上がってもいないのに、その先に走り出した事だ」
「……びじょん……」
「あったか?」
「……王子妃として恥ずかしくないようにと」
「肝心の王子と本音で話もできないのに?」
だって。だってだって!
「お前は本当に『王子様』が好きなんだな」
お父様と恋のお話だなんて恥ずかしいのだけど。
「……好きよ?」
それでも素直に答えてみた。さっき泣いたせいかお父様とちゃんと話せている気がするわ。
「だが、それは本当にディーン殿か?当たり障りの無い会話しかできないのに、お前はどうやって彼を知ることができた?彼の顔と優しさ以外でお前が知っているディーン殿はいるのかい?」
「え……」
ディーン様は。お綺麗で、お優しくて……いつも試験で学年首位と優秀で、細身ではあるけれど剣術だって素晴らしくて。生徒会長を任されるくらい信頼もあって、それから……それから……彼は王子様だ。
私は今まで何を見てきたのでしょう。
「……どうしよう、お父様。私は、王子様なディーン様しか知りません……」
私は知らないのです。誰もが知っている王子様な彼以外何も。4年もの婚約期間で知ったことは、クラスの、いえ、学園の生徒なら普通に知っていることばかり。
「呼び出しの理由は、殿下有責での婚約破棄だ」
「……なぜ、殿下有責なのです?」
「ムーア伯爵令嬢のためだそうだ」
……分かっていたことです。分かっていたはずなのに、どうして胸が苦しいのでしょう。
「それは、私がどう足掻いても無理ということではありませんか」
それなのに、どうして私の気持ちを聞くのよ。
「慰謝料を吊り上げることもできるし、婚約を白紙にしろと望むことだって可能だ。あちらの言い分だけを聞く必要がどこにある?」
婚約白紙。……すべて無かったことになるの?
「それとは別にサージェント伯爵家から求婚状が届いている。これはどういうことだ?」
「えっ?!」
本気なの?!私はまだディーン様の婚約者なのに!!
「彼は殿下のご友人で側近候補だろう?」
「……はい。ただ、あの……、告白されました」
「ほう?大馬鹿なのか根性があるのか判断が難しいな。そしてお前は満更でもないのか」
大馬鹿の方が正解な気がします。でも、
「……サージェント様は私が臆病だと気付いてくださいました。それでも、そんな私が好ましいと……好きだと言ってくれて……愚かにも嬉しいと感じてしまいました」
これは愛ではない。でも、ディーン様との未来が無いのであれば、今度は心から愛される道を選びたいと思うのは傲慢なのでしょうか。
「お前は王子妃になることが重荷だったのか」
……そうかもしれません。だから、そればかりに一生懸命になって、ディーン様のことすらちゃんと見ていなくて。
王妃様の優しさなんてまったく気がつかなかったし、お父様やお母様すら敵かもしれないと思い込んで。
「……お父様、私はとても小さな人間だと気が付きました。たった数年であっても、たとえ3番目だとしても。
私には王子妃という立場はとても、とっても重かった……」
情けない。自分で望んだことなのに。
「では、婚約は破棄でいいのか」
「……許されるのであれば円満に解消がいいです」
「白紙じゃなくていいのかい」
「馬鹿みたいだって思うかもしれないけれど、私はこれでも頑張ってきたんです。それらすべてを無かったことにはしたくありません」
「分かった。大馬鹿の方はどうする?」
ふふっ、すっかり大馬鹿呼ばわりだわ。
「前向きに考えたいと思います」
「……では、その様に手紙を出そう。お前のように臆病な娘には、馬鹿なくらい真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる男の方が合っているのかもしれんな」
そう言って、笑ったお父様は少しだけ寂しそうに見えました。
それから3日後。父と二人で王宮に向かいました。




