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可愛いあの子は。  作者: ましろ
第一章【ヴァレリー編】

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15.変わりゆく関係(6)


家に帰ってきても、まだ胸がドキドキしていました。

まさかサージェント様に告白されるだなんて。

……困るのに。本当に困るのに……あんなにも真摯な言葉も熱いまなざしも初めてで。


……私は愛し愛される関係になりたい。

ディーン様にもっと私だけを見て欲しい。

誰にでも優しいのではなく、私にだけ優しく愛を囁いてほしいの。


サージェント様の言うような、ちょっとしたことでも話し合える関係だなんて憧れてしまうわ。

でも、私とディーン様がそんなことをする未来なんて想像できません。


「だって王子様なの。彼の前で大笑いなんて恥ずかしくてできないわ。意味のない話なんて頭の悪い子だと思われそうで無理」


ディーン様を愛しているはずなのに、望む未来の姿にディーン様が重ならない。


どうして?……分からないわ。


ただ、サージェント様の告白が何度も何度も蘇るの。そのたびに……私の胸は苦しくも高鳴ってしまうのです。




◇◇◇




「王家からの呼び出しですか?」

「ああ。お前の婚約に関する話だ」

「……え?」

「行く前に聞かせてくれ。おまえの気持ちはどうなんだ。ディーン殿下と結婚したいと、今でも変わらずに思っているのか?」


少し前の私なら、当たり前でしょうと即答したはずです。ですが……


「迷いがあるのか」

「……私では相応しくないのではと不安になってしまって」

「それは卑怯な答えだな」

「どうしてですか?」

「私はお前の気持ちを聞いているんだ。他人がどう思うかなどどうでもいい話だ。

おまえの人生なんだ。誰が何と言おうとも最終的に決めるのはお前自身のはずだろう」


私が決める……?でも、そんなこと、


「相手が王家だからか?だが、彼らとて真っ当な理由がなければ勝手なことは許されない。

だが、お前がすでに彼への気持ちが無く、破棄してもいいと言うならば、私は王家の意向に沿う返事をすることになる。

そもそもこの婚約は政略というほどのものではない。お前が一目惚れしたようだから決めただけだ。どうせ婿に来てもらうなら、思いがある相手の方がいいと思ったからな。だが、もう気持ちがないのなら」

「ちょ、ちょっと待ってください!それは本気で言っていますか?相手は王子ですよ?!そんな、ただの婿取りみたいに!」


お父様がこんなにもぶっ飛んだ考えを持っているだなんて!!


「お前には何度も言っているだろう。彼はいずれは臣籍降下する。我が家に婿として来る立場だ。

ディーン殿下だって最初からそれを自覚なさっているじゃないか。

それをひたすら『彼は王子なのよ!』と言っているのはお前だけだぞ。

彼は王家の血を引いた我が侯爵家に婿入り予定の男。何か間違っているか?」


間違っているかって……。え?本当に?


「もともと婿入りは20歳と決めていた。王子でなくなるのなんてあっという間だ。だからお前の王子妃教育は簡単なものだっただろう?

2年間だけの王子妃にそこまで王家のことを教育する必要はないし、公務だってほとんど無いのだから」


ちょっと待って。頭が追いつかない。


「でも……」

「だが、それも今は関係ない。おまえがどうしたいのかが分からないと話にならん。いや、今まで通り忖度するだけなら王家の話に承知致しましたとサインをして5分で終わるだろう。だが本当にそれでいいのか?」


どこに驚けばいいのか分からなくなってしまいました。

いえ、ちゃんと知ってはいたのです。いずれ殿下がミュアヘッド侯爵を継ぐのだと。

でも、私の中ではもっとずっと先の話で。

だってお父様はこんなにも元気です。爵位を譲るのはもっと後だと……。それに、


「……私の教育って簡単だったの?」

「いや、すまん。言い方が悪かったな。王太子妃教育に比べたら、というだけだ。

お前の努力を馬鹿にしたわけじゃない。お前はよく頑張った。だから王妃様だってお前を大切にしてくれているじゃないか」


王妃様が……駄目だわ。すべてが理解できない。


「私は大切にされていましたか」

「では何か意地悪をされたのか?」

「……いえ。そんなことはありませんでした」


オウムとは言われたけど。


「何かあったのなら言いなさい」


お父様が怖い……。つい、オウムと言われた話をしてしまいました。


「それは王妃様の言い方は悪いがお気持ちは分かるな」

「……そうですか」

「これは私達が悪かったのかな。教育を……というか色々と間違えたというか言葉が足りなかったというか。

お前がこんなにも臆病だと気付いてやれなかった。駄目な父親ですまなかったな」


そう言って、頭を撫でられました。お父様にそんなことをされたのは本当に幼い頃以来です。


「……お父様、私は弱虫なのです」


お父様の懐かしい手のひらの温もりに、まるで幼い頃に戻ったかのように泣いてしまいました。





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