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第56話:目覚め


 意識を失っていた私が目を開くと、見覚えのある天幕が真上に見えていた。

 天幕の布には陽が当たり明るくなっている。


「私……」


「クローディア団長殿!」


 横から覗き込んで来たブレンダさんの顔がまじかに迫った。


「ブレンダさん、良かった。無事だったんですね」


「はい」


 ブレンダさんの返事を聞いてから身体を起こそうとする。

 けれど、腹部の辺りから強い痛みが走り動かすのを止めた。


「無理しないで下さい。団長殿の身体も、かなりの重傷だと聞いております」


 最後に確か……戦って。

 そのままノエルさん達の所に駆けつけて、それで――ルークが。


「ルークは!? いっ――」


 上半身が勢いよく起き上がるも、身体中に痛みが走ってしまう。


「落ち着いて下さい。ご自身だって、いつ倒れてもおかしくないんですよ」


 そんな事はどうでも良い。


「ルークは無事なんですか!?」


「それは……まだ分かりません」


「どういう事ですかブレンダさん。ちゃんと教えて下さい」


 俯いたブレンダさんが、静かに顔を上げ私と顔を合わせる。


「あの後、救護班が手当しながらカルーツ村まで戻り、居合わせたカル村長が手当をしてくださりました。ですが、村で出来る事も限られていた為、他の怪我人と共に急いで街に移動させました。なので現状では、意識を取り戻すのかも、回復に向かうのかも分かりません」


「そうですか……教えていただき、ありがとうございます」


 カル村長が手当をしてくれたんだ。

 それで、後は街に居る治癒魔術に優れた人が診てくれる。

 ノエルさんの事だ、きっと良い人を手配してくれてると信じるしかない。


「此処にはもう。居ないんですね」


「はい。此処に残っているのは、団長殿を含め数名の動ける者だけです。本当は団長殿も、帰還の馬車に放り込みたかったのですが……」


「私の事は気にしないで下さい。どうせ、夜になったら誰かが戦わないと、帝国領内も直ぐに侵攻されて、今とは比べ物にならない程、魔物が増えてしまいますから」


 あの魔物は、一度進んだ所までなら霧の様に姿を現す。

 そして実体を持って現れる夜間。

 そこだけ戦って抑えられれば、王国と同じで足止めし続ける事も難しくない筈だ。


「すみません、ブレンダさん。お水、もらえますか?」


「分かりました。お持ちします」


 そう言ってブレンダさん天幕の外に出てくれる。

 静かになると同時に、自分自身の鼓動が聞こえて来る感じがして嫌な気分になる。


 団員も怪我をして、大半以上の者が戦場から帰らされる状況。

 これを作り出してしまったのは私自身だ。


 何が団長だ。

 失態も失態じゃないか。


 もっとうまくやれたに違いない。

 その全部が繋がって、あの最悪な結果につながったんだ。

 ルークの怪我だって私が原因だ。


 もっと別の方法があったに違いない。

 それなのに、どうして……。


 怪我をするなら私で良かったのに、なのにこんな事になってしまった。


「なのにどうして……」


 考えれば考える程に、頭の中で良くない考えばかりが回り始める。

 身体からは魔力が自然と溢れ始めていた。


 落ち着かなきゃ……。

 駄目、落ち着いて……。

 冷静にならなきゃ駄目だ。


 ――立てた両膝に頭を当て、うずくまっているとブレンダさんの声がする。


「ブレンダです、団長殿。お水をお持ちしました」


 ゆっくりと天幕の布を動かしたブレンダさんが入って来て、私は顔を上げていた。


「大丈夫ですか?」


「はい。大丈夫です」


 大丈夫。

 まだ戦える。

 私は、この騎士団の団長だ。

 しっかりしなきゃ。


「お水、ありがとうございます」


「いえ、これぐらい気にしないで下さい。それと団長殿。副団長と殿下がこちらに向かって来ています。嫌なら、入らぬ様に外でお伝えしますが、どうされますか?」


「えっと……」


 一瞬でも考えた自分が嫌になる。

 だからこそ、来ているのなら会うしかない。


 任せてもらったのに、申し訳ないな……。


「大丈夫です、通して下さい」


「分かりました」


 ブレンダさんが入口の布を動かし待っていると、数秒して二人が中に入って来た。


「クローディア、怪我の具合は?」


 気のせいではないだろう。

 近づいて来るノエルさんは、いつもより少し元気がなかった。


「ノエルさん、すみません。任せてもらったのに倒せないどころか、こんな……」


「何を言っているんだ、君のおかげで私達は生きている」


「でも……」


 ルークはまだ助かった訳じゃない。

 私が……。


「団長、お無事そうでなによりです」


 私が何かを言う前に、ノエルさんのそばに居たアレクシスさんが声をかけてくれる。


「アレクシス、彼女が無事だって? 彼女の傷はどう見ても重傷じゃないか。どうやったら、肋骨を折った状態で平然と走って、あんな魔術を使った後に戦闘を維持出来るんだ」


「副団長。貴方の身体の作りを、他の団員や団長殿に求めるのは無理な話かと」


 ノエルさんとブレンダさんが揃って反発する。

 けど、結局は私が悪い。


「すみません。倒せなかったです」


「知っています。そもそも三対一で勝てと言う方が難しく、それこそ無理難題です」


 即答され責められると思っていた私も、少し困惑してしまう。

 三対一?

 元々は百以上居たのに、それが三体に減っただけで仕方ないって事?

 そんな話があるのだろうか。


 負けは負けだ。

 それも、団員が敗れたのでもなければ団長がだ。


「騎士とは、本来一対一で戦います。最近の帝国では複数を相手にする想定で訓練を行う事が多いですが、それでも基本は一対一を繰り返す想定で考えられています」


「はい……」


「それなのにあの相手は、後ろにも魔物を付けています」


「気づいてたんですね、アレが魔物だって」


「途中からですが、死角からの攻撃にも対応された時に気づきました」


 やっぱりアレクシスさんは強い。

 戦闘中でもそれに気づいてしまうのだから。

 私なんかよりも、優秀だ。


「けれど、私も倒せなかったので同罪です。これは二人して、団長と副団長は解任かと」


「待ってくれ。そんな事は一言も言っていないぞアレクシス」


「だそうです」


 まさか、それを言わせる為に色々言ってくれたのだろうか。

 だとしたらこの人も中々、変な人だ。


「副団長……病み上がりの方を気遣うなら、普通に気遣ってはどうですか?」


 ブレンダさんの一言で、アレクシスさんが口を閉ざしていた。


「容赦ないねブレンダは。でも、目覚めてくれて本当に良かった」


「ご心配、おかけしました」


「構わないよ、ゆっくり休んでくれ」


 今日の話をするでもなく、そう言うとノエルさんが安心した表情を見せる。


「まだ昼過ぎだ、もうひと眠りすると良い」


「お気遣い、ありがとうございます」


「行こうか二人とも」


 ノエルさんが二人を連れて出て行く。

 静かになった天幕で一人、私は眠るでもなく横になる。


 見上げる天幕が、先ほどよりも遠い気がした。



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