第55話:短く長い時間
ノエルさん達がルークともう一人を抱え、離れて行く。
これで、辺りを気にせずに戦える。
「どうせ、何を言っても反応しないんでしょ?」
声が届いているだろう距離に居ても、首なし騎士が反応する事はなかった。
ただ真っすぐ馬を駆けさせ、向かって来る。
私は右手に生み出した大きな氷を小さくし一本の剣にしながら、左手を前に伸ばした。
「貫け――」
走って来る馬の両側から氷柱が伸び、交差する中央で魔物を貫こうとするも、上に飛んで攻撃を避けた魔物がそのまま迫った。人を押し潰そうとする大きな馬の蹄が目の前に迫り、一歩下がって避けると直ぐ真横から長剣が近づいて来る。
剣を避けても騎士が乗る大きな馬が私を蹴り飛ばそうとし、直ぐにまた長剣が流れ私の身体を後ろに飛ばし、首なし騎士が距離を詰めていた。
何度か相手していた魔物なのに、これ程面倒だったのかと思えてしまう。
後ろに視線が流れれば、凍って動かない魔物ばかり目に入る。
「このッ」
炎が魔物を取り囲んでも容易に飛び越え、黒い毛並みに僅かな火の粉を付けながら駆け抜けていた。
――その直ぐそばに水の壁を設け、体当たりして水に濡れた魔物の体を今度は凍らせる。
首なし騎士が氷の彫刻となり動きを止めた。
「はぁぁ……はぁぁ、いっ――」
不味い。
思っていた以上に身体の負担が大きい。
痛みが増すだけでなく魔力が枯渇し、身体の動きを鈍らせている。
それでも私は左手を前に伸ばし、魔物の頭上に手を向けた。
魔力を集め、岩の塊を作り上げる。
岩が巨大になった段階で、真下に向かって落とした。
氷漬けにされた首なし騎士が動き出すよりも先に頭上から岩が落ち、そのまま地面に押し潰す。
「お願い……だから、出て来ないでよね」
――落下した巨大な岩が二つに割れ、途端に切り込みが入ると細かく吹き飛んでいく。
少しでも倒そうと考えた私が間違っていた。
岩を作らなければ、後数十秒は氷漬けにして時間を稼げたかもしれない。
それなのに、攻撃してしまった。
岩から出て来た首なし騎士が動き、馬の蹄がその場で地面を小突いた。
途端に、周囲に広がっていた岩の破片が浮かび上がり、私目掛けて向かって来る。
「フロスト・ウォール」
生み出した氷の壁に岩がぶつかり弾け飛ぶ。
そして、視認性が悪化した状態で首なし騎士が前方から消えた。
何処に――。
考えるよりも先に真後ろに現れた魔物。
振り向き様に剣を振るうも馬の蹄と氷の剣が衝突し、折れた剣諸共私の身体は大きく飛ばされてしまう。
吹き飛んだ先で木にぶつかり大きな音を立てると同時に、揺れた枝からこの葉が舞い落ちていた。
今日だけで、何回飛ばされたんだろう。
今までこんな事、あったっけな……。
「あ、ぁぁっ――」
呼吸がおかしい。
口から血の味がする。
肺から空気が押し出されたみたいだ。
身体を必死に起き上がらせた私は、木にもたれていた。
もう、支えなしに立っていられるかも分からない。
「風よ」
魔力を振り絞り魔術を起動させようとする。
――そして魔物が手を動かし、私に向かって馬が一歩進んだ時だった。
霧の中に朝陽が差し込み、私に陽が当たる。
途端に馬の動きが止まったかと思うと騎士が手綱を引き、真後ろに向きを変えた首なし騎士が白い霧に溶け込む様に姿を消した。
「やっと……」
ノエルさん達が居なくなって、僅かな時間だった筈だ。
それでも数分がこんなに長く感じた事はない。
足から力が抜け、身体が横に傾いた。
「早く、皆の所に……」
足と手が動く事はなく、地面に身体ごと倒れる。
やばい、身体が限界だ。
もう少し持つと……思ってたのにな。
まだ他にも残る魔物を感知する。けれど身体が動く気配もなければ魔術を使う魔力すらない状態で、私の意識はそのまま途切れるのだった。




