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第54話:阻むモノ


 ただでさえ見えづらい視界から、色がなくなった気がした。

 けれど、作られた氷に雨粒が当たり、散って行く様子を見た私の耳に雨音が戻る。


 ルークの身体で殆ど見えないコープスランタンに、狙いを定めた。


「何してッ――」


 一歩横に飛び、敵の体が更に見えた所で攻撃を放つ。

 真っすぐ飛んでいく氷の粒が揺れる火に直撃し、弾けさせる様にして消し去った。


 ――剣を支えていた魔物は居なくなり、ルークの身体がそっと倒れ始める。


「ルーク」


 近くに居たノエルさんが手を伸ばしルークを支える中、私は急いで駆け寄っていた。


「ルーク、しっかりしろ!」


 目に入って来る、深く突き刺さった剣と流れる血。

 止まっているとは言い難い量の血が、今も刃の隙間から溢れ出している。


 剣の軽量化や抜きやすくする目的で始まった剣の溝が、今では血を多く流す要因に変わっていた。

 ――直ぐに手当しないと。


「クローディア、君は回復術が」


「ええ、使えません」


 アンデットやレイス系を倒すなんてどうでも良い。

 仲間を癒す目的で使えない自分が嫌になる。


「けど、このまま放ってもおけません。傷口を凍らせます」


 凍傷するかもしれない。

 それでも、このまま放って置いたら間違いなく死んでしまう。


 私が手を当て、剣を抜かずに凍らせようとした時だった。


「ノエル殿下ッ!」

「団長殿!」


 アレクシスさんとブレンダさんの声が聞こえる。

 こんな時になんだ。


 ――そう思った刹那、

 真横に黒い影が現れた。


 身の丈よりも大きな馬と、それに乗る首のない騎士。

 その後ろには、見覚えのあるランタンが下げられている。


「フロスト・ウォールッ!」


 決められたただの分厚い氷の壁が現れ、反対側で魔物が長剣を振るった。

 流れる長剣は氷に触れても減速するどころか止まる事もなく、まるで紙でも切り裂く様に氷の壁を突き破ると、真っすぐに私とノエルさんを軌道に入れたまま向かって来る。


「させるかッ」


 作り出した氷の剣が長剣とぶつかり、長剣の軌道を僅かに上に逸らした。

 私とノエルさんの頭上で風切り音を立てた長剣が流れ、手に持っていた氷の剣は一撃で砕け去る。


「そこを退け!」


 駆けつけたブレンダさんとアレクシスさんが剣を振るっていた。

 それに気づいた魔物は元居場所まで一蹴りで飛び退き、私とノエルさんの前で二人が立ち止まる。


「殿下、お怪我は」


「僕は平気だ。それよりも……」


 ノエルさんがルークに視線を向けた。


「傷口を塞ぎます」


 ルークの傷口に手を当て、ゆっくりと氷を作る。

 ただでさえ、細かい造形物を氷で作るのが苦手な私が一瞬で処置を行えば、それこそ死んでしまう。


「ノエルさん、救護班はどちらに?」


「霧が動いてないのなら、村の方角から入って直ぐの場所を維持している筈だ。向こうで、想定を上回る何かが起きて居なければの話だけど」


「でしたら、そこに三人でルークを連れて行って下さい」


「君はどうするつもりだ?」


「此処で足止めします」


 全員では動けない。

 だったら私が残る方が良い筈だ。


「団長……」


 消え入りそうな声が耳に入る。

 小さな音を頼りに顔を動かすと、目を開いた()()()が口を震わせながら動かそうとしていた。

 

「ルーク喋っちゃ駄目ッ」


 外の傷口すら塞ぎきっておらず、そもそも内部の傷口はどうしようもない。

 そんな状態で話されたら直ぐに悪化してしまう。


「傷口が広がっちゃうから、喋らないで」


「団長、ノエル殿下。すみません……俺」


「ルーク喋るんじゃない! 団長殿の声が聞こえてないのか!」


 ブレンダさんが強く呼びかけてもルークは話続け、


「俺……お二人の……皆の、役にたちたくて……」


 私とノエルさんに目を向けてから、前に立つ二人の方にも視線をゆっくりと送った。


「分かっている。だからもう話さなくて良い」


 ノエルさんが手を握るとルークが微笑もうとして口を閉ざすと、身体から力が抜けていく。


「必ず助ける。クローディア頼む」

 

 意識を集中させ生み出した氷を剣と傷口に付ける。

 ルークの傷口で氷が薄っすらと広がり、そのまま剣の周りを覆った。


「ノエルさん終わりました、行って下さい!」


 もう運ぶしかない。

 早く、まともな手当てを受けさせないと――。


 ノエルさんがルークを担ぎ上げ様とした最中、魔力の反応が増え自然と敵の方を向いてしまう。


 大きな馬と騎士。

 その左右で広がった白い霧。


 ――そこから、魔力の反応が増え続けている。


「まだ居たのか」

「どんなけ湧き出て来るの」


 前に立つ二人が剣を握り直し身構えた。

 一体、また一体と増えるそこからはオーガだけでなく、コボルトからコープスランタンに加え、数体の月影鳥まで姿を見せている。


 首なし騎士の左右に現れた魔物は片側だけでも五十は軽く超え、両側で数えれば百は超えていた。

 それが広がる霧に合わせて、際限なく増え続けている。


 あと少しで朝だって言うのに、明らかに邪魔していると思えた。


「邪魔しないでよ……」


 何を考えているのかも分からない相手だ。

 魔物に泣き言を言っても仕方がない。


 数が減る訳でも、現れた魔物が逃げてくれる訳でもない。

 それどこから、ノエルさん達を逃さないようにか広がり始めながら進んでいる。


 囲まれたら、ノエルさん達じゃ突破に時間がかかってしまう。

 それじゃルークが助からない。


 前方に集まっている今――攻撃するしか。


「ノエルさん、ルークをお願いします」


 立ち上がり、前に居たアレクシスさんとブレンダさんよりも前に出る。


「クローディア?」


 何でこんな時に。

 怪我人ぐらい運んでも良いじゃん。


 ――歩く身体に冷気が纏わり、一歩進む度に地面が凍った。


 何で、阻止しようとするのよ。

 どうせ、あんたは怪我人を脅威とも感じてないんでしょ……。


 だったら「邪魔しないでよッ――!」


 力強く一歩踏み出した足が地に触れた途端に氷が前に広がり、波の様にして敵に押し寄せた。

 鋭い氷柱が斜めに伸びた途端に別の氷柱が伸び、何度も覆い被さりながら敵に向かって行く。その波は止まる事はなく、瞬く間に前方に現れた無数の魔物と木々すらも飲み込んでしまう。


 ――聳え立つ氷の山。

 その中で氷漬けにされた魔物が動く事はない。

 唯一、中央に残された首なし騎士を除いて。


「今の内に、行って下さい」


 前を向いたまま言葉を放った私は、氷を砕き出て来た首なし騎士と対峙する。



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