第53話:霧の中へ
迫り来る月影鳥に攻撃するのではなく、氷の壁を宙に作りあげた。
氷越しに見える魔物が私を攻撃した様に、氷に翼をぶつける。
氷の壁が半分に割れ、そのまま突き進んで来る魔物。
間を埋めるように水を生み出すも再び攻撃を受け、水と共に押し流される。
地上と空が何度も入れ替わり、回り続ける中で両腕を伸ばした。
回転する身体に合わせ、らせん状に氷の細い造形が広がっていく。
――広がる網の様に空中に広がり、近づこうとしていた月影鳥が速度を落とし急いで上に逃げようとする。
逃がすか。
渦巻く様に伸びた氷の先端が繋がり、それぞれが氷が近くにある氷に向かって伸びた事で、瞬く間に鳥かごの様にして月影鳥を捕らえる。
脱出しようと氷の檻にぶつかるも、加速出来ない月影鳥が氷を突破する事はなかった。
身体の回転を止め、自身の手前から広がって行く檻に向けて手を向ける。
「貫け――」
放たれた氷の槍が月影鳥に深く突き刺さり、脱力した体が落ちると同時に氷を解いた。
魔物は直ぐに落下し、私の身体も自然と落ち始める。
「いっ……」
酷い怪我だ。
魔物を倒しても痛みが消える訳じゃない。
そんな状態で落ちる私の視界に、薄っすらと明るくなった地平線の空が映った。
――朝だ。
これでやっと、首なし騎士は退いてくれる。
それまで皆と戦って、もちこたえないと。
無数にある人と魔物を捉え、私は魔術を起動した。
「スペル・キャプチャー・テレポーテーション」
視界が変わった途端、白い霧が広がった。
周囲を満たす霧が視認性を悪くし、魔物や人を見えづらくさせている。
――けど、首なし騎士の位置は確認できた。
少し離れた場所で、他とは比べ物にならない存在感を放っている。
周りを見ていた私が一歩前に足を出した途端に、身体に痛みが走った。
空中に居た時よりも地に足が着いている分、より酷く感じられる。
それでも私は、一呼吸してから走り出した。
木の根や転がる魔物の死体を飛び越え進み、道中で木の陰に隠れていた大きな影が動く。
人ではありえないその影は、直ぐにオーガだと分かった。
「邪魔!」
手のひらをオーガに向け、放たれた風の刃がオーガの体を切り刻みながら吹き飛ばす。
吹き飛んだ先に人が居なければそれで良い。
歩みを止めずに向かった先で私は首なし騎士を捉えると同時に、目的の人物を目で捉えた。
――首なし騎士から少し離れた位置で、ノエルさんが他の団員を支えながら魔物から遠のいていた。
その間、アレクシスさんが敵と剣を交え、ブレンダさんが隙を伺っている。
間に合った。
ノエルさんに戻ったと伝えてから、直ぐに二人の加勢を。
もう少しで朝だ。
それまで戦闘を維持出来れば、体制を整えられる。
「ノエルさん、今戻って――」
視線だけをノエルさんに向け、首なし騎士に向かっていた。
けれど、視線を向けていたノエルさんの後ろで火が揺らめいた。
赤くない、青白い光。
人型に近い影が動き、手に持っていた剣を突き刺そうと動かしている。
それは、剣を持ったコープスランタンだった。
急いで手を伸ばし、魔術を起動させる。
しかし、思考がどんなに早く回ったとしても、魔術で生み出した物体や魔力が到達するよりも先に攻撃がノエルさんに当たってしまう距離だった。
駄目だ、間に合わない。
生成される氷が、いつも以上に遅く感じてしまう。
そんな状況で木陰から飛び出た人影が、ノエルさんを突き飛ばしていた。
何が起こったのか分からなかった。
けれど飛び込んだ人影によってノエルさんの身体は動き、剣の軌道から逸れる。
そのノエルさんが居た場所に、不安定な姿勢で飛び込んだルークの姿を視認するも、私の魔術が間に合う事はなかった……。
どうする事も出来ないまま、
ルークの身体を貫いた剣が背中に突き抜ける。
――訳も分からないまま、全ての音が耳から消えた。




