第34話:戦意
辺りを見渡し、詠唱していた人物を見つける。
軽く足元の地面を盛り上げると、体勢を崩し詠唱が中断された。
「良し」
次々に振るわれる剣をかわしながら、一人ずつ飛ばしていくと大抵残る人は決まっている。
怖気づいた人と、乱戦になるのを嫌う人。
それと顔馴染みで躊躇っている奴だ。
「そんな所で、何してるのお二人さん」
仲良く並んでいたダンジョン入口の警備をしていた二人を見つけ、近づきながら話しかける。すると、二人は自分達ではないと言いたげに後ろを見るが、二人組らしきペアは運悪く残っていなかった。
「違うんです、クロさん」
「そうですよクロさん。いや、クローディア……さん? とにかく勘弁してください」
何を勘弁するんだ。
「まったく、私を何だと思ってるの」
「我らの上司にして、最強の番人です」
「そうです。私達がいつクロさんの実力を疑った事がありましょうか! 一度もありませんッ!」
余りにも必死な弁解に、遠くに居るノエルさんも顔を手で隠しそらしていた。
きっと笑いこらえているに違いない、
「でも、駄目ですよ。ほら、構えて下さい――」
私がそう言い放ちながら魔力を垂れ流すと、二人が瞬時に身構えた。
「くそ、俺達の命はここまでか――」
誰も殺すとか言ってないのに……。
私を魔物とでも思ってるのかな。
私は分かりやすく、右手に持っていた水の剣先で弧を描く様に下に向けて振るう。
それを二人が目で追い、視線が流れた隙に左の立てていた人差し指を真下に向けて下ろす。
二人の頭上に生成された大岩。
足元に影が出来た事に気づいた二人が上を見上げ、巨大な落下物を目にすると同時に左右に転がって避ける。
――やるじゃん。
私は心の中でそう思い、問答無用で前に詰める。
「クロさん、魔術師なんじゃ……」
起き上がり様に私の水の剣を受け文句を口にするも、剣を受けた衝撃で飛び散った水を身体に受けてしまい、肘や膝など関節にも付いていた。
「凍れ――」
周囲に発生した冷気が水を凍らせ、瞬時に身体の自由を奪う。
そして反対側に転がっていたもう一人が背後から、私を斬ろうと無言で剣を振るっていた。
「残念、ちょっと遅いかな」
形を失いつつあった水の剣を相手に向ける。すると、形を失いかけていた刀身部分の水が網の様に広がり、もう一人の身体を完全に包み込むと同時に水から氷へと変わっていく。
「まぁ、最初の攻撃で潰れてないだけ、マシだよ。いつもお疲れ様」
ダンジョンを守っていた二人の強さが知りたく、まともに相手をしていた。
顔馴染みだからと、手を抜くのが一番失礼に当たる。
そんな考えが、私の中には強く根付いていた。
「さてと――」
振り向いた私は、ルークと向かい合っていた。
ルークには、ダンジョンでも魔術を見せた事がある。
だから、同じものでは意味がない。
対策を考えて、私に向かって来るなら別だけど、ノエルさんの事だ戦う事を前もって伝えていた訳ではないのだろう。臨機応変な対応力を養え、とか言いそうだもん。
「お願いします、クローディア団長!」
今日一番の熱意の入った声な気がした。
「風よ。この身に纏いて、我が身を守り、敵を払う風となれ――颶風装」
私の周囲を無数の気流が包み、身体が地面から浮く。
その周囲に流れる風は一方向に流れている訳ではなく、無数に折り重なり、複雑に風が絡み合っている。それが砂を私の足場から遠ざける様に離し、近づこうとする全てに風の圧を与えていた。
私がこの技を使う時に気を付ける事は一つだ。
絶対に手の平を動かす方向に対して、垂直にさせない事だ。
ノリで縦に手刀なんて行えば、地面が割れる。それと同じで、横に流れる手刀も勿論駄目だ。
ルークが黙って魔術を眺める状況で、他の騎士がようやく私に向かって詰めて来る。
私は、ゆっくりと手のひらで空気をはたくように手を動かした。
――すると、少し離れていた人達が突然、見えない壁に押し退けられている様に後ろに吹き飛んで行く。それを迫る相手に繰り返す。
「さて、ルークも味わうと良い」
「……こんなの、どう対処したら……」
「それは自分で考えるんだよ」
まだまだ未熟なルークだけでなく、広範囲の人に風の圧を下ろし、下に下げていた手のひらを急いで上に向けて少しだけ上に持ち上げる。すると巻き込まれていた人の身体一瞬地面から離れ、それぞれが地面に落下していく。重い鎧を着ていた人は着地出来ず、そのまま地面に転がっていた。
「怪我はしないでね。って言っても、その高さで怪我するなら、鎧は見直した方が良いから」
本当に変わるかは、別として意味のない防具はただの重りでしかない。
「まだ……お願いします」
起き上がったルークが、私に向かって剣を構えた。
「良いよ、相手してあげる」
「行きます」
礼儀正しく声かけしたルークが下に剣を構えたまま迫り、突然。
目の前で口を開いた。
「ファイヤ」
突然現れたのは、引き伸ばされた大きな火だった。
でもそれは余りにも歪で、火球とも呼べない面状に広がった火。
「うそ――!?」
でも、ルークとしてはそれで良かったのだろう。
ルークがこの土壇場でそれを使った事に私は驚き、更に対応するよりも先にルークがその薄い火の向こう側から飛び出して来た事によって完全に先手を取られてしまった。
「せいッ!」
そう言って綺麗に胴体狙って振り下ろされる真剣。
私はそれを、避けるでもなく、ただ待ち受けていた。
そして周りに纏う風がルークの剣を絡め、瞬時に反発する様に弾き飛ばされる。
剣は大きく後ろに吹き飛び、ルーク自身も少し離れた位置で転がっていた。
「そんな……」
「まだまだだね。えいっ」
ルークに見える位置で、人差し指でデコピンの形を作り、私は人差し指を弾いた。
すると人差し指に合わせて風が動き、離れた位置に居たルークを更に吹き飛ばし地面に倒れさせる。
「ふぅ、これであらかた終わったかな」
周りを見渡した私は、辛そうな表情をしているブレンダ・ハズラックさんと目が合った。
どこかで私の攻撃に巻き込まれたのかな、余り覚えていないや。
でも、この人は皆が絶対に抱える問題を率先して、解消しようとしてくれた人だ。
ちゃんと相手しないと、失礼だ。
「ブレンダさん、と呼んで良いですか?」
「はい、お任せします」
剣を構え、まだ戦う意思を見せていた。
「手合わせ、お願いします」
「喜んで」
――そう言って、突っ込んで来たブレンダさんは剣を振るのではなく、真っすぐに突き刺して来た。それによって多少軌道は変わるものの、私の身体の近くを刃が通り抜ける。
「外した――!」
剣を風に絡め捉える前に引き抜いたブレンダさんが、もう一度行おうと構えた。
けれど、流石に二度目はさせない。
ブレンダさんが距離を取った隙に、私はゆっくりと両手を動かした。
「おしまいです」
――静かに、両手を叩き合わせる。
その途端、ブレンダさんの周囲にあった風がブレンダさんを挟み込み、全身に風に押し潰される様な衝撃を受けたブレンダさんが膝から崩れ、その場に倒れ込んだ。
「そこまで!」
ノエルさんの合図が屋外広場に響き、私達は一息つくと同時に、それぞれが倒れている人の元に駆け寄る。
「ブレンダさん! 大丈夫ですか!?」
私もまた、ブレンダさんの元に向かって走り出した。
連載版を掲載し始めた7月26日から、今日でちょうど一ヶ月となります。
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。
これからも引き続き、更新をお待ちいただけますと幸いです。
――海月花夜――




