第33話:最初の試練
ノエルさん達からも少し離れ、第三騎士団の面々と向かい合う。
さてどんな魔術を使おう。
魔術で相手するにしても、相手は人間だ。
これが魔術師団の人なら、多少は無茶するけど本当に生身というのは脆い。
私が一人で考えている間に、向こうは何人かが纏まり話をしていた。
何だか、除け者にされている気分になる。
「両者、準備は良いね?」
ノエルさんが合図を取る。
「はい」
こういう場合に限って何も知らない人程、長引いた分だけ私が事前に何かしていたと言い始める。だから私はノエルさんに返事を返していた。
そして向こうも先頭に居る人達が頷いた事で、ノエルさんが腕を上げる。
「これより、模擬戦を始める。開始――」
掛け声と共にノエルさんが腕を振り下ろし、目の前で一斉に動き出す。
「総員散開ッ! 各個で隙を伺いつつ攻撃しろ!」
並んでいた人達が広がり出し、屋外広場を限界まで使おうとする。
その光景を目にして私は、数の暴力で襲って来なかった事に少なからず驚いていた。
この手の事を行うと、大抵が統制の無い突撃になる。
だから私としても魔術を一度放つだけで、纏まって終わるのだから、楽でしかなかった。それが、相手が無作為に広がった事で、少しだけ面倒さを増す。
ノエルさんの居る場所は可能な限り避けられているものの、円形状範囲攻撃を行うとノエルさんを確実に巻き込んでしまう。範囲に居る方が悪いでは、誰も護衛出来ない無能と言っているのと変わらない。
私は一応、ノエルさんの居る周囲に氷の壁を立て、雑ではあったものの囲った。
――ノエルさんだし、後は大丈夫かな。
少しばかりの信頼という、名の元に楽をした私は意識を仮想敵に向ける。
広がった人も居れば、私に向かって距離を詰めて来る騎士も居るのだから、うかうかしてられない。
「水の剣よ、出でよ」
炎でも氷でもなく、水で形を成した剣を私は右手に掴んだ。
「水の剣なんぞ、舐めやがってッ」
一人の男性が斜めに剣を振るって来る。
「舐めてませんよ」
手加減はしていても、舐めてはいない。
それだけ甘い相手であれば、そもそも騎士団の存在意義が問われてしまう。
それに関しては、開始と同時に突撃してこなかった時点である程度は、分かっている。
斜めに迫る剣を私は水の剣で受け止め、水とは思えない弾力で水の剣が相手の刃を跳ね除け、相手が大きく体勢を崩した。その隙に、胴に一発水の剣をたたき込むと、後方へと軽く吹き飛んで行く。
――首から着地してないのよね……。
吹き飛んだ相手が転がった先で、手足を動かそうとしたのを見て私は安堵する。
加減が難しい。剣だけでなく、身体にも魔力を纏わせるとノエルさんにデコピンした時みたく、女性の身体からは想像出来ない力を扱えてしまう。
「ほら、次! 何ビビってんの――」
私が声を張り上げ、立ち止まっていた者達に呼びかける。
一人一人来られていたらきりがない。
けれど、これは第三騎士団の団長になる為に場所だ。
魔術で圧倒しましたじゃ、余り意味がなさない気がする。
「ぁあああ”ッ――!!!」
「おっ、良いね」
一人の若き兵士が私に向かって、一直線に走って来る。
剣を上で構え、振り下ろす気概が伝わっていた。
私が迎え打とうと剣を構えた時だった。
「「「ファイア・ボール」」」
私の右側面に回っていた三人が、私目掛けて火球を放とうとしている。
私は剣を握ったまま右拳を右に突き出し、小指と親指だけで剣を支え、残り三本の指を伸ばし、相手の攻撃に合わせて深く折り曲げていた。
飛来した三つの火球が、軌道上に現れた岩の塊に押し潰されそのまま岩だけが地面に落ちる。
「一体何が起こったんだ!」
「知るかよッ!」
「せぇやぁあッ――!」
その間に迫った、一人の兵士が真上から剣を振り下ろす。
私はそれを斜め下から持ち手部分を上に向かって流し、剣先が斜め下を向いている状態で相手の剣を受けた。真上から振り下ろされた剣が水の刃に触れ、流れる様に剣先がある下へと向かって滑り落ちる。
「ごめんね」
自らが振るった剣が、予想以上の速さでいなされた事で私に背中を見せる形で、その場でつまずき、私は容赦なく剣の腹を背中目掛けて叩き落とした。
「あ”ぁ――」
苦しそうな声が溢れ、地面に突っ伏す。
「次」
少し離れた所で二十人程の魔術師が集まり、私に向かって長々と何かを詠唱していた。
「良いよ、待ってあげる」
その間に、誰もせめて来ないのは、これから起こる魔術に巻き込まれるからだろう。
小さな風が私の周囲で回り始め、やがてそれが大きな渦になっていく。
――今抜け出したら良いんだろうけど、それじゃ意味がない。
この模擬戦の意味は、私の実力を認めさせる事だ。
次第に大きな渦となった風が、視界を遮り私の周りを取り囲んだ。
何も見えない小さな砂嵐のど真ん中に放り込まれた気分だ。
身体の周囲に魔力を纏い、目や皮膚を含め身体全体を守る。
そして外から大きな掛け合わされる声が聞こえて来る。
「ファイヤ・ストーム」
回っていた渦巻に一瞬にして火が混じり、瞬く間に頭上まで広がる大きな火柱になると同時に、辺りの気温を一瞬に上げ、私を燃やし尽くそうとしている。
「どうですか、降参すれば今すぐに――」
そんな声が外から聞こえて来る。
魔術師が少ない師団では、良くやった方だ。
いや、統制も考えれば十分過ぎると、私は素直に思った。
「凄いね、本当に凄いよ」
「大丈夫ですか!? 降参するなら、解除を――」
「いや、必要ないかな」
「え、今なんと――」
私は燃え盛る炎の渦を見上げ、薄っすらと空が見えている事に気づく。
竜巻の中って、空が見えるんだ。
そんな事を思ってから、私は周囲に魔力を散布する。
「凍れ――」
回っていた炎の渦が一瞬にして氷、竜巻を型取った氷の彫刻が出来上がった。
そして風を足場に作った私は、その高い氷像の上から第三騎士団の皆を見てから、氷の足場を繋げる様にして空中に作り、ゆっくりと滑り降りながら地表へと戻っていく。
その間に私を攻撃する魔術師は、いなかった。
「凄いね、魔術師団でもないのに、こんな魔術を受けるとは思ってなかったよ」
唖然とし、私が一歩前に出ると先ほどよりも多い人数が、後退った。
「でも、形式上ね。全員、戦わないとズルい、よね? 先に飛ばされた人も居るんだし」
私は溢れる人の中から、顔馴染みの二人と、ルークを探していた。
どこいったんだ、良い機会だから、教えてあげる。
「次――かかって来なさい。剣でも、魔術でも、構わないよ」
そう私が声を張り上げると、少し離れた位置から見ていたノエルさんは微笑んでいた。
「すっかり、団長みたいで、良かったかな……」
そう聞こえた声に、若干の不安が混じっていたと思ったのはまぁ気のせいだろう。
割と耳が良い私は、誰かが魔術の詠唱を始めたのを捉え、直ぐに対策しようとする。
「最後まで、全員きっちり相手してあげる」




