第32話:第三騎士団
一つの訓練場らしき建物がある、敷地内の屋外広場。
私はそこに並ぶ人達の前に、ノエルさんと一緒に出ていた。
百名は軽く超えるだろう人の中から、割と前の方に居たルークと、ダンジョン入口の警備をしていた二人と一度だけ目を合わせる。
「さて、此処に居る君たちが第三騎士団のメンバーになる。そして団長は、僕の隣に居るクローディアが務める事になった。異論はないよね?」
挨拶もほどほどに、ノエルさんが本題に入った。
「あります!」
そんな暴挙が静かに収まるはずもなく、一人の女性が手を挙げる。
「何かな、ブレンダ・ハズラック」
ノエルさんに名前を呼ばれた、短い茶髪の女性が姿勢を更に正して口を開いた。その見開いた両の目は、真っすぐに私とノエルさんの方を向き、迷う事なく前を向いている。
「いくら何でも、急にこの人が団長だから。では無理があると存じ上げます。私達は皆ノエル殿下の事を信用していてもその方に関しては、ダンジョン踏破の際に居た者を除き、大半の者が今日が会ったばかりに過ぎません」
「そうだね。でも駄目だ。それは受け入れられない話だ」
「何故ですか!?」
少し大きな声でブレンダ・ハズラックさんが返した。
それに対してノエルさんは、ゆっくりと私の方を一度見て、前に視線を戻す。
……嫌な予感が。
「君たちは、彼女の実力を知らないから、素直に認められないんだよね?」
「はい。端的に言えばそういう事になります」
「良し、クローディア。ちょっと全員、ねじ伏せて良いよ。僕が許可する」
「――許可するじゃないですよ! ノエルさん!? 私は平和に団長として役目を果たすと思っていたのに、いきなり団員と仲が悪くなる可能性しかないですよ!」
私も必死に抗議したが、それが不味かった。
「クローディア……団長。その言い草は、ねじ伏せるのが簡単。という意味でしょうか?」
ブレンダ・ハズラックさんに睨まれた私は、申し訳なさそうに小さく、ほんの少しだけ……頷いた。
――実際、どうなんだろう。
実のところ、魔術師団では何度かやっていた。
新人に纏めて魔術を教えるという名の訓練を……。
正直、騎士団とでは勝手が違い過ぎる。
ノエルさんの話だと、この第三騎士団は魔術師も含まれているらしい。
けれど、それでも半分以上は剣を振るう者の筈だ。
知っているか知らないか、扱うか扱わないかでは、怪我する割合が変わってくる。
「ノエル殿下」
私が悩んでいると、一人の寡黙そうな男性が列から一歩前に出た。
薄い金色の髪を後ろで結び、男性でありながらその結んだ髪が腰辺りまで伸びている。その束にそこまでの毛量はなく、横髪などは耳にかからない長さで切り揃えられていた。
ノエルさんよりも背丈が大きく、肩幅の広いその人は腰に剣を携え、誰よりも厳格な騎士なのだろうと初対面でありながら思わされる。
「アレクシス、まさか君まで反対するのかい?」
先ほどとは違い、少し砕けた感じでノエルさんが話していた。
「いえ。私個人として、反対するつもりはありません」
「つまり、他の者が認めればそれに合わせると?」
「そういう事になります」
そう言って、アレクシスと呼ばれた男性が静かに列から離れ、私とノエルさん側に来た。
つまり、巻き添えはごめんだ。
そういう事なのだろう。
――けれど私は、この人が近く来てから異様な圧を受けていた。
殺気ではないけれど、無視出来ない。そんな言葉にも出来ないものを、感じてしまう。
もし今、ノエルさんを殺しに暗殺者が来たとしても、この人を無視してノエルさんだけを殺しにかかるとは、どうしてか思えなかった。
「ちょうど良い、皆。彼がこの第三騎士団の副団長を務める。彼については異論ないね?」
そうノエルさんが聞くと、私の時とは違って誰も反対しない。
寧ろそうだと言わんばかりに満足気だった。
「ノエルさん、アレクシスさんって」
「僕が小さい頃からの仲でね。ここ最近は、王国の魔物との戦線が不安定だから、その視察に行ってもらってたんだ。彼なら魔物と遭遇しても、大抵の場合は大丈夫だからね」
確かに、この人なら大丈夫なのだろう。
魔物に押される姿が想像できない。
――オーガが相手であろうとも、力で押し返してそうだ。
「それじゃ、クローディア。悪いけど、君のやり方で皆を納得させてもらえるかな? 帝国は、王国よりもその毛色が強くてね。悪いけど、僕が口で言っても余り意味がないんだ」
言うのが遅いのでは……。
此処に辿り着く前に言ってもらえれば、色々と準備が出来たのに。
「分かりました。自分の新しい仕事は、自分の力で手に入れます」
ダンジョンの夜間警備という仕事を失った今、無職と言われれば私は無職だ。それでいきなり、ノエルさんというお偉いさんに楽な地位を用意してもらったのでは、どこぞの会社で威張る社長息子と変わらない。
――それは嫌だ、遠慮させてもらう。
私が一歩前に出ると、何人かが後ろに下がりたそうにする。
恐らく私と一緒にダンジョンに居た人なのだろう。
けれどもう遅い。
私は人混みの中に居た――ルークと、同じく役目を失ったであろうダンジョン入口の警備をしていた二人に心の中で謝りつつ、魔術書を取り出した。




