第27話:外
転移陣らしきものに皆で入り、目を開けると見覚えのあるダンジョンの前に居た。
沈みかけた夕陽が、辺りを照らし出す。
ダンジョンの中は昼過ぎだったが、外はすっかり夕方みたいだ。
「ちゃんと帰れた」
安心した私が第一声を出し、それを聞いた皆が苦い顔をしている。
入る前に『多分帰れます!』と言ったのが、良くなかったのかもしれない。
けれど転移陣と分かっていても、座標までは勘でしか答えられなかったのだ。
「ノエル殿下、それにクロさん――!」
後ろから声が聞こえ振り返った私とノエルさんは、他の重装備の人達に紛れているルークを見つける。
「ルークじゃん、どうしたのそんな格好して」
いつもより明らかに、装備が重そうだった。
その周りには数えきれない人達が待機している。
他の皆も、どこか浮かない顔をして、じっとこちらを見ていた。
「ダンジョンは――、魔物はどうなったんですか!」
前に出たルークが、こっちに向かって問いかけて来る。
なるほど、ノエルさんが待機させていた防衛部隊なんだ。
状況を理解した私が、前に居たのでノエルさんより先に答える。
「それに関しては大丈夫。倒して来たから、ねぇノエルさん」
私がノエルさんの名前を出すと、一斉に視線が集まった。
一緒に帰って来た人も含め、ダンジョンの入口に居た大勢の人達も皆がノエルさんの方を見る。
「敵は倒した。だから皆、先ずは犠牲者が出なかった事を、喜ぼうか」
その言葉を聞いて、皆が静かに笑みを浮かべた。
――ノエルさんらしい、そう思ってしまう。
これが、他の人だったら第一声がダンジョン踏破の自慢だったと思うと悲しくなる。
ノエルさんで良かった、そう思っていたら私の方を向いた。
「君からも何か、一言ぐらい言ってくれないかい?」
「えっ! 私――!?」
突然話を振られ一瞬焦った。
けれど舐めないでもらいたい、これでも元、魔術師の団長だったのだ。
「どうなっても、しりませんよ?」
「どうぞ」
自信満々に促すノエルさん。
良し、こうなったら皆を労うのが上に立つものの務めだ。
――そして今は、私じゃなくノエルさんが上司に当たる!
「良し皆! 今日はノエルさんの奢りで、美味しいご飯を沢山食べて、飲みたい人は沢山飲め!」
周囲から馬鹿でかい声が巻き上がり、ダンジョンの洞窟にまで響き渡った。
私より、食い意地が凄い気が……まぁ、良いっか。
何故か、隣に居るノエルさんが、嬉しそうにしていた。
あれこれが正解だったの? 困惑した私が首を傾げる。
普通ノエルさんが苦笑いすると思っていたのに。
「ほんと、無事に帰れて良かったよ。君には、ちゃんと報酬を渡さないとね」
「そんな催促はしませんよ、とりあえず明日の分を、明日に頂ければ……」
そしたら食べる物に困らない。
「分かった、そうしよう」
「はい、お願いします」
ノエルさんに要望を伝えた私は、他の皆とご飯を食べて直ぐに部屋に戻っていた。
本当はもっと食べたかったが食べ過ぎても良くないし、眠気には抗えない。
ノエルさんは開始早々に報告で居なくなり、私は帰り際にルークに一声かけて帰った。
そして部屋に着いた私は――一人、ベッドに倒れる様に寝転がった。
「あぁ……もう動けない……」
吸い込まれた私の身体は、布団から離れようとはしない。
まるで重力が何倍にも増した様に、くっついてしまう。
「いいや、とりあえず寝よ――」
やっと布団で眠れる。
あの日、ダンジョンに向かった時の事を思い出し、暫くは良いやと思ってしまった。
えっ……てか、私のダンジョン警備の仕事はどうなるの!? 今更ながら気づいていた。
だがしかし遅い、上司であるノエルさんは近くに居らず、私の身体も動く気配がない。
「明日、聞けば……良いよね……」
私は、深い眠りについた。
***
朝起きた私は、部屋の入口に目を向けた。
何度も瞬きを繰り返し、いつもは何もない場所で物を見つける。
ようやくハッキリとした私の目が、手紙らしき物を認識した。
――何だろう。
凄く、嫌な予感がする。
ベッドから起き上がった私が入口に向かい、ゆっくりと手紙を手に取り開けた。
目を通したくない気持ちで読み進めるも『ダンジョン踏破の功績者として帝国議会への参加と、晩餐会への出席……』と、気乗りしない事ばかりが書かれている。
「勘弁して……」
――でも冷静に考えると、晩餐会なら……美味しい食べ物ぐらい、あるよね。
そっちは出てみたいかも。
こうして私の、帝国での日々が再び動き出した。




