第15話:痕跡
「これから、どうするつもり?」
周囲に人が広がり、警戒や休憩を取り始める最中、ノエルさんが私に話しかけていた。
「奥に進みたいです。ノエルさんだって、このまま帰るつもりじゃ、ないですよね?」
「元々、調査するつもりだったからね。出来れば、このまま行いたいと思っている」
幸い此処に来るまで、彼らは戦闘をしていない筈だ。
魔物が居ないのだから。
「だったら、進みましょう。あの魔物を……放っては、おけません」
「どんな魔物だったんだ?」
「魔物と言って良いのかも、分かりません」
私の放った言葉にノエルさんが戸惑いを見せる。
「魔物ではない、敵が居たって事かい?」
どう言えば良いのか考えてみるも、直ぐに答えは出てこない。
あの異質さは、伝わるのだろうか。
「いえ、魔力的には、魔物だと思います。言葉も発していませんでした。でも……」
何度思い返しても、動きに知性が感じられた。
そう思えてしまう。
「外見や、戦いから歩く動作までもが、人に近い……感じでした」
周囲に目を向けたノエルさんが、何かに気づいて歩き出す。
「その相手は、剣を使って来たんだよね?」
「はい、片手に剣を持ち、もう片方には水晶玉を持って、魔術らしき技も最後に……」
切り裂かれた地面の近くを通り、そのまま歩いたノエルさんがその場でしゃがみ込んで、地面に落ちた仮面の破片を拾い上げた。
「ノエルさん! そうむやみに触らないで下さい!」
少し焦った私はノエルさんを止めようとするも、ノエルさんは拾った物を離そうとしない。
「子供じゃないんですから、落ちてる物を直ぐに拾わないで下さいよ! 毒とか、変な呪いとかかかってたらどうするんですか!?」
「心配性だな、大丈夫だよこれぐらい」
そう言う人ほど、かかるんですよ! っと言ってやりたい気持ちだった。
でもそれを言ってしまうと、本当になりそうで言えない。
「私、聖属性は使えないので、回復とかも殆ど出来ないですからね。怪我しても、知りませんよ」
確かに時々、私は考え過ぎなのかと、自分でも思ってしまう。
用心する事は悪い事ではないけど、何事も適度にだ。
「大丈夫みたいだね。それにこれ、凄い魔力が残ってる」
「魔力ですか?」
普通、人や魔物から離れた物に魔力は残らない。
魔力を宿す道具は、極めて特殊だ。
「それ、本格的に大丈夫じゃないかもしれないじゃないですか……」
なのに残っているという事は、絶対に普通の仮面ではない。
だとしても魔力が残っているのなら、そこから魔物の位置を辿れるのではないだろうか。
「ノエルさん、少し貸して下さい」
「むやみに触ると、危ないんでしょ? 気を付けてよ」
私が何かするのを察したのか、ノエルさんが心配そうにしていた。
「私の方が、まだ大丈夫ですから」
手に持った破片を握りしめ、魔力を流し込みながら元の流れていた魔力を追って行く。
一度の強く魔力を当ててしまったら、全て上書きされてしまう。
だから慎重に、ゆっくりと魔力を流し込んだ。
「かなり、深いですね。ダンジョンの……殆ど、最奥と言って良い程に」
このダンジョンの深さは知らないけれど、地上から此処までの距離が可愛く思える程には、下に向かって魔力の反応は遠のいていた。
「確実に追えそう?」
「正直分からないですね。向こうは、私の前から消えて居なくなりました。同じ様に自由に移動できるのなら、どうしようもありません」
でもあの感じ、好きな場所に行ける様子はなかった。
魔力を探って飛べるなら、地上に向かっても強い魔力を持つ相手が居ない事は分かる筈だ。
だったらあれは、決められた場所に飛んでいるだけの可能性が高い。
何処にと聞かれれば、最下層しかないのだろうけど。
「追いますか?」
追うにはリスクが大きい。
不確定要素が多すぎる。
もし転移ですれ違ったら、後を追えるのは私だけになる。
私の問に、ノエルさんは長く悩んでいた。
ノエルさんが何を天秤にかけているのかは、分からない。
だけど今の私は、彼の出した答えに従おう。
「もう一度戦って、勝てると思うか?」
「勝てます。いえ、必ず勝ってみせます」
彼の期待に、私も応えてみたい。
そう思ってしまった。
「だったら、行こうか。いずれ、対処しないといけないからね」
「後回しよりも、先に片付けた方が良いですもんね」
私達は地上に引き返さずに、ダンジョンの奥に向かう事を決めた。




