第54話 リビング・デッド・ロッド
「やっぱり、飯地は死んでいたのか……」
『杖』の真実と共に、飯地が死んだ可能性が出てきたが、やはり飯地は死んでいた。
『神上家』の銃撃を受けて、屋上から転落していた。
「あそこから落ちると……」
神上未咲は何かを考えているみたいだ。
「多分、間違いないですね……」
「え?」
「竜司先輩、以前屋敷の外壁に変な染みが付いていましたよね?」
神上未咲が俺に訊いてきた。
確か、3日前のことだったと思う。
「ああ。それがどうかしたのか?」
「その染みが付いていた場所と、飯地先輩が落ちた場所が一致するのです」
何だって……
確かに、赤黒くて鉄っぽい臭いがしていたけど……
ビュォォォォォォォォォォォ……
外の方で、突風が吹いたみたいだ。
多分、飯地が現れたんだろう。
「本当の事は本人に訊こうか、未咲」
「そうですね……」
俺が提案すると、未咲は快く従ってくれた。
俺と神上未咲は、『神上家』の屋敷の屋上に来た。
ビュォォォォォォォォォォォ……
突風は、俺たちが屋上に出ると途端に静かになった。
屋上では、飯地が待っていた。
「どうした? まだ、邪魔をするつもりなのか?」
飯地が俺に訊いてきた。
だが、『杖』の真実を知った今となっては、飯地の邪魔をするのは二の次だ。
「飯地……。お前、1回死んだのか?」
俺は飯地の質問を無視し、逆に質問した。
すると、飯地がフッと悲しそうな顔になった。
「……見たのか?」
「ああ、お前に言われた通り、未咲に協力してもらって……」
まさか、あんなものを見るとは思わなかったけど……
「その通り、俺は1度死んだ。『神上家』に殺されてな」
飯地が自分の死を肯定した。
「もう分かっただろ。『魔女』なんてものは『神上家』の傀儡だ。俺たちは都合よく『神上家』に利用されていただけだったんだ」
「ああ。お前の言っていたことは本当だった……」
飯地の発言に、俺はもう反発する理由がなかった。
「だけど、まだ分からないことがある。何で、『杖』を使っているのに『魔女』みたいにならない?」
監視カメラの映像だけでは、分からないことが幾つかある。
1つ目は、飯地が『杖』を使いつつ何で色んなところに出没しているのかだ。
「ああ、そんなことか……」
飯地は溜め息混じりに答え始めた。
「結城は殺された時、『魔女』になりたいと願っていた。俺は殺された時、『神上家』に復讐したいと願っていた。その違いだけだ」
その違いだけ?
『杖』を使う代償で、『魔女』は動けなくなるんじゃないのか?
「お前、『神上家』が言っていたことをまだ信じているのか? 魔法を使う代償で動けなくなるなんて、ただの嘘だ。まあ、『神上家』ですら知らなかったみたいだけどな」
俺の質問を先回りして、飯地が答えた。
確かめようがないけど、飯地が目の前でペラペラ喋っているんだから、本当の事なんだろう。
「そうか。次の質問だけど、結城の記憶を消したのは誰なんだ?」
俺は2つ目の質問をした。
「今更、何でそんなことを訊く。そんなこと『杖』を持っている俺くらいしかできないだろ」
飯地が呆れたような声で答えた。
「じゃあ、何で記憶を消したんだ?」
飯地が何で記憶を消したのか、全く分からない。
記憶を消さなければ、結城の両親や警察が動いてくれただろうに……
「『神上家』から、お前や家族を守るためだ……」
「え?」
「お前は見てなかったのか? 『神上家』が俺を躊躇なく殺そうとしたことを! もし、記憶を消さなかったら、俺や結城に関わりのある人は皆殺しだっただろうさ!」
飯地が声を荒げて答えた。
確かに、俺は神上未咲に助けられてなかったら、『神上家』に何をされていたか分からない。
「まあ、記憶を消す範囲が木丈霞町一帯までだったから、外にいたお前の記憶は消せなかったがな……」
そして、少し笑ってから俺の記憶が無くなっていない理由を言った。
「じいちゃんの家にいたから、記憶が無くならなかったのか……」
俺は自分の記憶が無くならなかった理由を聞いて、唖然とした。
「俺の記憶が無くならなかった理由は分かった。だが、まだ分からないことがある」
「何だ?」
「飯地、お前の目的はいったい何なんだ?」
俺は飯地に最後の質問をした。




