第44話 レディキュリング・ロッド
「犯人を殺したぞ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
周囲に隠れていた『神上家』の黒服たちが歓声を上げた。
「ありがとう、伊阪竜司君。君のおかげで、木丈霞町は平穏を取り戻せそうだ」
後ろから神上達雄が俺の肩を叩いた。
何というか、凄く呆気ない終わり方だった。
「竜司先輩! うまく行きましたね!」
神上未咲も出てきて、俺を励ましてくれた。
だが、これで良かったんだろうか?
結局、俺は『神上家』に利用されていただけだったんじゃないか?
神上未咲の目的も果たせていないし……
「随分、なめられているみたいだな」
えっ!?
今、飯地の声が……
俺は倒れているはずの飯地を見た。
だが、そこにいる飯地は血を流していて、ビクともしない。
「飯地久彦君! 悪あがきはやめるんだ! もう、君は動けないはずだ!」
神上達雄が大声で、飯地に言った。
そして、倒れている飯地が持っている『杖』を取ろうとした。
「『杖』を使おうとする奴が、どうしてこうも気づかないかな?」
飯地の声と共に、倒れている飯地がどんどん薄くなっていく……
「なっ!?」
「その俺は、『杖』を使って作った偽物だよ!」
ビュォォォォォォォォォォォォ!!!!
そして、飯地が現れる時に吹く突風が再び吹き始めた。
「俺を嵌めようと頑張ったみたいだが……。木丈霞町を支配しているからって、いい気になるなよ!!」
飯地の声が辺りに響き渡る。
いつの間にか上空には、巨大な黒い雲が浮かんでいた。
ピカッ!!
バリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!!
頭上から雷が落ちてくる。
俺は咄嗟に神上未咲を庇いながら伏せた。
「キャッ!」
神上未咲は一瞬驚いたが、すぐに状況を察したのか、俺の身体にしがみついてきた。
ちょっと痛い……
ビュォォォォォォォォォォォォォ!!!!
バリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!
ドゴーーーーーーーン!!!!
一瞬にして、辺りは凄まじい嵐になった。
俺は顔を横向きにして周りを見た。
『神上家』の黒服たちが慌てふためいている。
そこを容赦なく雷が黒服たちを襲っていた。
ドタッ!!
俺の頭の後ろから何かが倒れた音がした。
ひょっとして……
振り返ると、すぐ近くに黒焦げになった『神上家』の黒服が倒れていた。
こんなことをして、いったい何になるって言うんだよ……
「うわああああああああああああああああ!!」
辺りから悲鳴が聞こえてきた。
おそらく、『神上家』の黒服が仲間の死を見て、恐怖に慄いているんだろう。
ドゴーーーン!!
その声は、雷の音と共に消えた。
今の落雷がちょうど当たったんだ……
「竜司先輩……怖い……」
神上未咲が俺に言ってきた。
俺だって怖い……
早くこの惨劇が納まってほしい。
だが、俺にはどうすることもできない。
今、この状況を操作しているのは、『杖』を持つ飯地なんだから……
「今日はお前で良いか……」
「ひっ!!」
飯地の冷たい声と人の怯える声が聞こえる。
「お前も結城の為の犠牲になれ」
ズドーン!
ズドーン!
ズドーン!
ズドーン!
ズドーン!
一昨日にも聞いた、人を生贄にするときの音だ。
これで飯地は、木丈霞町の端の地蔵全てに生贄を置いたことになる。
結局、飯地を止めることはできなかった……




