第29話 ヴィーングローリー・ロッド
「じゃあ、俺は少し用事があるから、お前らだけで喋っていてくれ」
全員の自己紹介が終わると、じいちゃんはそう言ってこの場から立ち去ってしまった。
え?
これから、どうすればいいんだよ!
と思っていたら、じいちゃんが木刀を持ってさっきとは逆の方向に行った。
ばあちゃん……逃げろ……
「さて、まずは何から話そうか?」
本条さんが、俺たちに訊いてきた。
本当に何から訊けばいいんだろう……
「あのー」
隣で、神上未咲が声を出した。
「何かな?」
「木丈霞町の財政状況を訊くのに、何の意味があるのですか? 竜司先輩のお祖父さんに訊かれて、あたしの知っている限りのことを答えたら、警戒を解かれましたし、あなた方もあたしが知らないことを分かったら、怒るのをやめましたよね?」
神上未咲が質問した。
そういえば、そうだ。
何で、じいちゃんもじいちゃんの仲間たちも木丈霞町の財政状況を訊いてくるんだろう?
木丈霞町は、観光資源となっている軍事工場のおかげで、財政は良好なのではないのか?
だから、木丈霞町から人が離れず、過疎化も少子高齢化も起きていないんじゃないのか?
「木丈霞町の人々が知らないのは当然ですね」
アレックスさんが言った。
当然?
いったい、何が……?
「当然……? って、どういう意味ですか?」
神上未咲も気になったようで、本条さんたちに質問した。
「簡単に言うと、君たちは木丈霞町が観光で財源を賄っていると思わされているんだ」
思わされているだって!?
「これが、木丈霞町の収支報告書だ」
本条さんが黒いかばんから紙を取り出した。
俺たちと本条さんたちの間にあるテーブルの上に、その紙は置かれた。
俺と神上未咲は、その内容を見る。
色々な文字や数字が書かれているが、俺はその最後のところに書かれている数字に目が行った。
おそらく、最終的な利益や損失が書かれているところだ。
そこの数字には「-」が付いていた。
しかも、かなりの額だ。
「この通り、木丈霞町は赤字だ。そして、このまま行けば確実に財政破綻する」
俺たちは言葉を失った。
まさか、自分たちの町がこんなに酷い状態だったとは思わなかった。
「観光でお金が入っているなんて嘘っぱちだ。俺や伊阪は、木丈霞町に入っていく人々を調べたが、観光目的で行く人なんて1人もいない。みんな、まるで何かに吸い寄せられるように木丈霞町に行って、そのまま帰ってこない」
本条さんは淡々と俺たちに事実を突き付けてきている。
「では……あたしたちが通っている木丈霞小学校や木丈霞中学校はどんなお金を使って改修されたのですか?」
「お金なんか使ってないさ。だって、木丈霞町にはお金を使わなくても何でもできる道具があるだろう?」
本条さんが笑って言った。
「『杖』ですか……?」
「そうだ」
俺が訊くと、本条さんはあっさりと答えた。
そういうことか……
木丈霞町が、『神上家』の言いなりの理由。
それは、『神上家』が『魔女』を守っているからだけじゃないんだ。
『神上家』の援助がないと、木丈霞町は破滅するからなんだ。
「でも、『魔女』がそんな勝手なことを許すんですか?」
そこが俺はとても気になった。
もし、結城が『魔女』として生きていたら、『神上家』に加担することになる。
でも、そんなことを結城が許すんだろうか?
「許すんじゃないかな? だって、町の人々の為に魔法を行使するんだから」
本条さんが俺の質問に答えた。
本当の『魔女』の社に閉じ込められた『魔女』は、外の状況が分からずに魔法を使うんだから、『神上家』の言うことには従ってしまうのか……
恐ろしいな……




