第27話 アボミネイテッド・ロッド
バスに揺られて30分強。
俺たちは木丈霞町の隣にある穣貝町の市街地に着いた。
ここからまた、バスに乗らないとじいちゃん家には辿り着けない。
田舎とは本当に不便だ。
「おーい、竜司ー!!」
何処からか俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
まさか……
「じいちゃん!?」
俺は声のする方向を見て驚いた。
なんと、じいちゃんが車の脇に立って、手を振っていた。
あちゃー……
まさか、車で迎えに来るほど喜んでいるとは思わなかった……
これは早く家を出て正解だったな。
多分遅れても、じいちゃんは何も言わないと思うが、俺が申し訳なくなってしまう。
「待ちきれなくて、来ちゃったぞ!」
じいちゃんは凄く嬉しそうだ。
俺は、じいちゃんのテンションに付いていけず、口をポカーンと開けたまましばらく固まっていた。
横を見ると、神上未咲も口を開けて固まっている。
「どうした、竜司?」
しばらくして、ようやく俺たちが固まっていることに、じいちゃんが気づいた。
「あ、いや。まさか、じいちゃんが迎えに来るとは思わなくて……」
「竜司がこっちに来てくれると分かっただけで、心が躍ってもうどうしようもなくなってしまったからな!!」
喜んでもらえてうれしいけど、じいちゃんの発言にはちょっと引く。
「そんなことより、竜司。竜司の隣にいる女の子はどなた?」
じいちゃんは神上未咲の存在に気付いて、俺に訊いてきた。
「え……あー……」
何て言おう……
神上未咲が、『神上家』の人間だって知ったら、じいちゃんは絶対に機嫌を悪くする。
あ、しまった……
バスの中で、そのことを神上未咲に伝えていなかった……
「はじめまして。神上未咲と言います」
神上未咲がじいちゃんに自己紹介をした。
「しんじょう? 何て字で書くんだ?」
「神の上と書いて、神上です」
じいちゃんの質問に、神上未咲はあっさりと答えてしまった。
これはやばい。
本当にやばい。
じいちゃんがキレる……
「貴様、『神上家』の回し者だな!!」
じいちゃんは、今にも神上未咲に掴みかかる勢いで怒鳴った。
ビクっとした神上未咲は何を思ったのか、俺の腕に掴まった。
「待って、じいちゃん……」
「おい、竜司から離れろ!! 竜司もそいつを引き剥がせ!!」
じいちゃんは、顔を真っ赤にして叫んでいる。
これは抑えるのが大変そうだ。
「だから待って、じいちゃん。確かに未咲の苗字は神上だけど、『神上家』じゃないんだ」
「何を言っているんだ、竜司!? お前も『神上家』に毒されたのか!!」
じいちゃんの声が、どんどん大きくなっていく。
しょうがないから、神上未咲の事情を話すことにした。
「未咲はね、忌み子なんだ……」
「はぁ!? 忌み……子……?」
「未咲は、『神上家』の中で嫌われているんだ。だから、『神上家』が何をしているとか全然知らないんだよ」
これで、通じるか?
「じゃあ、木丈霞町の財政状況とか分かるか?」
じいちゃんが、神上未咲に質問した。
何故、そこで木丈霞町の財政状況が出てくる。
「え? とても良いって聞いてますけど……」
神上未咲は首を傾げながら答えた。
「そうか……」
じいちゃんは神上未咲の顔をジッと見ている。
「うむ! 嘘はついていないみたいだな!」
何処で判断した!?
「さあ、2人とも車に乗った乗った! 俺の仲間を家で待たせているからな!」
じいちゃんは笑いながら、俺たちを車に誘導した。
「さっきの質問、いったい何だったのですかね?」
「さあ?」
俺と神上未咲は、じいちゃんがした質問の意味を考えながら、車に乗った。




