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45.チャオの里で

文体が変わってしまってますね…。

日々精進した結果という事で納得いただけるとありがたいです。


不定期更新が続きますが、ここから2章のような位置づけになります。

樹齢数百年を思わせる大きな樹の下で、一脚の椅子に腰掛けた少女が静かに目を閉じている。

背後に立つ栗色の長い髪をした女性が、丁寧な手つきでその少女の長い黒髪を小さな木の櫛で剥いていく。


長い闘病生活の間も家族の手によって綺麗に保たれていた自慢の黒髪だったが、この世界に来てからというものコンディショナーはもちろんシャンプーも無かった為、石鹸だけで洗っていた結果すっかり痛んできていた。しかしある朝目覚めるといつの間にか傍らに居たこの女性が持つ櫛ですかれる度に、まるで愛用のコンディショナーで補修されるかのように以前の輝きを取り戻していた。


「もうすっかり痛んだ所は治ったようですね。とても綺麗な御髪(おぐし)に戻られましたよ、お母様」

「ありがとう、これもアルブルさんの御陰です。あとその呼び方止めてもらえませんかってイタタタタ」


抵抗もなく毛先まで通っていた櫛をグリグリと頭皮に押し付けるようにされた黒髪の少女が思わず悲鳴を上げるが、アイブルと呼ばれた女性は澄ました顔でサラリと言い放つ。


「私達はミユキ様によってこの世界に具現しました、それ即ちミユキ様が私達の母であるという証です」

「いやそれはもう何度も聞きましたけど、だからって実際にお母様と呼ばれるとってイタタタタ!」

「愛する母に突き放される子の痛みに比べたら、これ位微々足るものですわ」


左手を頬にあて神妙な顔をしながら溜息をつくアイブルだったが、右手はしっかりと櫛をグリグリと頭皮に押し付けている。絶妙な力加減で頭皮を痛めない程度の力で的確に痛覚だけを刺激してくる愛情表現(ほぼ拷問)に、堪らず逃げ出そうとするミユキだったがいつの間にか座っていた椅子から小さな枝が伸び、ミユキの細い腰をしっかりとホールドしていた。


「ちょっとイタタ、魔法は使っちゃダメってイテテ言ったじゃないですかイタァァァァ!」

「あらいつの間に…でも、これくらい樹の精霊の私には魔法という認識にすらならない行為ですのでノーカウントですよ♪」


ずるぃぃぃぃという叫びを上げるミユキと、何でしょう何か楽しいわホホホホ…と良い笑顔のアイブル。

しかしそんなアイブルの足首に若干の違和感が発生すると、笑顔だった顔がスッと冷めたものへと豹変していく。


「獣の分際で私とお母様の楽しい一時を邪魔するとは、覚悟はできているんでしょうねぇ?」

「ガルルルルルル!」


冷淡な視線を下へと向けると、その細い足首には一匹の狼が牙を突き立てていた。それは小さな子供の狼だったが、その口には既に犬よりも凶悪な牙が生えそろっており呻りながら力を込める先端は、その柔肌に深々と突き刺さって…はいなかった。白い柔肌に見える細い足首は、まるで固い木の棒のように強固に牙の進入を防いでいた。


「狼といえどまだまだ小狼、そんな脆弱な牙では到底私の肌を傷つけることは叶いませんわ」

「グルルルル…」

「やれやれ諦めが悪い…、ゆっくりお仕置きをしてあげま…ひゃ!」


狼の牙にも余裕そうにしていたアイブルが突然背筋を震え上がらせる、慌てて背後の樹を振り返ればもう一匹の小狼が片足を上げて樹の幹に『お小水(ピ---)』をしていた。


「死なぁぁぁぁす!」


黙っていれば深窓の令嬢のようなお淑やかな印象のアイブルだったが、中身はちょっとお茶目な感じの樹の精霊であり、今も両手を振り上げて二匹の小狼達を追いかけて行ってしまった。

1人残されたミユキは呆然とアイブル達を見送っていたが、自分の現状を思い出し既に遠くなった背中に話しかける。


「お~い…、遊ぶ前にこの椅子どうにかしてって~…」


おしい、問題はそこじゃぁない…。

そんな感想を抱きながら、白地に朱色で文様が施された独特な布を肩からかけた1人のチャオが、少し離れた所から見つめていた。彼女はミユキと共にフィーリスの街からこの『チャオの隠れ里』に戻ってきたチャオであった。

フィーリスの街を出てからというもの、やはり何処か暗い影がその端正な顔に隠れていたが、元気になった後もミユキの側から離れようとしない2匹の子狼と、いつの間にか現れてミユキの傍らに居た樹の精霊と名乗る女性のお陰で段々と以前のような明るい笑顔を取り戻している事に安堵していた。


しかし、彼女の姉であり自らの友である女性の代わりに、優しい視線を送る彼女の瞳には薄っすらと朱色の光が宿っていた。





「余りにも伝承との違いがありませんか?」


窓も無い暗い部屋に静かに男の声が響く、ゆっくりと開かれた男の瞳には暗闇に残滓を残すように朱色の光が燈っていた。


「確かに人々の願いを叶えるという伝承とは幾分違うようではありますが、不思議な力を持っていることは確かでは?」

「それに初代が残したという本もちゃんと読み取ったらしいではないか」

「それは、そうですが…」


部屋の中心に置かれた円卓を囲むように4人の男達が意見を交し合う、静かにだが熱を帯びたように話し合う3人の瞳には全て朱色の光が燈っている。そんな中、上座に座る杖を持つ者だけが未だ静かに目を瞑って静観していたが、小さくコツリと杖で床を叩くと男達の瞳から朱色の光がスゥッと消えていく。


「遠見の術で卑しくもミユキ様の行動を拝見させて頂きましたが、少しずつ以前の明るさを取り戻しているようですね」


一族をまとめる長老のどこかノホホンとした言葉に、意見を交わしていた3人は毒気を抜かれたように肩の力が抜けていく。散々話し合った事だ我等はミユキ様に従うと既に結論が出ている、彼女がこの里に来てからまだ一ヶ月だがその間に彼女が成した事は信用するに足る。


「そうですね、笑顔を見せていただく機会が増えたように思います」

「お出ししたお食事も、最近は残す事が少なくなったようです」

「里の子供達にも随分好かれているようですよ」


そう語る彼らの目には優しい物が宿っている、それを確認し満足そうに頷いた長老が表情を引き締めここに集まった本来の理由を切り出す。


「では本題へと移ろうか、ミユキ様からもたらされた甘味処(デザート店)の利用規制の対象者を……くっ! 発表する」


苦渋の表情を浮かべながら長老が名前を読み上げる、その中には長老の名はもちろん、この場に居る他の3人も含まれていた。

「甘いもの食べすぎ!」というミユキの言葉から、健康の為甘味処(デザート店)の入店を制限された長老達は数週間の間で横にかなり貫禄が増し、皺が多かった顔もパツンとする程ほどよく肥えていた…。





キラリと光る涙が哀愁を誘ったとか誘わなかったとか。






新しい精霊がでてきました、小狼たちと仲良く盛り上げて欲しいものです。


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