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第1話 「刃を止めた日」

第一話                         「刃を止めた日」

戦は、当たり前だった。

朝になれば兵が集まり、昼には血が流れ、夜には誰かが死ぬ。

それが乱世だった。

それが生きるということだった。

そして――

それが正しいと信じていた。

冬の風が吹いていた。

空は鉛色。

焼けた草木の匂いと、血の臭いが混じり合っている。

遠くでは鬨の声が響き、槍と槍がぶつかる音が絶え間なく続いていた。

戦場。

そこに一人の若武者がいた。

真田幸村。

赤備えの鎧は泥と血で汚れている。

呼吸は荒い。

肩には浅い傷。

だが、その瞳はまだ燃えていた。

「退くなぁぁぁっ!」

幸村が槍を振るう。

敵兵が吹き飛ぶ。

さらに踏み込む。

迷いはない。

躊躇もない。

勝たねばならない。

守らねばならない。

主君のために。

仲間のために。

真田のために。

「幸村様!」

背後から家臣の声。

振り向けば若い兵が駆け寄ってくる。

顔は血まみれだった。

「敵将が前方に!」

幸村の目が細くなる。

敵将。

この戦を終わらせる鍵。

討ち取れば流れは変わる。

「案内しろ!」

駆け出す。

土を蹴る。

風を切る。

兵たちの間を突き抜ける。

そして見つけた。

黒い鎧。

巨大な馬。

敵軍を指揮する武将。

「あれか」

幸村は槍を構える。

全身の力が研ぎ澄まされる。

呼吸が静かになる。

勝負は一瞬。

馬を飛び降りる。

大地を蹴る。

一直線。

敵将もこちらに気付いた。

刀を抜く。

怒号を上げる。

「来い! 真田幸村!」

激突。

槍と刀がぶつかり、火花が散る。

敵将は馬上から豪快に刀を振り下ろした。

幸村は半歩身を引き、その刃を槍で弾く。

鋼が悲鳴を上げた。

「ぬうっ!」

敵将が体勢を立て直すより早く、幸村は踏み込む。

懐へ。

槍は本来、間合いを取る武器。

だが幸村は違った。

柄を滑らせるように握り直し、至近距離から突きを放つ。

敵将が慌てて刀で受ける。

再び火花。

互角だった。

だが徐々に押しているのは幸村だった。

「終わりだ!」

渾身の一撃。

槍を振り上げる。

敵将の首が射程に入る。

勝てる。

その瞬間だった。

風が吹いた。

小さな泣き声が聞こえた。

「……え?」

幸村の目が揺れる。

敵将の背後。

崩れた荷車。

その陰。

幼い子供がいた。

戦場に取り残された村の子供。

泥だらけの顔。

両親の姿は見えない。

小さな手が震えていた。

泣いている。

敵将を貫けば。

そのまま子供も巻き込む。

一瞬。

焼け落ちた村で見た小さな亡骸が脳裏をよぎった。

守れなかった命。

二度と忘れられない光景だった…。

本当に一瞬。

だが。

その一瞬が。

幸村の人生を変えた。

槍が止まる。

敵将の目が見開かれる。

「なに……?」

止めてしまった。

討てた。

勝てた。

終わらせられた。

なのに。

子供の顔が見えた。

怖い。

助けて。

そう叫んでいるように見えた。

「……っ!」

体が動かない。

その時。

敵将の刀が振り下ろされた。

鮮血。

幸村の肩が裂ける。

吹き飛ばされる。

地面を転がる。

「幸村様!」

家臣たちの悲鳴。

だが幸村は立ち上がらない。

自分でも理解できなかった。

なぜ止めた。

なぜ討たなかった。

武士失格だ。

戦場で迷うなど。

だが。

胸の奥で何かが叫んでいた。

本当にそれでよかったのか、と。

その時だった。

空が割れた。

轟音。

戦場全体が震える。

兵たちが空を見上げる。

黒い雲。

違う。

雲ではない。

巨大な裂け目。

まるで世界そのものが破れたような穴。

「なんだ……あれは……」

誰かが呟く。

裂け目の奥から光が溢れ出した。

眩しい。

熱い。

恐ろしい。

戦場にいた全員が動きを止める。

その光の中から声が響いた。

『観測開始』

誰の声でもない。

男でも女でもない。

『歴史分岐点を確認』

幸村の背筋が凍る。

『選択を確認』

世界が揺れる。

遠くで別の光が生まれる。

青。

金。

緑。

紫。

戦場の別々の場所、別の年代にいた四人の武将たち。

伊達政宗。

織田信長。

上杉謙信。

明智光秀。

彼らも同じように空を見上げていた。

『適合者確認』

光が降る

『歴史修正機構、起動』

「待て!」

幸村が叫ぶ。

だが遅かった。

光が体を包む。

景色が崩れる。

空が砕ける。

大地が消える。

仲間の声。

兵の叫び。

馬のいななき。

全てが遠ざかる。

幸村は必死に手を伸ばした。

「俺はまだ……!」

守れていない。

何一つ。

その言葉すら最後まで言えなかった。

光が全てを飲み込んだ。

静寂。

そして。

次に目を開けた時。

そこに戦場はなかった。

見上げるほど高い建物。

見たこともない光。

走る鉄の箱。

空を横切る巨大な鉄の鳥。

羽ばたきもしない。

それなのに雲の向こうへ飛んでいく。

幸村は思わず目を見開いた。

人々が誰も刀を持っていない。

武家も町人も同じ服を着ている。

子供が一人で歩いている。

戦の気配がない。

平和だった。

あまりにも。

「……ここは」

幸村が呟く。

その隣で。

政宗が目を細める。

信長が笑う。

謙信が空を見上げる。

光秀だけは空の裂け目を見ても驚かなかった。                 「なるほど……そういうことか」      誰も理解できない。

なぜ自分たちがここにいるのか。

なぜ戦国から消えたのか。

だが。

彼らはまだ知らない。

この平和な世界の裏側で。

歴史そのものを喰らう存在が目を覚ましていることを。

そして。

彼らが再び戦う運命にあることを。

ただ一つ違うのは。

今度の戦いは。

討ち取るためではない。

守るための戦いになるということだった。  その瞬間。

誰もいないはずのビルの屋上で。

赤い瞳が五人を見下ろしていた。

【次回予告】

戦国の世から突然消えた真田幸村たち。

目を覚ました先は、 見たこともない平和な世界だった。

だが、その平和の裏側では、 人々の想いが怪物となり、 歴史そのものを蝕み始めていた――。

幸村たちの前に現れる謎の男、 大十字大和。

そして明かされる、 彼らがこの時代へ呼ばれた理由とは?

戦国武将たちの新たな戦いが始まる!     第二話「選ばれし者たち」

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