強くなりたい!
「何とか、勝てたね」
「まったくだ」
ソウマもほっと一息ついて、いつものおちゃらけた調子を取り戻していた。
しかし今回の戦での戦禍は、凄まじいものがあった。
ラファエアの一撃で、多くの味方が死んだ。
2000人以上が犠牲になったのだ。
そして、『クロス・クルセイド』に至っては、四天王全滅に加え7500人以上が死んだという報告がなされていた。しばらくは活動は下火になるだろう。
「また、体勢を立て直さないと、な」
ビスタが悩ましげにつぶやく。
彼女の苦悩はそれだけではない。
剣聖を前にした彼女は戦力としては、及ばなかった。
そのことが、彼女の自尊心をひどく傷つけていた。
エグゼもそうだ。
最後の最後に『日の大精霊・サニー』の力を最大限に引き出したからこそ。何とか勝てたが、その代償は余りにも大きく、左手を失うこととなった。
今回の勝利は、途方も無い犠牲の上に成り立ったのだ。
「まぁしかし、勝ちは勝ちだ!」
ソウマは大きく笑いながら、料理を平らげていた。
それはもちろん、自分で作ったレストランにも負けない、自分作の料理だった。
「「はぁ」」
エグゼとビスタは同時にため息を着く。
「私はこんなに無力感にさいなまれたことはないぞ」
ビスタがつぶやく。
力をつけ、さらに流馬足すら手に入れ、槍使いとしては『神槍』にも手が届くと思っていた。
しかし、その実、ラファエルには手も足も出なかったのだ。
「私は、更なる力が欲しい」
それは、切なる願いだった。
(それについては、私に考えがあるわぁ!)
『日の大精霊・サニー』が声をかける。
「本当か!? ぜひ頼む!」
「んま、それはとりあえず、後に置いておいて、これだな」
ラファエラが装備していた、『剣聖・ルーシア』の鎧を持ち帰っていた。
「これ、やっぱり魔法付与がされてるわ」
とアーニャがつぶやく。
「すごい魔法だね、初めて見たよ」
みんなの怪我の治療に当たっていたティアラも、この会議に参加していた。
「ラルファリオンを使っているから分かりづらいが、これは相当古いものだな」
伝説の防具となればたたらも黙ってはいられない。
「いったいどんな魔法がかけられているんだい?」
エグゼがつぶやく。
「なんて言ったら良いのかな…。魂の継承?」
アーニャ曰く。
これは装備したものに、前任者の記憶や技術などを受け渡すことが出来るらしい。一種の振り替え魔法だ。
すなわち、これを装備すれば誰でも『剣聖』の技術を得ることが出来るのだ。
「本来なら、決められた相手にだけなんだけど、ミハエルによって手を加えられて、誰でも扱えるようになってしまった見たいね」
前任者が決めた相手にしか、この鎧は装備できなかった。しかし、その魔法を改変することにより、ラファエラの言う『神魔』でも装備することが出来たのである。
「そうすると、ミハエルはやはり魔法が使えるのかもしれないな」
ビスタが言った。
戦闘の最中に見せた、驚異的な回復力と、この鎧の付与魔法の改変。
さらにはシスカの町の件もある。
乱発は出来ないようだが、まず間違いなくミハエル陣営は魔法が使えるとみて良いだろう。
「とりあえず、この鎧はエグゼが装備するのがいいと思うよ!」
ティアラが嬉しそうに話す。
「その方が、この鎧も、喜ぶよ!」
「母さんの装備していた鎧、か」
ソウマの目に在りし日の光景が目に浮かぶ。
ルーシアがこの鎧を装備していたときの姿が。
「ちょうど僕の鎧も壊れちゃったからね、ありがたく受け取るよ」
早速装備してみる。
その瞬間。
一気になだれ込んでくる記憶の数々。
それは途方もない情報量となって、脳に焼き付いていく。
そのうちにいらない情報は淘汰され、必要な、『剣聖』の剣技だけがそのまま魂に結合される。
「すごい」
まるで体が生まれ変わったようだった。
空気の流れが意図せず読める。
今なら、目をつぶってても、誰がなにをしているか分かるだろう。
サニーが脳の思考速度を加速させてくれるとしたら、この鎧は、身体的な能力を加速させてくれたのだ。
「これが、『剣聖』の力…」
今のエグゼなら、サニーと契約しなくても、『剣聖』の力を使い、人間のままで戦うことが出来るだろう。
「うん、これなら、ツクヨミにも認めてもらえそうだ!」
「わ、私のパワーアップいついてはっ!?」
慌てた様子でビスタがたずねてくる。
サニーが答えて曰く。
それは『大精霊の眷属』になることらしい。
大精霊と契約した者ーこの場合はエグゼーとさらに契約することで、眷属になることが出来る。その方法とは。
「簡単に言えば、私としたような『房中術』にて、気を通わせることだ!」
たたらは真っ赤になりながら、そっぽを向いて教えてくれる。
「ぼ、房中術!?」
エグゼも途端に真っ赤になる。
「ぼう…?なんだ、それは?とりあえず、私は強くなるためなら何でもするぞ!」
息巻いたビスタは、ティアラからごにょごにょと房中術の内容を聞いた途端、鼻血を噴出した。
「わ、私がこの男とそ、そそんなこと、をっ!?」
『でもぉ、修行も無しでいきなり強くなるには、これしか方法は無いのよぉ。それに、エグゼがこれからいろんな大精霊と契約すればするほど、強くなれるし…』
とってもいい手なのよねぇとサニーが促す。
「今日は二人にしっぽり契約してもらうとして、『月の大精霊・ツクヨミ』と契約しにいくのは、明日だな!」
他人事だと思って、この男は気楽な者である。
「なに他人事のように言っている? 貴様も大切なパートナーが出来たじゃないか。そのパートナーと『気』を通わせれば、ユーノの武具としての性能は増すぞ?」
そう、房中術は契約のためだけではなく、お互いの『気』を交わらせ、爆発的に増やすことも可能なのだ。
「ついでに私もまぜて! そうすれば、ユーノちゃんに粉を大量に渡せるから!」
「なんと、俺もか。しかも、二人も!?」
ユーノとソウマの睦事に、ティアラまで参戦したのだ。
「今夜はお互い眠れそうも無いな」
ソウマがぽん、とエグゼの肩を叩く。
「これも強くなるためだ。決してそれ以外のやましい気持ちは……」
ビスタがなにかをつぶやいている。
「私はまた武具つくりに専念させてもらおう。今回の件で、まだまだ精錬が必要だとわかったからな」
がんばれよ、と手を振って、たたらが部屋を出て行く。
気まずい雰囲気が流れたが、しないわけにはいかない。
「と、とりあえずよろしくお願いします」
こうして、激戦の後の夜はしっぽりとふけて行った。




