故郷
一路進路を北東に向けたエグゼとアーニャは三日ほど歩いて、つくし盆地をぬけてとある場所に来ていた。
そこは一面の焼け野原。
かつては立派な森だったのであろうが、今はその面影すらない。
「エグゼ、ここは?」
森に住む、アラクネのアーニャにとっては胸の痛い光景である。
「僕の故郷さ」
十数年前、エグゼが住んでいた森。 今は見るも無惨な姿になっている。
未だに命にが息吹くことのないこの死地には、月の精霊に会うためのアイテムが眠っているというが、はたして無事なのだろうか。
エグゼは迷うことなく森だった場所の最深部へと向かっていく。
アーニャは自分の感覚が狂うのを感じていた。
この森に入ってから、五感が狂っている。
森が感覚を鈍らせているのだ。
しかし、エグゼは迷うことなく森の奥へと進んでいく。
奥に行くにつれ、その違和感は強くなっていく。
いまだに火がくすぶっているところも見て取れる。
アーニャは思う。ここでいったい何があったのだろう、と。
ただの火事なら、また新たな生命が育っているであろう。しかし、ここではなにもない。
命の鼓動がなにも感じられないのだ。
魂ごと消滅する、神の如き炎。
ただの火事ではない。それだけはわかった。
「ここだ」
一際大きい木だったであろうモノ。
この森をずっと見守り続けていた神木のなれの果てだった。
この神木の周りだけは微かに聖なる力が感じられた。
エグゼは様々な感情入り交じった顔で、大木の根に手をかける。
「ただいま」
その言葉には幾千もの思いが込められていた。
エグゼが手をかざすと、神木は歓迎するかのように微かに光って見せた。
アーニャの『真実を写す瞳』は何を見たのだろうか。
自然と涙があふれでる。
断片的に見えるこの思い出は、幸せに満ちたものだった。
エグゼとエルフの女性。
そして、この神木の精霊。
さらには動物や、魔物まで、すべてがこの森には集まってた。
「僕はこの森で育ったんだ」
ポツリとエグゼが呟く。
その笑顔だけで、この森での暮らしがどんなに豊かな物だったかが伺える。
その影に隠れている、深い影も...…。
エグゼは、この森でも辛い思いをしているのだ。
「エグゼ」
アーニャはハラハラと涙をながし続ける。
幼き日のエグゼを育てたエルフの女性はもう……。
『エグゼ、気を付けて!!』
精霊玉に入っている『日の精霊』であるサニーが警告の声をあげる。
森の外から禍々しい魔物の気配が近づいてくる。
この気配は。
「造魔かっ!!」
エグゼは『大いなる精霊王の剣』を抜くと、 窪みに精霊玉を嵌め込み、サニーにこえをかける。
「サニー、融合だ!」
『で、でも、エグゼ……!』
精霊の魂と自分の魂を融合させ、魔法が使えなくなったこの大地で精霊を使役する唯一の方法だ。
しかし、その代償も決して無くはない。
魂というカテゴリーにおいて、人間の魂より、精霊の魂の方が存在力が強い。
長いこと、また数多く精霊と魂を融合させることで、エグゼの魂が精霊の魂に取り込まれてなくなってしまうか、別のなにかになってしまうのだ。
「今の僕じゃまだ、造魔に勝てないんだ!」
やむなし、エグゼとサニーは魂の結合を開始する。
今まで眠っていた感覚が覚醒するかのような充足感。
そして、こちらに向かう造魔の群れの存在が手にとるように分かる。
その数、15。
しかし、どうやってエグゼたちの位置がわかったのか……。
一瞬疑問が頭をよぎるが、すぐに頭を戦闘モードに切り替える。
敵はすぐ目の前に迫っていた。
「アーニャ、隠れてて!」
敵のいない方へアーニャを誘導し、 エグゼは自ら敵のいる方へと駆け出した。
もう、見える範囲に敵は迫っている。
人狼型の造魔が10匹、植物型が5匹。
植物型の造魔が長い蔓を鞭の様にしならせて、一斉に攻撃を仕掛けてくる。
その数はおよそ30。前後左右、音速に近い早さで迫り来る。
しかし、一撃。たった一閃ですべての蔓が切り落とされる。
その打ち終わり、瞬間の隙を付き人狼が一斉に飛びかる。
必殺のタイミング。
しかし、その攻撃は空を切る。
蔓を切り落とした瞬間に、すでにエグゼはその場には居なかった。
向かい来る人狼を無視し、 一気に植物型に迫り5匹を一瞬にして斬り伏せる。
あまりのスピードに、人狼たちはついていけずに戸惑っている。
飛びかかる爪と牙。
まともにうけたなら、傷はさることながら感染症も引き起こすであろうほどの不潔極まりない魔物である。
しかし、そんな中にあってエグゼの動きは軽やかで、まるで舞踏でもしているかのようだった。
思わず見とれてしまうアーニャ。
エグゼはその場からほぼ動くことなく、軽いステップと上半身のしなやかさのみで敵の猛攻を交わし、受け流す。
それは小さな子供が遊んでいるような、そんな危うさも秘めていた。
ひとしきり造魔の攻撃をしのいだエグゼは、飽きたのか、次々とカウンターで造魔を屠っていく。
造魔が全てチリになる頃には、すでに夕日が森を照らしていた。




