第53話 帝王の懺悔(sideクロイド・ユーリウス)
黒いタキシードの男が私に話しかける。
未だに名前は分からない。それどころか常に仮面を付けているせいで顔すら知らない。
しかしこの男こそがカーバンクル王国に侵略戦争を仕掛けるきっかけとなった人物だ。
この男と知り合ったのは5年前の事。
突如として私の隣に立っていた。本来なら素性を知らない男を招きいれてはいけない。だけどこの男はとある図面とアイテムを持ってきたから。
結果として、数年の間でクロイド帝国は魔導先進国の立場を得ることができた。
魔導科学力を進歩させる代わりに、この黒のタキシードが求める要求を飲んだ。求める内容も『調査をしたいから人員をよこせ』などの些細な内容だった。
しかしどんなに魔導科学力が上がっても、冬になれば帝国民達は食糧難に苦しんだ。貿易で獲得した利益だけでは帝国の隅々には渡り切らないのが現状だった。
だけど黒のタキシードの男が持ってきた魔導技術がなければ、より多くの帝国の民が飢えに苦しんでいただろう。
「それならば、カーバンクル王国の領土を奪ってしまいましょう」
「なんだと……?」
「このまま帝国の民が飢えに苦しんでも良いのでしょうか? 大丈夫。私には良い考えがあるのです」
私は甘い言葉に乗ってしまった。この黒のタキシードの男の言葉は私が罪を犯すには十分すぎる言い訳だった。
この魔導科学力を持ってすれば隣国を制圧するのは簡単だろう。
領土を広げ、国内自給率が上がれば国民は飢えに苦しまなくて済む。
国民が安心して生活できるなら、私はなんだって構わない。なりふり構っていられない。
懺悔ならいくらでもできる。生きている間……そして死後、堕ちるであろう地獄でいくらでも。
故にこの計画も秘密裏に行われていた。大型の魔導ゴーレムも開発をしていたが、あえて実戦には不向きな状態で情報開示ながら魔導国家の地位を確立していた。
なので余裕を持ってこの黒いタキシードの男の要求通り、魔導ゴーレムを1万体も駆り出すことにした。これには私なりの恩返しの意味もあった。
なにが目的かは知らないが、この黒いタキシードの男の成功を祈りたかった。
そして私はこの侵略戦争を見届けなければならなかった。一人の人間として、自らが選択した過ちを見届けるために。私はその光景を一生涯忘れてはいけない。仮に悪夢に苛まれても罰を受け続けなければならないのだ。
もちろん私はこのことを、ザマール公爵とカンユウという聖職者の男には伝えていない。彼らは彼らの目的があり、私達は私達の目的があるからだ。
その後、タイーラ平原で彼らは相まみえた。海路を除くがタイーラ平原はクロイド帝国とカーバンクル王国と繋ぐ、唯一の陸路だ。それ以外のルートは山脈が連なっているだけでなく、気候も不安定だ。移動するにはあまりも不向きすぎる。
カンユウはアークという少年と戦った。戦いというには、あまりにもお粗末だったけれど。それにしても、あの小さな身体にどれくらいのパワーが秘められているのだろう。
そして、ザマール公爵家の長男ガイアとアークは戦おうとしていた。そういえばアークという少年はジャポリの街の領主になったかなんかでうっすらと報告を受けた気がする。
なんにせよ。兄弟で殺し合いとはあまりにも悲劇だ。知るよしもないだろうけど。私を許してくれ。
しかし予想外のことが起きた。
「嘘だろ……? 一万体のゴーレムだぞ……?」
このアークという少年が何をしたのかは分からない。
改めて言うが、この侵略戦争が成功すればクロイド帝国が抱える食料問題を一気に解決することができる。
でもその反面、カーバンクル王国の被害がどれほどになるか分からない。分からないはずだった。
ここで唯一理解できることは、この黒いタキシードの男の……いや、私達の企みは終わったことだけだ。
だけど私は勘違いをしていた。
『GUAAAAAAA!』
突如、巨大な蛇の化け物が現れた。
なんの予兆はなかった。
「おぉ……邪神様……」
黒いタキシードの男は恍惚な声をあげていた。
「なんだこの化け物! 俺は何も聞いていないぞ!」
私は視線を邪神と呼ばれた、巨大な赤い蛇の化け物に戻した。
黒のタキシードの男は消えていた。最初からこれが目的だったのか! こいつは最初から、化け物を呼び出すことが!
アークという少年の凄まじい攻撃を受けてもすぐに巨大な赤い蛇は真っ二つに裂けても、すぐに体を再生させた。
「そんな……」
私は絶望した。私がこの男が提示した餌に引っ掛かったばかりに……こんなのことには……!
しかし私が感じた絶望は、
「は……? なんだそれ……」
アークという子供の攻撃が目の前にいた邪神が光の刃で切り刻まれる。
その光の刃はどんどんと丸みを帯びて、邪神を丸々と飲み込み……そして消滅させた。邪神が再生する兆候も見えない。まさか……勝ったのか……? あの化け物に……? 私は罪を重ねなくて良かったのか……!?
私は安堵した。いや、待て本当に安堵できるのか??
いや、それはまずい! アークという少年はあまりにも強すぎる! 邪神を殺すなんてありえない!
もしもこのままクロイド帝国がこいつに攻め込まれたら……? クロイド帝国が滅び、民が貧困に喘いでしまう! 犠牲になるのは私一人で構わない!!
急がなければ……! 彼らが勝利の余韻に浸っている間しかチャンスはない!
私は焦る気持ちを抑えて声に出す。
「ジャポリ領の領主、アーク殿とお見受けする! 我はクロイド帝国の帝王をさせてもらっているクロイド・ユーリウスという者だ!我がクロイド帝国はジャポリ王国の属国にさせて頂きたい!」
この方法しかクロイド帝国が存続できる道がないのだ。
次話が最終話です!!
ぜひ最後までお付き合い下さい!




