第5話 ただの木の枝(SSS)で焚き火
「ねぇ、本当にラティは付いてきて大丈夫なの?」
街を出発して3日が経過していた。僕が目指している極東の地まであと3時間ほどで着く距離まで来た。思ったよりもモンスターの数は多かったけど、生憎たいして強くなかったから助かった。
まさかラティが一緒に着いてくるとは思っていなかった。
ラティは第四王女という身分で王族。普通に家出同然。さすがにまずいと思うのだが……。
「何度も言ってるけど、別に私は王女だけどめっちゃ大事って訳じゃないから。それにちゃんとお父様に手紙を出してるから大丈夫だし」
ラティのいうお父様とは王様のことだ。なにかあったら大変のはずだ。でもそのことは第四王女であるラティも理解しているはずだ。そのうえで僕のことが心配で付いてきている。本音をいえば嬉しい。嬉しいのだけど……。
「それに、アーク君が守ってくれるから大丈夫でしょ?」
「そりゃあ、命に代えても守るけど」
「本当にアーク君強くなっちゃったよね。あのスキンヘッドのチンピラなんて相手にもなってなかったし」
「た、たまたまだよ」
「たまたまで人はあんなに吹っ飛ばないんだけど?」
「そ、そうかな?」
「そうだよ……それにしても」
「ん?」
「昨日のあれは驚いたよね」
「あぁ……うん。僕も驚いた」
昨日の晩のことだ。焚き火をしようとラティと一緒に木の枝を集めた。
結構な数も集めて僕はふと思いつきを呟いた。
『この木の枝のレアリティをSSSにしたらどうなんだろう』
それを聞いたラティが『きっと火起こしが楽になるね』と言うので、数本を使用して火を点けようと試みたのだが……。
「まさか木の枝のレアリティを変更して集めても全然火が点かなかったのは驚きだったんだけど」
「むしろ火は点くと思ったんだけどな。期待させちゃってごめん」
木の枝を組み立てた時に【ただの木の枝(SSS)】【ただの木の枝(SSS)】【ただの木の枝(SSS)】【ただの木の枝(SSS)】【ただの木の枝(SSS)】と神話クラスの木の枝で焚き火をしようとしていた時のラティは少し複雑そうな顔をしていたのは記憶に残っている。
「ううん。むしろ火に対する耐性がめちゃくちゃあるってことじゃん? ちょっと強めの魔法でも燃える気配すら無かったし。やっぱりレアリティ変更士ってすごいよ?」
結果として笑い話になっているから良かったけど、全部試さなくて良かった。再度、木の枝を取りに行くのは面倒だから。ちなみにレアリティを変更した木の枝は僕のバックに入っている。短めの大きさで試して本当に良かった。
「剣士の旦那!!もうすぐ着きますよ!!」
馬乗りのおじさんが僕に声をかける。ちなみに剣士の旦那とは僕のことだ。
「あ、ありがとうございます!」
「いやー、それにしても。剣士の旦那がこの馬車のレアリティ? ですかい? それを変更してくれたおかげで、普段なら10日はかかる道のりも3日で辿りついてしまいましたからね!」
お世話になるのだからと思い、僕は馬乗りの人に許可を取った上で馬車のレアリティを変更していた。最初、懐疑の目で僕を見ていたけれど。
その結果、
【よくある馬車(N)】→【よくある馬車(SSS)】
となった。
馬車の性能が良くなったせいか、結果として僕達も快適な旅をすることができた。
普段なら悪道で痛くなるお尻も全く痛くない。やっぱりレアリティは大事なのかもしれない。
「それにこの地区のモンスターはみんな強いから、いつもは臭い玉を使って追い払うってのに、それをバッサバッサと倒すんですもの! あ、もちろん最初に頂いたお代は返しますよ?? こんなに安心して旅ができたのは久しぶりですからな!! はっはっはっ!!」
あぁ……このあたりのモンスターって弱くなかったんだ。あんまり実感が無かったけれど、やっぱりレアリティ変更士は軽蔑されるジョブじゃないんだ。
「えっと……そう言ってもらえると嬉しいです」
ちなみに、剣士の旦那と呼ばれている所以だが、道中は【刃こぼれした剣(SSS)】で全てのモンスターを一刀両断したからだ。
問題はただの一振りで、モンスターだけではなく大地もついで裂け目ができていた。大地に剣は触れてないのに。
「やっぱり、真の実力者ってやつぁ! 自分のことを謙遜されるんですなぁ! 若ぇってのに大したもんですわぁ! あ、あそこに見えるのが極東の地――ジャポリでさぁ!」
目の前に石の城塞がある。大きなレンガのような石に囲まれているのだが、所々ひび割れていた。
馬乗りのおじさんは僕に尋ねる。
「それにしても、あんな寂れた土地に何のようなんですかい??」
「えっと、実家を追放されちゃって……お父様がここに行けって」
僕が馬乗りにそう答えると、馬乗りは同情するような目を僕に向けて、
「そうかい……根掘り葉掘り聞かないけど、旦那達も苦労してんだな……時折、立ち寄らせてもらうけど、何かあったら相談乗りますわ……旦那に恩もあることですしな!」
「え? あ、ありがとうございます」
僕達は門の前で馬車を降りる。
「また近いうちに会いやしょう!」
そういうと、馬乗りのおじさんは馬車を走らせて去っていった。