第6話 ジャポリの街
「お待ちしておりました」
門をくぐると執事服を纏った初老の男が頭を下げていた。
「えっとあなたは……」
僕が困惑していると執事服を纏った初老の男は頭を上げる。
「失礼致しました。アーク様。私はこの極東の地、ジャポリを代理で管理をさせて頂いておりますエドワード・フレディと申します。貴方のお母様であられますユニ様には生前とても良くさせて頂きました」
「お母様のことをご存知なのですか!?」
僕は聞かずにはいられなかった。
「それはもう。ユニ様がいらっしゃったおかげでジャポリの民は人並みの生活を送ることができました。しかしお亡くなりになられてからは……ご覧の有様ですが」
僕は冷静を取り戻して辺りを見渡す。そこにいる住人達は明らかに痩せこけ、疲弊していた。あまりに酷い光景だと思った。
「ひどい……ですね」
「元々の管理者が逃げ出したんです。一年前のことです」
「逃げ出した? この状況でですか?」
「はい。その通りです。しかも少ない公的資金を持ち逃げして、それを使って新天地で豪遊をしていたそうです。カジノで溶かしてそろそろ破産寸前らしいですが。民に圧制を敷いていましたので、自業自得だと思っておりますが」
「それは……」
あまりにも無責任だと思う。こんなにも民が困っている中、自分一人だけがのうのうと生きるなんて僕にはできそうにない。
「アーク様はお優しいのですね」
「優しい? 僕がですか?」
「えぇ、ユニ様……お母様に似られてお優しい。初めて会う民のためにお怒りになられるのが十分の証拠ではありませんか」
エドワードさんは懐かしむような目をして微笑んでいる。
「それにラティ様も美しくなられまして」
「エドワードさんの名前自体は当騎士団のエルザから聞いた事があるのですが……その、私達どこかでお会いしたことが?」
「覚えておられないのも当然でございましょう。ラティ様に最後にお会いしたのは十年も前のことでございますから」
「私が四歳の頃でしたか……」
ラティは困ったように笑みを浮かべた。
僕はラティに助け舟を出すつもりで一つの疑問をエドワードさんに尋ねた。
「ところでエドワードさんはどうして僕が来ることをわかっていたのですか?」
「あぁ、それは王国騎士のエリザ様から連絡がありまして。アーク様がいらっしゃるから用意をしろと。ただ第四王女までいらっしゃるとは伺っておりませんが」
「そ、それは失礼致しましたわ」
エドワードさんは困ったような目線をラティに向けた。ラティは苦笑いで返す。珍しく焦っているようにも見えたのが少しだけ微笑ましく思える。だからなのか結果としてお互い困ったような笑みを浮かべることになってしまった。
でもエリザさんはラティがここにいることは知っているのだろう。
「では、まずは屋敷にご案内を――いえ、ひとまず隠れるところから」
「ねぇ、なにあれ?」
エドワードさんは何故か隠れるように促してきたが、僕はラティが指を差す方向に気を取られた。僕の視線の先には野盗の集団が馬に乗って僕達の方に向かっているようにも見える。
「よぉ! 徴収のお時間だぜぇぇええ!」
眼帯を付けた男が高らかに叫んでいた。
徴収というのは税金などお金に関わることに使われるのだが、ジャパリの街はこの男になにか貸しがあるのだろうか?
「今日はお客様がお見えですので……お引き取りを」
エドワードさんが苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちをした。それをみた眼帯を付けた男は嬉しそうに笑い、
「おやおや? エドワードさんよぉ! 新しい住民かぁ!? 今日もこの盗賊団団長ライザ様のおかけでここの住人は生きられてるんだからよぉ! 俺の慈悲でただでさえ少ない物を取り上げないでやってんだからよぉ! だから今週も税金よこせや! まぁ、ショバ代って言い方もあるけどな! ギャハハハ!」
盗賊団の頭はライザと名乗った。
どうやら徴収という言葉は税金の意味合いで使っていたらしい。もしも税金を納めるとするならば、ジャポリの領主かこの街を管轄しているザマール家、もしくは国王陛下に納めるのが正しい。
逃げ出した領主と僕を追放したザマール家のことはどうでもいいけど、国王陛下……それもその娘であるラティの前で放って良い言葉ではない。それだけで王族侮辱罪で死刑になってもおかしくない。それもただの盗賊が。
ラティの性格上、自分が持っている権威を振りかざすのは好きではないから、そんなことはしないだろうけど。
「盗賊団……どうやらこの国にも膿はあったみたいだね。悲しいよ」
ラティは冷めた目でライザを見ていた。僕を困らせることはあっても、やっぱりラティは優しいのだ。
それにライザが来てから街の人達は怯え始めた。この人が悪い人だということは理解できる。
きっとこの人がジャポリの街の住民を苦しめているのだろう。
「なんだ? 上玉がいるじゃねぇか。オンナぁ、てめぇはこっちに来いやぁ」
ライザはゲスな笑みをラティに向ける。僕はこのライザという男に腹が立った。
その表情が僕の兄だったガイアを彷彿とさせて生理的な嫌悪感を抱くから。それはきっと隣で露骨に嫌な顔をしているラティも同じことを思っているのだろう。
「お断りです。私にはもう心に決めた人がいるので」
「ずいぶんと生意気なオンナじゃねぇか。嫌いじゃないぜぇ?? むしろ良い。そっちの方がそそられるよなぁ?」
「私は嫌いです。特に貴方みたいな人には。私に触れて良いのはただ一人だよ」
ラティはそう言いながら僕の腕に強く抱きつく。きっと僕の事を信頼してくれているのだろう。だとしたらその期待に応えないといけない。
僕はそっと剣の柄に手で触れる。
「安心しろ坊主。お前はきっちり殺してやるからよぉ」
ライザはニタニタと笑みを浮かべた後、右手を顎に置く。そして何かを考えるような素振りを見せる。あれは自分が絶対の優位を確信している顔だ。
「でもなぁ。ただ殺すだけじゃつまらねぇからなぁ……おいっ! ユリナ!」
「は、はいっ……」
ウルフヘアーの銀髪の少女が僕の前に立った。




