第46話 現状説明
「アーク様! 大変です! 隣国から軍を率いてこの街に向かってきています!」
ジャポリは王国の左端にある関係上、隣国と接している。隣国――クロイド帝国と王国の仲は決して悪い訳ではない。どうして今になって王国を攻めてくるのだろう。
「今の状況を説明してほしいんだけど」
ここは領主の間。ハルカはメガネをかけ、長い銀髪を束ねている。束ねた長い銀髪がまるで馬のシッポみたいに揺れていた。
「まず前提として……ジャポリの街からさらに東にクロイド帝国という国が存在しています。基本的には貿易での交流が盛んなのですが……」
王国とクロイド帝国が写った地図を見せる。ハルカはキーチクから解放された後、ジャポリのために働いてくれている。『せめて自分ができることを』と言って、国内外の情報を詰め込めるだけ詰め込んだように勉強をしていた。
「クロイド帝国は冬になると凍ってしまう港があるんですよ。そのせいで食料を王国に依存しているんですよ。冬になっても凍らない港に加えて、その道までの領土拡大……おそらく、クロイド帝国の狙いはそこにあると思います」
それならばいっそハルカに情報官として立場を与えて、ハルカの好きに動いてもらった。平穏な平和が続くと思っていたから、まさかハルカの知識が必要になるとは思っていなかった。
「なるほどね……」
ハルカの説明はとても分かりやすかった。たしかに食料は国民が飢えるかもしれないなら、戦争をしかけに行っても不思議ではない。港は凍るくらいなら寒いのなら、植物も取りづらくなるだろうし。
「ただ、どうして今なのか……というのが分かりません。冬でもないですし」
「アーク君。ハルカが言った通りの情報で間違いないと思うよ」
王女だから情勢はそれなりに詳しいはずだ。
「あ、それとなのですが……妙なことが一点ありまして……」
「妙なこと?」
「どうも通常の進行に比べると、明らかに遅いスピードで移動しているみたいなんです。このままだと通常2日で辿り着きます。ですが領土を獲得するなら、可能な限り早く進むのが当たり前の戦略です」
戦略は色々ある。長い時間をかけてゆっくり進行する戦略もある。だけど大軍の進行を隠すこともなく、進行させるならば何が意図がないとおかしいのだが……
「そんなに遅いの?」
「はい、いくらなんでも時間をかけすぎです。このままだと倍はかかります」
それはたしかに……クロイド帝国側が何を考えているか分からないけれど、時間がかからないなら、僕達もやりようがあるはずだ。
「だとしたら、ジャポリの街に到達する前になんとかしないとね」
「というか、ハルカはなんかすごく真面目になったね……なにか企んでるの?」
「嫌だなぁ~。アーク様は私を養ってくれるご主人様だよ? そんな粗相になるようなことできないじゃない?」
「そ、そうね! さすがはハルカ……! この三か月の間、勉強した甲斐はあったね!」
「お褒めに預かり嬉しいかな? じゃあご褒美に今度アーク様一緒に寝てもらってもいい?」
「いや! それは粗相だよ!? アウトだよ! 真面目になったって言葉は返してもらうよ!」
「は、ハルカお姉ちゃん……?」
ユリナはハルカの言葉にプルプルと小鹿のように震えていた。
「あっ! 冗談! 冗談だよ、ユリナ! だから泣きそうにならないで!?」
「な、泣きそうになってないよ?」
ハルカはユリナが泣くのではないかと必死に焦る。何もなければ、すごく微笑ましい光景なのだ。
「本当に? 泣きたかったら泣いてもいいんだよ!?」
「ハルカお姉ちゃん!? 私は子供じゃないんだよ!?」
「ハルカ……あんた妹には本当に甘いよね」
ラティが呆れたように笑う。
ラティが言うようにハルカはユリナに甘い気がする。でも大事にしていた妹と数年振りに再会できたら、甘すぎるように見えるのかもしれない。
「あ、パパに手紙を書いとくね! 何かあった時に助けになってくれるだろうから!」
「ありがとうラティ。お願いするよ」
みんなに助けられて、今の僕がある。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
そんなやり取りができるのは、まだ平和を噛みしめているから。そんな平和のやり取りができなくなる未来になってはいけない。
絶対に勝とう。僕達はそう心に誓って戦場に向かって歩き始めた。
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