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第43話 ディスペルの意外な使い方


「おい、そこのガキ! 俺を誰だと思ってんだ! あぁ!?」


 突然の怒号に振り向くと、酒瓶を持った酔っ払いの男が僕の領民である女の子に手をあげようとしていた。女の子の背丈だけ見たらリュミエールと変わらない。恐らく10才にもなっていないだろう。


「ひっく! 俺はなぁ! 偉いんだぞ! 舐めやがって!」 


 男は明らかに酔っていた。顔は赤く、ロレツもまわっていない。お酒のせいだろう。


「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい」


「うるせぇ! 俺はサドル伯爵だぞ! 伯爵! 貴族なんだぞ!」


 サドルと名乗った貴族はお酒のせいで支離滅裂なことを言っていた。


「そうなの? 貴族って、神様よりも偉いのかなぁ?」


 リュミエールの言葉に明らかに苛立ちを含まれている。リュミエールの気持ちは分かる。あまり相手にしていても良い事はない。変に刺激をするくらいなら落ち着かせて、事なきを得た方が良いと思っていたのだが……、


「というか、良い大人がそんな小さい子に怒鳴って恥ずかしくないの? 仮にも貴族様なんで――何? アーク君」


 僕はリュミエールに静止をかけた。リュミエールは正義感が強いというのは分かっているから。


「リュミエール落ち着いて、今度は僕に任せて。ここは僕の街のことだから」


「おいそこのメスガキ! 神様とか何言ってんのか分からねぇけどよぉ! 神様よりも偉いに決まってんだろうがよぉ!」


「うわぁ……」


 思わず声に出してしまった。声に出すつもりはなかったのに、自然と出てしまった。


 仮にも聖女に向かって神様よりも自分の方が偉いってそれはもう色々な意味でダメだと思う。


「ったくよぉ! 最近の平民はそんなことも分からねぇのかよ!」


「その理屈で言ったら、僕も一応、伯爵なんだけど……」


「おいおい! 子供の時から嘘はよくないねぇいなぁ!」


 お酒の匂いがここまで漂う。ロレツもまわっていない。まともに話せる状態じゃなさそうだ。


 困ったな……このままでは、この人をジャポリから追い出さなきゃいけない。


「おい……お前の目、なんか気に食わねぇなぁ……」


「はぁ……」


 そんなことを言われても知らないのだけど。というか、僕が悪いのだろうか?


「気に食わねぇって言ってんだよ!」


 サドルは僕に殴りかかってきた。でも大した攻撃ではない。僕は左に頭を振って攻撃をかわす。


「う、わぁぁぁあああああ!」


 サドルは絶対に当たると思っていたせいか、勢いよく転ぶ。


「て、てめぇぇえええ! 避けんじゃねぇよ!」


 立ち上がろうとするが、千鳥足のせいか何度か転びそうになっていた。


「貴族を馬鹿にした罪をぉぉお! 償わせてやるからなぁ!」


 サドルは剣を抜いた。うん。これはさすがに危ない。


「ちょっとごめんね」


『初級剣術スキル【居抜き(N)】のレアリティを【居抜き(SSS)】に変更しますか?』


 もちろん答えは『はい』だ。


「初級剣術スキル【居抜き(SSS)】」


 僕はサドルの手首を軽く捻る。その際に手首と剣の柄の間にできた隙間を抜くように、剣を奪った。


「は? おれの剣がないぞぉ!」 


 サドルは無駄に手をブンブン振る。


 僕は街の人に危険が及ばないように、サドルの手首を引っ張りながら足を引っかけて転ばせる。僕はそのまま腰骨の近くに膝を添えるように置く。これはスキルでもない。ただの体術だ。


「いたたたた! おい! 動けないぞ!」


「おい! 一体なんの騒ぎだ……ってアーク様ではありませんか? この状況は一体……」


「あ、スカーレットさん。少しだけ手を貸して頂いてもいいですか?」


 自警団のスカーレットさんが騒ぎを聞きつけ現れた。


 ジャイアントアントの一件以降もずっと街の治安維持のために、ジャポリに貢献してくれている人物だ。


「ヒック……! なんだぁ……おいおい……! 良い女じゃねぇか。こんなミルク臭いガキよりアンタの方がずっと良い。どうだいアンタ。俺と飲み明かそうぜ。俺は貴族だから金は気にすんな! ヒック……!」


 一応、サドルは僕によって地に伏せられている状況だ。それなのに、スカーレットさんを口説こうとするなんて……恥ずかしさはないのだろうか。


「あぁ……そういうことでしたか……」


 スカーレットさんは長く赤い髪を翻して、深い溜息を吐く。


 どうもスカーレットさんは慣れている対応をした。これが日常茶飯事なんだろうか。それなら、ちょっと申し訳ない気持ちだ。スカーレットさんの負担を減らすためにも、なにかしら手を打った方が良さそうだ。


「失礼ですが……こういう時こそラティ様の出番なのでは?」


「え? ラティが? どうして?」


「その……ラティ様はディスペルを使えるのですよね? それでしたら、酔っている状態の人にディスペルかけると治るんですよ。まぁ、そもそもディスペルを覚えられる人自体が貴重なんですけど」


「そうなんだ。うーん、でもラティは今さっき個人的な買い物に行ったばかりだから、いつ戻ってくるか……」


 じゃあ、キーチクが紅魔晶でモンスターを操っていた時、ラティがディスペルを覚えていたことは、本当に運が良かったことだったんだ。


「あ、アーク君!? ひょっとして私のこと呼んだ? これはもう相思相愛だね!」


「あ、ラティ丁度良かった――」


「あれ? なに……? こいつを殺せばいいの?」


「いやいや殺すなんて物騒な……」


 笑顔には変わりないんだけど、目が笑ってない。先程までの僕に向けた笑みとは性質が真逆と言ってもいいくらいに違っている。


「ラティ様。アーク様を助けたいなら、こいつにディスペルをかけて下さい」


「え? なんでディスペル?」


「それが酔っ払いには一番効くんですよ」


 スカーレットさんは笑顔で言う。面倒事が早く片付けそう


「ふーん。それでアーク君の助けになるならやるよ? はい、ディスペル」


 ラティは簡単にディスペルを唱える。今、ラティのディスペルのレアリティは変更していない。だけど以前にレアリティをよりもスムーズに唱えていた。


「ん? いたっ! 痛たたたたっ! なんだ!? 俺はどうなっているんだ?」


「気が付いた?」


「はぁ……あ、あれ? もしかして……そ、そのご尊顔は……ラティ第四王女!? どうしてこんなところに!?」


「えっと、実は――」


 僕は先程までの流れを説明する。説明をしている間、サドルは表情をドンドンと青くしていった。


「――も、申し訳ございませんでしたっ!! いくら酔っていたからと言って私はとんでもないことを!」


 それはもう見事な土下座だった。貴族のプライドは良い意味でない。


「それにしても……アーク殿は相当にお強いのですね。酔ってはいましたが、これでも中級程度の剣術スキルを嗜んでおりましたのに……いやぁ、本当に大事に至らなくて良かった。アーク殿がいなければ、私はとんでもない罪を犯していました。感謝してもしきれない……お嬢さんも怒鳴って悪かった。怖かっただろうに、こんな私を許しておくれ」


「う、うん。おじさんもうしちゃダメだよ」


「あぁ気を付けるよ」


 サドルは申し訳なさそうに女の子に向かい頭を下げる。酔っぱらっていた時の印象とはかけ離れていて、僕は驚きを隠せなかった。


「今後は節度を持って生きていきますよ。アーク殿、ラティ様。改めて本当にありがとう」


 思ったよりも会話ができる人で良かった。悪気はないとはいえ、今後はお酒に溺れないような生活を心掛けてほしい。


「それにしても、ディスペルって簡単に発動できるんだね」


「それなんだけどね……本来ディスペルって発動するまで時間がかかるスキルなんだよ?」


「え? そんなに時間をかけてなくない?」


「ほら、前に一度だけディスペルのレアリティを変えて、めちゃくちゃすごくしてもらったことがあったでしょ? そのおかげかディスペルを使うのが楽になったんだよね。スキル自体の練度が一段階上がっているんだよね」


「そんなことが……」


「これは予想だけど。アーク君のジョブ――レアリティ変更士は誰かの成長にめちゃくちゃ役に立つジョブなんだよ。その快感を知ったら、頼らずにはいられなくなっちゃうんだよ」


「えぇ、そこまで……?」


 でも頼ってもらえるなら、素直に嬉しい。


 だけどこの前のディスペルをのレアリティをSSSにした時にラティのSランクの魔力をも空にした。ラティの魔力量ではなく、普通の人が使ったら生命の危機に直結しかねない。


 いや、別にSSSにしなくても調整すればいいのか。時間が経てば経つほどレアリティ変更士の新しい使い方を見いだせる。無限の可能性が眠っているんだな。


「まぁ、私は最初からアーク君に頼りにしているけどね! もちろんアーク君が私を頼ってくれたら嬉しいけれど……多分、みんなも頼ってくれたら嬉しいって思っているよ?」


 ラティそうは言うけれど、いつも頼っているのは僕の方だ。


 誰かに頼らないとこれほど大きなジャポリの街は僕一人だけでは手に余る。


 本当にみんなのおかげなのだ。


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