第42話 食べ歩き
「アーク殿!! ここは天国か!?」
僕とラティ、ユリナ、そしてリュミエールの4人はジャポリの街の中央広場にいた。
食材の元となる種や食材そのものレアリティを変更したことによって、ジャポリで採れる食材は全て最高の味をしている。おかげさまでジャポリの食糧事情はだいぶ改善された。
「このお肉も! あんまり得意じゃない野菜も! 食べる全部が美味しい! いくらでも食べられるんだけど!?」
「好きなだけ食べていいよ」
「本当に!? やったぁ!」
リュミエールはモグモグと美味しそうに食べる。
「たまに外で食べると美味しいね。アーク君ご馳走様だよ」
「ご、ごちそうになって嬉しいんですけど……止まらなくなっちゃうんですよね……おかげで身体が重たくなった気が……」
「あー、わかる」
ユリナの表情がどんどん曇っていく。うーん、ユリナは少しくらい食べた方が良いと思うけれど、ラティが同意しているような反応を見るに女の子にしか分からない世界があるのだろう。
「というか! アーク殿の民は毎日こんな美味しいご飯を食べているのかい!? 昨日の晩御飯も美味しかったけど、それは領主のご飯にあずかっているだけだと思っていたけど……ずるい! こんなに美味しいご飯が食べられてずるい!」
リュミエールはすでに出店で買っていた肉と野菜の串焼きを平らげていた。そんなに食べて大丈夫なのだろうか? その小さな身体のどこに食べ物が入るスペースがあるのだろう。
「でも、聖女となると、それなりに豪華な食事が出るんじゃないの?」
なにせ教団の象徴……いわばトップの存在なのだ。貴族が取っている食事の内容と変わらなくても不思議ではない。
「そんなことない。修道食とか言って味気ないご飯が出される気持ち分かる?? 本当に美味しくないんだよ? だから逃げ出したの。こんなところいられるかっての……あ、お代わり貰っていい?」
そう言って、リュミエールは再度出店で串焼きを買った。
そうか……聖女も修道女と変わらない待遇を受けるのか……それなら屋台の食事に興奮するのも仕方がないよな。
「本当に美味しいわぁ……もうここに家でも買って永住しようかな」
「冗談でも言ってそう貰えると嬉しいかな」
「冗談じゃないけど? ほら、私って聖女だからお金いっぱいあるし」
じゃあ、そのお金で美味しいものを食べに行けば問題ないのでは? と思ったけれど、いつも見張られていたなら、目を盗んで買い食いをするのは難しいかもしれないな。
それと僕の領土は辺境にある関係上、余っている土地は多いからなんとなる。なんとかなるんだけど、リュミエールはひとつ大きな問題を忘れている。
「僕の土地に家を買っても、一人で大丈夫……?」
「そりゃあ大丈夫だよ。だって私は大人のお姉さんだよ? 余裕も余裕よ」
リュミエールはない胸を張る。その姿は一見すると頼もしいが本当だろうか?
「本当に? 今はお忍びという形でジャポリに来ているのだから、食事を作るにも洗濯をするのも全部1人でやらないといけないんだよ? それも生きている間は一生。誰かを雇うのもいいかもしれないけれど、すぐにお金無くなっちゃうかもよ? そうしたら、どこかで自分でやらなきゃいけないタイミングもあるかもしれないなぁ」
食事を作るのも突き詰めると楽しいけれど、リュミエールは将来の夢はダラダラ暮らすことと言っていた。だからそもそも食事を作るというダラダラからかけ離れたことはきっとしたくないだろう。
「え!? それは嫌すぎる! 後生! アーク殿!! 養って!」
大人のお姉さんとは思えない手のひらの返しに僕は笑ってしまった。
「養うのは構わないけれど、正妻は私だからね?」
「いやいや、ラティ……まだ僕達は結婚できる年齢じゃないからね」
そんなことを言ってしまえば、リュミエールは屋敷に住み着いてしまう。僕は別に構わないけれど、教団との少なからず揉めてしまうだろう。
教団から何か言われても僕ではどうしようもないかもしれない。今の時間はリュミエールの助けになってあげたいとは思うけれど。
「ねぇ、アーク君。ちょっと私も買いたい物を買ってきてもいい? すぐに戻るから」
「分かった。それなら、あんまり遠くに行かないようにするね」
「ありがと! なるべく早く戻るようにするね」
「気を付けてね」
「あ、アーク君は他の女の子につられちゃダメだよ? アーク君も気を付けてね?」
「つられたことないけど!?」
僕とラティはそんな軽口を叩き合う。
「あ、あの私はラティと一緒に行っても……い、いいですか? 何かあった時のために……アーク様がいれば……り、リュミエール様は大丈夫ですよね?」
「うん。大丈夫だから行っておいで。ラティのことよろしくね」
「は、はい! ま、任せて下さい!」
ユリナは両手でガッツポーズをして少しだけ鼻息を『フンス!』と荒げる。気合は十分なようだ。
「え? アーク殿の護衛は?」
リュミエールは少し慌ててユリナに問いかけるが、ユリナは何を言っているの? と言わんばかりの表情で応える。
「? アーク様の護衛ですか? 少なくともこの王国で一番強いですから……ど、どちらかと言えば……わ、私が護られる側になってしまいますよ?」
「……すごい信頼だね」
「はい! しょ、召喚された悪魔と戦った時のアーク様はすごかったんですよ!? そ、それでは私はい、行きますね? ら、ラティ~~私も行くので待ってください~!」
ユリナはラティの後を追いかける。盗賊のジョブの恩恵か、すぐにラティに追いついてしまった。
そうなると、僕とリュミエールは二人きりになる。ラティはすぐに戻ってくると言っていた。だったら、リュミエールの好きなように出店を周っていこうと思う。
「じゃあ、アーク殿! 折角二人になったことだし? どうする?」
「リュミエールが気になった食べ物のお店を巡るとかどうかな?」
「いやー! 最高だね! これからさらに街を楽し――」
「――おい、そこのガキ! 俺を誰だと思ってんだ! あぁ!?」
リュミエールの言葉をかき消すほどの怒号に振り向くと、酔っ払いの男が僕の領民である女の子に手をあげようとしていた。




