第41話 ユリナの年齢/ザマール公爵との再会(sideカンユウ)
「だめ。私、ここに住む」
領主の間の部屋。リュミエールはダラダラと寝転びながら言った。
僕とラティ、そしてリュミエールは食事をした後の話。リュミエールはラティとお風呂を堪能した。
僕は女の子ではないので、ラティとリュミエールの二人がどのような話をしたのかは分からない。しかしながら、
「せめてソファで寝なよ」
リュミエールはうつぶせの状態で床に寝転んでいた。ソファではなく床に。
正しく言えば、床ではなくカーペットの上なんだけど……それにしてもお風呂上りで寝転ぶのはどうかと思う。
「今、私は動かないよ。このカーペットが私を離してくれないから」
リュミエールは【それなりのカーペット(SSS)】に張り付いていた。
これは喜んでくれていると思って良いのだろうか? いや、それは純粋に嬉しいのだけれど。
リュミエールは……うん。完全にダメになっている。
「むしろこんな良いカーペットに寝転がらない方が罪だと思う。アーク殿もどう? 一緒に寝転ぼうよ」
「おっと、それは私が許さないかな?」
ラティがリュミエールの発言に待ったをかける。
「じゃあ、みんなで寝転べば解決じゃない?」
みんなでカーペットに寝転ぶって……それだったら普通にベッドに寝転んだ方が良いのではないかと思う。
「それは流石にはしたないし……それにアーク君をそう簡単に渡す訳にはいかないよ?」
「いやー、私の愛は平等だからなー。でも意外とラティは言うんだね」
「リュミエールが友達で良いって、言うからには……ね?」
「よきよき。そういうのは嬉しいかな」
挑発的なラティに対して、リュミエールは笑顔で返す。
リュミエールはカーペットをゴロゴロしながら、
「ほら、私は聖女になってから、私に対して一線を引いてるから、こうやって友達感覚で話かけてくれるの、気を遣わなくていいんだよね~。ほら、気を遣うと疲れちゃうから」
「あー、その気持ちは分かるかも。私のパパは自由にさせてくれるけど、普通の人は王女と聞いただけで遠慮するからね。リュミエールも大変だね」
「おっ!! 分かってくれる!? 嬉しいなぁ」
身分が高すぎる故の弊害。こればかりは理解できる人は少ないのだろう。
幸い、僕の場合は公爵の三男として過ごしてはきたが、周りにすごく恵まれたおかげで窮屈に過ごす事はなかった。ラティとリュミエールの性格の問題もあるのだろうけれども、
「あ、あの……失礼を承知で申し上げますが……ソファで寝た方が気持ちいいと思います、よ……??」
ユリナが恐る恐るといった感じで、リュミエールに進言する。
「うっそだ~? このカーペットめちゃくちゃ寝心地良いけれど、それよりも寝心地がいいの~?」
「そ、それはもうすごいですよ!」
「本当に? じゃあ運んで??」
ユリナは『い、いいんですかね……?』と僕に目で訴えた。
「ユリナ。大丈夫だよ。多分ラティと同じような感じに接すればいいから」
「そ、それじゃあ失礼します」
ユリナはリュミエールを軽々と持ち上げる。
こうしてみると、姉妹のようにも見えなくもない。そんなことを言えば、ユリナの姉であるハルカに怒られそうではある。しかしながらリュミエールがユリナに持ち上げられてるところを見ると、完全に年上の威厳はない。
「そういえば、ユリナっていくつなの??」
僕はふと気になった疑問をユリナにぶつけた。失礼だと思うが、今に至るまで聞いたことは無かった。
「わ、私ですか……? 今年で17になりますが……?」
「「え!?」」
僕とラティは驚きを隠せなかった。背の高さやオドオドした感じから感覚として年下だと思っていた。だけどジョブ授与の儀は14才にならないと受けられない。だから僕達と同い年だと思っていた。
「そ、そんなに驚きますか……?」
「ご、ごめん。勝手に同い年だと思っていたんだ」
「え? あ、謝らなくていいですよ? 私はアーク様のメイドですから、今まで通りに接してくれると嬉しいです……」
「私は変わらず接するよ?」
「あ、嬉しいです。ラティ」
ユリナは『えへへ』と笑う。ユリナとラティはとても仲が良い。ラティが身分の差を感じていないことも要因だろうけど、
「あ、アーク様も変わらず接してくれると……う、嬉しいです!」
ユリナは上目遣いで僕に言う。たしかに、急に態度が変わったら嫌かもしれない。
「ユリナがそれを望んでいるなら……構わないよ」
「え、本当ですか? え、えへへ……ありがとうございます」
ユリナが満開の笑顔を見せる。今更だけど、出会った時に頬にあった傷は目立たなくなっていた。とても良い事だと思う。
「ユリナ。綺麗になったね」
「!?? えっ!? そそそそそ! そんなことないですよ!」
「アーク君!?」
「え? どうしたの?」
ユリナは慌てふためき、ラティはとても驚いていた。
「あ、あの……き、綺麗って……あ、待ってください。言い間違いかもしれないので、このまま、ゆ、夢を見させてください。う、うへへ……」
ユリナは蕩けたような表情をする。少し早口なのが気になるけれど、
「ねぇ、アーク君。私は?」
「え? ラティは普通に綺麗だよ?」
「もうアーク君ったら……好きっ」
ラティは自身の頬に手を当てる。指の隙間からでも頬が赤くなっているのが分かる。そういう仕草をされると、妙に照れに近い恥ずかしさを感じる。
「返答に次第では、明日一日の間、アーク君が嫌でもべったりしてたのに」
「いや、嬉しいけど……周りの目とかあるよね……?」
予定ではリュミエールを案内する予定だ。可能な限りジャポリの街を楽しんでもらえるように。
「だから我慢してあげる。明日はリュミエールも含めて皆で楽しもう?」
「そうだね」
ラティの言うように明日はみんなで楽しみたい。そっちの方がきっと楽しい一日になるのだから。僕も少しワクワクしてきた。
一方その頃、リュミエールは【よさげなソファ(SSS)】で爆睡していた。だから僕達のこの一幕は何も聞こえていないようだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ようこそクロイド帝国へ」
ここはクロイド帝国の帝王の間とよばれるところ。クロイド帝国の王、クロイド・ユーリウス帝王がグラスを掲げていた。
立食式のパーティにはまだらに多くの人がいる。その中で元聖職者である私、カンユウは晩餐のもてなしを受けていた。
私にとってクロイド帝国は外国人だ。そんな中で見知った顔の男と目が合った。内心安堵に近い感情を得る。それは見知った顔の男も同じようだった。
私はその男に声をかける。
「あなたは……ザマール公爵様……どうしてこちらに?」
あの剣聖のジョブであるザーマル公爵がどうしてここにいるのだろうか。本来、カーバンクル王国とクロイド帝国は敵対している。
「おぉ……カンユウ殿。ずいぶんと久しぶりだな。貴殿も呼ばれたのかな?」
「そうですが……公爵様は何故?」
「それはまぁ……王国に見切りをつけてな……」
「王国に見切り……ですか」
そういえば、ジャポリの領主――アークはザマール公爵家の三男だったはず。
剣聖の資格がなく勘当されたと聞いたが、結果として、アークは王族に媚びて本来公爵の土地である領土を奪ったあげく、王国から毎年貰える俸禄の金額も下げられたと聞いた。しかも最近は大量のモンスターが屋敷を襲って、なんでも屋敷は半壊したらしい。
対してアークは今では魔法石の取引や観光事業で金はそれなりに持っているだろう。だけど資金提供などまるでしていない。
仮にも育て親に仇をなせど、恩は返さない……やはり、アークというやつは悪だ。公爵様が王国に見切りをつけてもおかしくはない。
「カンユウ殿はどうしてこちらに?」
あの忌々しい聖女と共に私に恥をかかせたのだ。絶対に赦すべき存在ではない。私の中の神もそう仰っている。
「それは私も教団に見切りをつけまして」
本当ならば聖女に懇願して聖職者のままでいることもできただろう。
しかし私はその選択を取らなかった。腹が立っていてしかたがないから。こちらから願い下げだ。もはや私から辞めたようなものだといっても過言ではない。
「そうか。お互い思うところはあるのだな。しかしお互いの向くべき方向は一緒だとはな。今後ともよろしく頼むぞ」
公爵様と言ったが、今後の展開次第はザマール公爵よりも私の方が偉くなる。まぁ今だけ。今を我慢すれば、逆に頭を下げさせてやる。あぁ、本当に楽しみだ。
「――帝国の未来に乾杯!」
「「「乾杯」」」
気がついたら、クロイド・ユーリウス帝王が乾杯の音頭を取っていた。
銀のグラスがまるで祝福のベルのように綺麗な音を奏でる。
あぁ、私の未来に乾杯。
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