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80話 4月29日 犯人考察。

「あれは、かなり悪質だね」

 昼休憩の時間、食後の紅茶を飲みながらライルが言った。

「本当に。いったいどちらにお住いのどなた様が、あのようなことをなさったのかしら」

 ライルのとなりに座るアルテアも、ため息をつきながらティーカップを手にする。

「卑劣と言うか何と言うか…。言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに」

 ファルシナは、目に見えて怒っている様子だ。

 それにライルがうなずいて言う。

「午前中のうちに、ここ数日、不審者がうろついていなかったかを警備担当の騎士に調査させたんだけど、外部から何者かが侵入した気配はないようだ」

「だとしたら、犯人は、学園内にいる誰か、ということになりますね」

「まあ、そうだね」

 ライルの正面に座るクライヴが立てた予想に、ライルも同意する。

「この学園の警備体制から言って、その可能性はかなり高いと思うよ」

「………」

 確かに。とディアナも思った。

 この学園には、出入り口をはじめ、いたるところに魔監視鏡が設置されていて、不審者や不審物のチェックがなされているし、それ以外にも常駐の騎士たちが頻繁に見回りをしている。忍び込む形で学園に侵入するのは極めて難しいだろう。

 ちなみに、騎士の見回りはともかく、魔監視鏡が設置してあることは、生徒たちには秘密にされている。のになぜディアナが知っているかというと、それはもちろんゲーム知識からだ。

 ゲームの中では、ヒロインが、悪役令嬢たちにされたいやがらせを証明するために使われた。

 なので、魔監視鏡がどこに設置されているのか、知っている場所もある。昇降口とか、階段には一階ごとにとか、焼却炉のそば、とか。

 そのほとんどが、壁の一角がもはや魔監視鏡だったりするパターンだ。

 ぱっと見わからないようになっているけれど、よくよく目をこらせば壁に細工されていると気づく。

 そうやって調べてみて、ディアナもすでに何か所かは魔監視鏡を見つけていた。

 ……しかも、アルテアさまが第一王子の婚約者だから、防犯強化のために、特化生クラスの目の前にも魔監視鏡がついている。それは確認してある。……もし、警備の騎士の方が、そこも確認した上で、外部犯の可能性は少ないと言っているのだとしたら――――――!

 ディアナは、自分の立てた予測に、背筋を凍らされた。

 ……犯人は、クラスメイトの誰かの可能性が、高い。

「………」

 ……でも、どうしてわたしがいやがらせを受けるの? わたしはただの悪役令嬢Dなのに。……もしかして、ゲームの中でも、何かしらのいやがらせを受けていたとか? あ、ありうる……ゲームの悪役令嬢Dって、自分が成り上りたいばっかりに、国の情報を他国に売っちゃう子だから、相当自分勝手だったろうし。

「ディアナ? 大丈夫?」

「…っ! は、はいっ」

 思考の海に思いきりダイビングしていたディアナを呼び戻したのは、となりに座っていたクライヴだった。

 心配そうにディアナの顔をのぞきこむクライヴに、ディアナはぷるぷると首を振る。

「わたしは、もう大丈夫です。医務室のベッドの上で、クライヴさまにたくさんなぐさめていただきましたから」

 もうこれ以上クライヴに心配はかけたくないと、ディアナは必死で元気アピールをする。が。

「えっ?!」

「なぐ…さめる……」

 ディアナの言葉を聞いて、ファルシナは大きな声をあげて身を乗り出し、アルテアは口もとを押さえながらぽそりと呟いてディアナたちから目をそらす。

「……? あの、何か?」

 二人とも、いきなりどうしたのだろうか、とディアナは小首をかしげる。

「お二人とも、すこしお顔が赤いようですけれど……」

 右隣りに座るファルシナと、ちょっとななめお向かいにいるアルテアの顔を、交互に見るディアナ。手や首の色にくらべて、明らかに顔が赤いのがわかる。

「! まさか、お風邪でもお召しになりましたか? だったらすぐに医務室へ…!」

 二人を心配し、あわてて立ち上がろうとするディアナをファルシナが止める。

「いいえ! 大丈夫です! 風邪ではないので!」

 ファルシナの言葉に、アルテアがうなずく。

「ええ。すこしあてられてしまっただけですわ」

「え? あて…?」

 顔のそばで手をぱたぱたと振り、風を送り込んでいるアルテアが発した言葉の意味を理解できず、ディアナはまたしても小首をかしげる。

「え、えっとですね…」

「紅茶を飲んだせいで、体が熱くなったんじゃない?」

 困りつつも、真面目に説明しようとしているファルシナの言葉をぶった切ったのは、ライルだった。

 ファルシナの会話をさえぎるライルの行為に、ちょっと不快感を覚えたディアナだったけれど、どうやらファルシナは違ったようだ。

「あ、ええ! そう、そうなんです! ね、アルテア様っ」

「ええ、今日のお茶はとてもおいしいので、飲み過ぎてしまったかもしれません。おほほほほ…」

 すかさずライルの意見に乗っかった二人を見て、単に、ディアナに説明する言葉が見つからないでいるところに、ライルがフォローを入れたのだと理解する。

 ……そっか。ライルさま、いい人………かも…?

 ディアナが、納得したようなそうでもないような気持ちでいる間に、ライルが話を本題に戻す。

「で。今回の事件だけど、犯人は、警備の騎士の目にふれても、魔監視鏡に映っても疑われることのない人間の犯行だと思ってる」

「………と、いうことは…」

「……つまり…」

「一年の特待生の中に、犯人がいると、殿下は予想されている訳ですか」

「そういう事」

 アルテアとファルシナのつぶやきに、クライヴが乗せるように問い、ライルがそれに答える。

「………」

 ディアナは、口にこそ出さないものの、やっぱりそうなんだ、と再認識した。

「そんな訳で、これからは、二つの線から探って行きたいと思ってる」

 ライルは、左手を皆の前に出し、二の形を作った。そして、まず人差し指を折る。

「ひとつは、犯人のターゲットが特定されていないケース。こっちの場合だと、次があるとしても、誰が狙われるかわからないから、今出来るのは、警備を強化することくらいかな」

「そうですね」

 クライヴが同意し、他の三人も、こくりとうなずく。

 全員が納得したのを見て、ライルはもう一本の指を折った。

「もうひとつのケースは、ターゲットがサルーイン嬢ひとりの場合」

「…!」

 ライルの言葉に、ディアナは息を飲み込んだ。

 自分で、狙われているかもしれないと認識はしたものの、冷静な立場にいる第三者から言われると、真実味が帯びて来る。

「………っ」

 思わず身を硬くするディアナのとなりで、かたり、と椅子を動かす音がして、背中にあたたかいものがふれる。

「…クライヴさま…」

「……」

 ディアナの背中に腕を回したクライヴは、彼女の問いかけにやさしく微笑む。

 それから、何かを決心したかのように、ライルを直視した。

「ライル様、おれを生徒会役員から外していただけませんか? なるべくディアナの傍にいたいんです」

「ええっ?!」

「はあ?」

 クライヴとほほ同時に声をあげたディアナとライル。けれどもその表情は対照的だ。

 ディアナは、驚きの中にもうれしさが込み上げてきてしょうがない、という顔だし、ライルの方は、この忙しい時にナニイッテンダコイツ、と言わんばかりに口元をひきつらせている。

「却下」

「理由は?」

 素っ気なく結論を出すライルに、クライヴはひるまなかった。

「理由? そんなの決まってる。お前以外に文化委員長の適任者がいないからだよ」

「わたしの力を買ってくださるのはうれしいですが……、それなら、いっそ生徒会役員の人員を増やしては?」

「一人や二人で、お前の穴を埋められるか」

「では、三人に増やせばよろしいのでは」

「できるか、そんな事」

 ライルは、クライヴの意見をばっさりと切り捨てると、語尾を強めて言った。

「いいか? おれは、生徒会長から、生徒会役員の人事を一任されている。お前を役員から外す気はない。そんなに心配なら、お前がサルーイン嬢と一緒にいるんじゃなくて、サルーイン嬢がお前といればいいだろう」

「しかし、役員の仕事をしている間は」

「生徒会室の奥に、今は使っていない個室があるだろう。サルーイン嬢にはそこに居てもらう」

「えっ!」

 予想外のライルの提案に、ディアナは思わず大きな声をあげた。

 ライルは、そんな彼女をじろりとにらむ。

「何だ?」

「いえ、その……」

「言ってみろ」

 言い淀むディアナを促すライル。いらただしげなその口調に、今は言わないでいる方がかえって機嫌を損ねると思ったディアナは、おずおずと口を開く。

「えっと…、生徒会室に長時間滞在するとなると……、その……緊張すると思いますし…」

「サルーイン嬢、君は将来辺境伯を継ぐんだろう? なら、他の上位貴族や王族との交流にも慣れておいた方がいい」

「ええっ…! でも、うち田舎ですから、そんなに頻繁に王家の方とお会いすることはないと思うのですけれど………」

 現サルーイン領当主の母だって、一年に数回王宮に行くくらいだし。そう思って言ったディアナの言葉を、ライルは完全に否定する。

「少なくとも、現当主よりも機会は増えるさ。クライヴを夫にするならね」

「えええーっ」

「……君ね…。いくら学園で身分の差は問われないとは言え、王族を目の前にして会うのは嫌だとはっきりアピールするなんて、いい度胸してるじゃないか」

「いえ、王族の方みなさまというわけではなく、ライルさま限定です。……あ。」

「………へえ…。ますますいい度胸だ」

 うっかり出てしまったディアナの本音に、ライルはひくりとほおをひきつらせる。こめかみにも青筋が入っているのを、ディアナは見逃さなかった。

 ……しまった、怒らせた…!

 そうは思うもすでもあとの祭り。ライルは口角をあげて、引きつったほおを持ち上げると、ふざけんなよ、とばかりに、ぎろんとディアナをにらみつけた。

 ……ひいっ…!

 思わず、目の前にあるクライヴというぬくもりに体を寄せるディアナ。するとクライヴは、うれしそうな笑顔つきで、ディアナをさらに抱き寄せた。

「…チッ」

 そんな、らぶらぶきゃっきゃっな成立したてのバカップルに、忌々し気に舌打ちすると、ライルは一気にまくしたてた。

「とにかく! クライヴが生徒会の仕事をする時は、サルーイン嬢が生徒会室に滞在することを許可する! 何だったら、アルテア嬢とオランジュ嬢も一緒に来るといい! クライヴ! 多少の融通は利かせてるから、なるべくサルーイン嬢の傍を離れるな! それと、寮を含めて警備の数はもちろん増やすが、サルーイン嬢は出来る限り一人にならない事! いいな! じゃあ、解散!!」

 ライルは、めずらしく語調を荒げて今後の対策を述べると、さっさと話し合いを終わりにし、ひとりで東屋から出て行ってしまう。

 肩をいきり立たせるライルの背中を見送りながら、アルテアがぽつりとつぶやいた。

「……まあ…。ずいぶんと、ディアナ様のことを心配していらっしゃるのねえ……」

「本当に…」

 ファルシナは、ライルの剣幕にいまだ驚きながらもうなずいた。

 クライヴは、先刻までライルが座っていた席に視線を向けながら笑顔を浮かべる。

「一見淡泊な行動を取られますが……。実は情の厚い方です、殿下は」

「……ええ。その通りですわ」

 アルテアは、クライヴの言葉に深く相づちを打ち、微笑んだ。

 その笑顔があまりにもきれいで、けれども、どこか寂しそうで。

 ディアナはしばらくの間、アルテアから目を離せなくなってしまったのだった。

次回タイトルは、『ディアナの騎士…?』で~すっ。


ディアナ「騎士がいるなんて…! 何だかわたしお姫さまっぽい…?!」

ライル「お姫様と言うより小動物かな」

ディアナ「なぬう?!」

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